朝の騒動
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翌朝、ミキストリアは朝食を終えると、祥子と共に、サラとヒラリーを連れて再び孤児院へ向かっていた。孤児院は隣接するとはいえ少し離れているため、石を敷いた通路が整備されている。と、教会の落ち着いた雰囲気を壊す喧騒が飛び込んできた。
「やめろよ! 何でそんなことするんだ!」
「何でって、お前だってここの生活が不自由で嫌だって言ってただろ。やっとチャンスが巡ってきたんだ、止めるなよ!」
「やつらが俺たちをどう見てるかはお前も知ってるだろ!」
「それが変わったって話じゃねえか」
「そんな急に変わるもんか! おやっさんも何で止めないんだよ!」
「この町の暮らしが不自由なのは俺も身にしみてるからな。俺はもう歳だがこいつにはチャンスがある。危険がないとはいえないがチャンスがあるなら行かしてやりたいんだよ」
「そんな! 出て行ったやつで帰ってきたやつはいないのはおやっさんも知っているでしょう! 外はダメだ!」
「そいつらはいい暮らしをしているから帰ってこないだけさ」
「フレン、バカなこと言うな! 考え直せ!」
「リリアン、シルエッテ。サラとヒラリーを連れて先に行っててくれるかしら」
大声で言い合う現場に動揺しているサラとヒラリーを見て、祥子が指示を出す。
(祥子はいつも子ども達のことを先に考えてくれるので頼もしいですわ)
騎士も二手に分かれてサラとヒラリーを追っていくのを見て、ミキストリアは気分を切り替えた。
「マーク、あの虎さん達はどうしたのでしょう」
「ミキストリア様、先ほどから人が集まりだしたので調べさせていたのですが、どうやら……」
マークの解説によると、この町の生活は困窮するほどではないが余裕があるわけでもなく、時折訪れる交易船がもたらす品は半島や本土での良い暮らしを表すものとして羨望の的になっている、と。交易船も定期的な便があるわけでなく、補給の必要に迫られて止むなく寄っているだけで、その時に不要な品、あるいは優先度の低い品を置いて行っているに過ぎないのだろうと。
過去の迫害の記憶と伝承から、島を出ようという人は少ないのだがそれでもここ数年少しはあり、また最近は増えているようだ、と。その理由としてとある侯爵家に仕えている猫人が大事にされていることによるという。実際には普通に従者として扱われているだけのようなのだが、差別や迫害が当たり前な半島での生活を知る獣人族からすると普通の扱いでも大事にされていると思うらしい、と。
「実際はどうなのです?」
ミキストリアが聞くと、マークは困ったような顔で続けた。
「場所による、というところでしょうか。ご存じの通り、王都や侯爵領では獣人族もハーフエルフもごく普通に暮らしています。うちの騎士や魔術師にも居ますから」
「そうね。お父様はそんな差別はお許しにならないわ」
「はい。また辺境伯の領はどこも実力主義ですから偏見や差別もないということですが、地方の下位貴族や半島ではまだまだ差別や蔑視も残っていると聞きます」
「そうなのですね……」
「じゃあ、あの虎さんも大丈夫ってこと?」
「ショーコ様、それが難しいところかと。それこそ辺境伯や王都、うちの領に行くのなら問題はないでしょうが、半島に行くのであれば話も変わってくるかと」
「でも、わざわざひどい扱いをされるとわかっていて半島に行く人もいないわよね?」
「それがまた厄介なことなのです」
「「え?」」
「ミキストリア様の新しいお仲間の噂はかなり広がっているようでして、真似なのか対抗なのか、一部の貴族の間では獣人を召し抱えることが流行っているようなのです」
「それって良い事なんじゃないの?」
「普通に従者や侍女としてなら良いのですが……」
「普通ではないことがあるという事ですの?」
「まさか!」
「ええ、夜の奉仕役とか不法な賭け決闘などを強制させられているという噂もございまして……」
「……」
「お二人のお耳に入れるような事ではないのでお伝えしてきませんでしたが、夜の奉仕も決闘もそれ自体では不法にはなりません。名誉に適うことでもないですが。どうやら無理矢理、あるいは騙されてやらされるということが多いようで」
「なんて酷いことを……」
祥子が毛を逆撫でされた猫のような表情で唸った。
「ええ。ただ外部の者には騙されたのか合意の上か計り知れませんし、噂という形でしか流れてきておりません」
「火の無いところに煙は立たないって言うじゃない!」
「ショーコ様、それはお国の言葉ですか? まさにその通りなのですが、煙だけで放火と決めつけるわけにもいかず、手の打ちどころがないのです」
「そんな……」
ミキストリアは落としていた視線を上げた。
「マーク、この件は少し踏み込んで調べてくださる?」
「承知いたしました」
「酷い目にあっているかもしれない獣人がこの島出身であれば、それはわたくしの領民ということ。そうなれば無関係ではありません。必要であればわたくしの名前を出すことも構いません」
「承知しました」
「それからあなたはもう執事になったのですから、細かな話は従者にやらせるべきですわよね? 新しい従者の選定はどうなったのでしょう?」
「そちらも進めておりますが、こうして私がお側で動いた方が早いもので」
「マーク? それはならぬとトーマスに言われていましたわよね?」
「あ、え、はい、従者の件も進めますのでトーマスさんには内密に……」
「私たちが次にトーマスに話す機会があるうちに決まるといいわね」
ミキストリアは横から祥子が言うのを聴きながら、頷いて笑顔をマークに向けるのだった。
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