初めての買い物
「お金のことだけど、元々予定していた店でベーシックなものを買うのはわたしが出すわ。
それ以外のお店で、ミキが気にいるものがあったらそれはミキのお金で払うというのはどうかしら」
「ええ、祥子のアドバイスの通りにしますわ」
祥子がお金を出すことを止められないと悟ったミキストリアは、逆に自分のものとなったお金で何ができるかということで頭はいっぱいだった。祥子に何を返してあげられるか、喜んでもらえるのか、不安もあったが楽しみも大きかった。
「通帳からお金を引き出すまでは立て替えるから大丈夫。
そうなると財布と財布を入れるバッグも要るわね。それも気に入るものを見つけましょう」
祥子はミキストリアを連れて、次々と店を回った。ファーストファッション大手ユニ○ロでTシャツにブラウス、カジュアルパンツ、ジーンズ、インナー、靴下を複数ずつ買う。スカート、ワンピース、パーカーはこれというものがなく1つずつ。ミキストリアは服の種類が多いことに圧倒されていた。
「さぁ、次はザ○に行くわよ。でもその前に荷物を車に置きに行ったほうがよさそうね」
大きな袋を両手にそれぞれ持っているお互いを見て、祥子が笑った。
「収納しますわ」
「いやダメよ。外の、人目のあるところではダメよ」
「人目のないところなら問題ありませんわね? どこかにありませんか?」
「人目のないところ? 駐車場…って意味がないから階段?」
階段は店のすぐ近くにあった。数段上がると他の人の視線から外れる。
「今よ!」
祥子が言った瞬間、ミキストリアは全て収納に入れた。
「便利ねぇ」
祥子が感心したような、呆れたような声で言った。
その後、同じフロアにあったトリ○プで下着を買う。その後も、AB○でスニーカーとカジュアルシューズ、ザ○でワンピース、スカート、ブラウスなどを買い足した。ザ○では少し慣れてきたかミキストリアも自分で選ぶようになった。
これ以外の店で気にいるものを見つけるという案だったが、そもそも店が多すぎ、品も多すぎ、ミキストリアには選べず、また今度ということになった。もっともミキストリアは自分のものというより祥子に何かと考えていたので、気にいるものが見つかる可能性はなかった。
「ふぅ、色々買ったわね」
カフェで紅茶のケーキセットを頼んで休憩しながら祥子が言った。荷物は全て収納している。
「店も商品も沢山あって眩暈がするようでしたわ」
「最初はそうかもね。すぐになれると思うよ」
「そういうものですか?」
「うん。自分の好みがはっきりしてくると行く店と行かない店が出てくるし、行ってもちょっと見て違うなって出てきたりね。全部の店を回るなんてできないしね」
「今までは素材や色、形を選んで作らせるのが普通で、それしかしてなかったので、完成品を選んで買うのは新鮮でしたわ」
「わたしにとっては作らせるというほうが新鮮よ。で、この後なんだけど」
と祥子が切りだした。
ミキストリアに渡すお金ができたので、今日の計画を変えようということだった。ミキストリアの銀行口座を作るとか、そのため身分証明が必要だとか、それは時間がかかるのでそれまでの間、祥子名義のクレジットカードを使うのがいいとか、ただ問題もあるのでキャッシュレス決済できるようにスマホを買うのはどうかと言うことだった。
「だから、ミキ用に新しいスマホ買おうと思うの」
「なるほど。全くわかりませんわ。まぁ、祥子がそう言うのなら」
祥子は詳細な話をしたのだが、ミキストリアにはさっぱりだった。お金を支払うためにスマホが要るとう理屈はミキストリアには理解できない。そもそもスマホが何かということからわからない。
「最初はさ、ベッド買うって考えてたわけだけど、どっちの家に住むかで選ぶベッドも変わると思うのね。だからそれを決めてからの方がいいわ。
じゃ、出よっか。
あ、来店予約入れた方がいいわね」
ミキストリアは、祥子がスマホを取り出して何かするのをぼんやりとみていた。あの小さな板のようなもので、お金の支払いができるとか、遠くの人と話ができるとか、どんな冗談だろうか。インターネットがどうこうとも祥子は言っていたが意味がわからなかった。精霊が入っていてなんでもやってくれると言われたほうが納得できそうだった。
「これでOKっと。
って事でデパートへ行くわよ」
「もう色々とお任せしますわ」
「任せて!」
ミキストリアが諦めたようにそういうと、祥子はにこやかに笑って請け負った。
2人は車に戻り、祥子の運転で横浜にあるデパートへ向かった。
「財布は良いのを使えっていうのがうちの親の教えでね。わたしもそれには従ってる。
で、おすすめのお店がは4、5こあるから見ていきましょう。気に入れば買えばいいし、気にいるものがなくても別の店もあるから平気よ」
「祥子はどの店のものを使っているのです?」
「わたしはBよ。ちょっと高いのだけれど仕事がうまく行った時の記念で買ったの」
「そこから見たいですわ」
と向かっては見たが残念なことにミキストリアの琴線に触れるものはなかった。品質は目を見張るほど素晴らしいのだけど、何か違う、という気がしていた。
「さすが侯爵令嬢は見る目も厳しいわね」
「その、侯爵令嬢というのも言わないほうがよろしいのではなくて?」
「そ、そうね、まぁ、次の店に行ってみましょう。Tはわたしも好きで名刺入れにつかっているのよ」
鮮やかなブルーの財布を見つけて、ミキストリアは即決した。
「これは素晴らしいですわね。色も素敵です。これにしますわ」
「うん、ミキに似合ってるよ」
祥子も太鼓判を押してくれた。ミキストリアは自分の選択が良かったことを祥子に認められて嬉しかった。
「ミキ、こっちに同じ色のバッグもあるよ、どう?」
バッグも即決した。
スマホも祥子が使っているものと同じものでブルーのものがあったので、それもミキストリアは即決した。そのあと細々とした手続きを祥子がしていたが問題なく進んでいたようだった。
流石にくたびれてきたし時間ももう遅いので、今日の買い物はこの辺までにしようと祥子が言い、食事をして、祥子の家に戻った。
ミキストリアは、今日も祥子と一緒にお風呂を使うつもりでいたのだが、顔を赤くした祥子に断られた。
「一緒に入って色々と教えてくださいませんの?」
「ミキ、習うより慣れろって言ってね、自分でやってみるのがいいよ。失敗してもいいんだし、そもそも、お風呂に失敗とかいないでしょ」
ミキストリアは妙に残念な気持ちで一人お風呂を使った。どうして一緒に入ろるのが当たり前と思ったのか、なぜ1人だと残念なのか、ミキストリアにも良くわからなかった。
ミキストリアがお風呂から出ると、祥子は新しいスマホを使えるように準備してくれていた。祥子は、設定画面、ロック解除、顔認識、AIアシスタントの使いかた、アプリの使い方を細かくミキストリアに教えてくれた。
スマホの使い方を教えてもらう間、全てのことが驚きで、興奮もしたが、ドキドキする心臓がこの経験したことのない未知のスマホが自分の手にあるからなのか、祥子が心臓の音が聞こえてしまいそうなほどそばにいて説明してくれるからなのか、ミキストリアには良くわからなかった。
祥子が横にいるというだけで、ミキストリアはこの先もうまくやっていけるだろうと、そんな風に思っていた。
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