ダンジョン 5F 3
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「分かったかぇ?」
ラミーアが子どもに言うようにジェフリーに言う。確かに600年以上も生きている人外からすれば全ての人族は子どもに見えるだろうと、ミキストリアは苦笑いになる。
「ジェフリー、そう言う事ですわ。わたくしたちとは別の理の中の人。わたくしたちの考えを押し付けてはなりません」
「……はっ」
ラミーアの眼にはミキストリアの言葉を面白がるような光があった。
「ラミーア? わたくしも陛下とお呼びすべきかしら」
「ははは。面白いことを言う。ミキストリア、見ての通り予は女王。だが悪しき謀に巻き込まれるうちに国も亡くなった。予の関わらぬうちにな。ステータスも元女王とあろう。恩もある。ラミーアで良い」
「ではラミーアと。その謀というのはステータスの封印解除と関係することかしら?」
「話せば長くなるがな」
(そうでした。戦いが終わったばかりだったのです)
「後で聞かせてもらいますわよ」
ミキストリアは言うと後ろに集まっていた隊員たちに声をかける。
「お疲れ様。大変な戦いでした。怪我をしている方は?」
「恥ずかしながら……」
「私も……」
「戦いで全く無傷ということはあり得ません。必ずどちらかが痛みを負うのです」
ミキストリアは名乗り出た負傷者にヒールをかけた。いつもは戦闘中に小まめにヒールをするカリンとコビーは、アンデッド相手ということで攻撃役として戦闘しており、他の人のヒールをしている余裕はなかった。戦闘後に怪我人が多くいるのは想定内のことであった。
「ここで休憩します」
ミキストリアはそう言うとお茶セット(お茶請けあり)を出した。スエーレがそれを受け取って準備を始める。
「ミキストリア、そなた、非常識な収納持ちであるな」
「ふふふ。便利にしていますわ」
お茶をすると聞いてクサントスが近づいてきた。鼻面を脇に当ててグリグリとしてくる。
「クサントス? わかってますわ。これですわね」
ミキストリアはブラッディペアを2つ収納から出すとクサントスの前に置いた。
「2つだけですわよ」
「ブヒン」
「なっ、それは!?」
ブラッディペアを見たラミーアが目を見開いて喰いついてきた。開いた手がワナワナと震えている。
(あぁ、ラミーアも人とはいえヴァンパイアの始祖。クサントスと同じくこれに惹かれるのですね)
ミキストリアはちょっと意地悪してみたくなった。
「これがどうかしまして?」
ミキストリアはクサントスが食べているブラッディペアに目をやって言った。2個のブラッディペアは見る間に無くなり、クサントスは地面に落ちた汁を舐めているのだったが。
「それはブラッディペアであろう?」
「ええ」
「もうないのかぇ?」
「まだいくつかありますけど」
「それを予にくれぬか?」
「良いですわよ。だたし、もう少しジェフリーたちとも仲良くしていただければ」
「む。予は馴れ合うことはせぬ」
「では、少なくとも無駄に衝突しない様お願いしますわ。ジェフリーたちもあなたもわたくしの味方。味方同士で力を削ぎ合うなど愚策。そうではなくって?」
「む。一理よな。承知した」
「では、これを」
ミキストリアはブラッディペアを2つ収納から出した。
「2つ? もっとないのかぇ?」
「ありますが、食べればなくなりますわよ。なくなれば楽しみも無くなりますわ。地上に戻るまで少しずつ楽しんだほうがよろしいのでは?」
「是非も無いことよ。ミキストリア、そなた地上に戻ったらこれを増やすのであろうな?」
ラミーアはブラッディペアを引ったくる様に受け取ると大事そうに食べる。クサントスが悲しげな眼でラミーアに食べられるブラッディペアを見ていた。
「ええ。幸い種もありますし、クサントスも好物ですので、栽培して増やそうと思っていますわ」
「その言葉しかと聞いたぞ」
ミキストリアは少し呆れた顔をする。配られるお茶を飲んで喉を潤した。
「まぁ。クサントスも欲しがっていますし、量が取れたらわたくしも食べてみたいですわ。
ところで先ほどの、悪しき謀とは一体何ですの?」
「長くなるが、そなたらは休憩も必要であろう。聞かせよう」
同じくお茶を口にしたラミーアが語り始めた。
はるか昔ラミーアは、ある国の女王ラミアとして国を治めていた。無くなった故、その国の名は口にはしない。ある時、ラミアは神に求められて妻になり、情を交わした。
ところがこの神には正妻がいた。その正妻は神々を統べる女王で、神々の住む神界を治めていた。この正妻は、怒り、ラミアの国を滅ぼし、ラミアを神界から追放した。件の神は何も言ってこず何の助けもしてこなかった。ラミアは悲観に沈みこみ、そのまま生を終えた。正妻はそれに飽き足らず、冥界の主を唆した。冥界の主はラミアを冥の海から引きずり上げると肉体を与えてダンジョンに押し込んだ。
その肉体は不完全なもので、本来ラミアが持っていた力は1/4しか発揮できないものであった。
「ミキストリア、そなたが予をラミーアと、少々異なるが正しい名前で呼んだことで予は本来の肉体と能力を得た、と言うことじゃ」
誰もが口を開かなかった。神話の中の話そのままだったからである。とても一度で飲み込める話ではない。
ミキストリアは手に持ったままだったカップからようやく一口啜ると目線を上げた。
「そうするとラミアの国は600年前にあったと言うこと?」
「もっとずっと古い話だ。予は621歳となっておるが、人間の世にいたのが20年、神界にいたのが600年、冥海から出て不出来な体に押し込められてここにくるまでが幾日といったあたりであるな。冥海に沈んでいたのは数千年であろうよ」
「…………なるほど。よくわからないけど、もうそこは良いですわ。
ラミーアは元の力を取り戻したと言うことですわね?」
「そうだ。この状態であればそなたたちに遅れをとることもないの」
「もうあなたと戦う事はありませんわ。ということは、この先のボス、スケルトンキングはあなたの敵でもありますわね」
「予を陥れた者の手先ということではその通りじゃな」
「敵はスケルトンキングとスケルトンロード3体。容易ではないですわ」
「ははははは。何を言うか、ミキストリア。骨など妄執と邪念で生を終えられない邪なだけの者。予が本来の力を持てば敵では無いわ」
「それは頼もしいですわね」
「この先、この下にダンジョンは無い。このダンジョンは今はここで終わりじゃ。さっさと骨を退治して地上に帰り、血の実を食べようぞ」
ラミーアは今すぐにでも戦いに行くかの様に立ち上がる。
「え、このダンジョンは5階まで? ちょっと落ち着いてくださる? まだ話は終わってなくってよ」
ミキストリアが宥めると渋々と言う顔でラミーアは腰を降ろした。
「なんじゃミキストリア。そなた知らずに潜っておったのか?」
「ええ、急にこのダンジョンの魔物が強くなって、それを討伐するために来たのですわ。ある程度討伐が進めば、強い魔物が地上に溢れることもなかろう、と」
「予もここに呼び出された故、なぜその様なことが起きたのかはわからぬ。が、このダンジョンが今はこの階までと言うのは間違っておらぬぞ」
「ボスを倒せばそれもはっきりする事ですわね。
ところでラミーア、あなた地上というけれど、地上に戻っても平気なのですか? 一説にはヴァンパイアは陽の光を忌避する、と」
ラミーアは顔を顰めた。
「ミキストリア、予とヴァンパイア如きを一緒にするでない。ヴァンパイアの連中はそう言ったこともあろうが、予にとっては陽の光はただ眩しいだけに過ぎぬ」
「そ、そう。それはよかったわね?
ところで始祖ということはラミーアの国はヴァンパイアの国ということ?」
「予は始祖、人にしてヴァンパイアを統べる真祖達の女王であるが、元々の国は人の国であった。国が亡くなった時に、何人か力の強い者が真祖になったのだ。今どこでどうしているのか、生きているのかも知れぬがな」
「そ、そうなのね」
「もう良かろう。そなたらもこのダンジョンのには憂いたであろ。予もここはうんざりである」
「ええ、そういう事ならさっさと終わらせましょう」
「予が骨の王と3つをやろう。ミキストリア、そなたたちも1つはやりや?」
「言われるまでもないことですわ」
ミキストリアはそう言うとMP回復ポーションを飲み干した。
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