ダンジョン 3F
3階へ降りるとそこは草原だった。振り返ると壁のような岩肌が聳えている。左右は地平線まで草原だった。前方の地平線に岩山が見えた。見上げても青空で、どう見ても地下のダンジョンの階段を降りて出た先の風景とは思えない。
「これが話に聞くフィールドダンジョンというもののようですわね」
ミキストリアは周囲で警戒する隊員に向けて言った。誰もが不思議そうに周囲を見回していた。
「ここから先は地図がないのですが、これでは地図を書きようもないですわね。
どこまでこのフィールドが広がっているのか分かりませんし、この広いフィールド上の全ての魔物を討伐すると言うのも現実的ではありません。
正面に見えるあの山を目指し、出会う敵を討伐しましょう」
ミキストリアはこれまでして来たように2列縦隊での進行を指示した。盾役2人、カテリンともう1人の近接戦闘役1人、ジャクリーンとスエーレ、ミキストリアとブーディカ、アビーとシルバン、カリンとコルビー、殿に盾1人と近接1人である。盾と近接は休憩毎にローテーションする。ブーディカは尻尾が長く縦列に入れない為、ミキストリアは列の中央、ブーディカは列の左に1mほど離れて位置する。ブーディカは四つ足で進んだ。
ミキストリアの全周サーチに反応するものがあった。ミキストリアがそれに集中し詳細を確認しようとする間にも、ブーディカはスルスルと進む速度を上げ、隊列を追い越して進んでいく。
「25m先にキラーマンティス、1」
ミキストリアが事務的に告げると周りで隊員が得物を構え直し、警戒態勢のまま進む。膝上の高さに茂る草でキラーマンティスは見えない。ブーディカも見えなくなった。時々草が揺れるが、風のせいか、キラーマンティスあるいはブーディカが動いたからなのか、ミキストリアには見分けられない。
7mほど進んだところで、キラーマンティスがいきなり立ち上がった。左前脚の鎌の先端がなくなっていた。ブーディカも立ち上がり、コピシュで右脚の鎌も切り落とすと、半回転して尻尾で打ち払った。倒れたキラーマンティスの腹にブーディカが食いつくとキラーマンティスが消えてなくなった。
「強ぇ……」
「マジかよ……」
「後衛の魔法使いじゃないの?」
出番がないまま一瞬で終わった戦闘を見せられてジェフリーとカテリン、シルバンが呆れた声を出した。歩くのも警戒するのもとっくの前に忘れている。
ブーディカが立ち上がり、握った右手を振った。
「さぁ行きましょう」
ミキストリアも呆気に取られた気分だったが、気をとりなおすように声をかけた。
その後も、キラーリカオンと2回遭遇したが、ブーディカはミキストリアとほぼ同じサーチ能力があるらしく、ミキストリアが発見するころにはブーディカも発見し、さっさと近づいて仕留めてしまうのだった。
キラーリカオン4体を瞬殺したブーディカに、ミキストリアは話しかけた。
「ブーディカ、ありがとう。助かるわ。
あなたが仲間として貢献したい気持ちもよくわかったわ。
これから先は隊員のみなさんと一緒にやりましょう。隊員のみなさんもお仕事をしたいのですわ」
ブーディカはギャイと鳴いて頷くのだった。
ミキストリアは草原フィールドを岩山に向かって歩み続けた。ダンジョンフィールドは太陽が見えないにもかかわらず、太陽があるかのように陽が動き影の方向を変えていた。見えない太陽が傾いてきた頃、ミキストリアは野営を宣言した。
スエーレが半径25mほどの範囲の草を風魔法で刈る。切り倒された草はミキストリアがクリーンする間も無く消えるのだった。
「クリーンする前に無くなりましたわね。ダンジョンとは不思議なものですわね」
ミキストリアが声をかけると、スエーレも目を丸くしていた。
翌朝、ミキストリアが起きだすと、同じように起きだしてきたジョルジが近づいてきた。
「ミキストリア様、おはようございます。報告があります」
「おはよう、ジョルジ。なにかしら?」
「はい、昨晩、私の夜警担当時間中に、キラーゴールデンハイエナ10匹が襲ってきました。ブーディカが先に気づいて6体仕留め、私とシルバンで残り4体を仕留めました。皆を起こす間もなかったですよ」
「あらあら。大変でしたわね。ご苦労様」
「ブーディカはミキストリア様の言いつけを守って、私達の分を残してくれたみたいです」
「ふふふ」
「それから、私の前の番はホーウェルとジャクリーンだったのですけど、その時にもキラージャッカル16体がでたとか。このときもブーディカが先に動いて10体、残りをホーウェルとジャクリーンがやったそうですよ」
「大活躍ね、ブーディカ」
「ええ。朝飯はちょっと多めにあげてもいいくらいです。これがその魔石で」
ジョルジは笑いながらブーディカを見ていうと、ミキストリアに向き直って魔石を出した。ミキストリアがオークの生肉を5㎏ほどだすと、ブーディカは嬉しそうにかぶりつき、飲み込んだのだった。
この日も岩山を目指し、ジャイアントキラーマンティス、キラーリノ、ジャイアントキラーリカオンを倒しながら進む。
ジャイアントキラーマンティスは立ち上がると4mにもなるキラーマンティスの上位種で、さすがのブーディカも肉弾戦を挑まず、遠距離からの魔法攻撃を仕掛けていた。
ミキストリアは敵が弱ってきた頃になると一旦攻撃を止めさせ、威力制圧スキルを使って攻撃をしたがどれも仲間にすることはできないのだった。スキルが発動している感触はあるのだが、ミキストリアの攻撃は魔物を倒してしまうのである。討伐ということでは問題ないのだが、ミキストリアはなんとなく不満というか達成感のない戦闘の終わり方になっていた。
昼過ぎ、ミキストリアたちは目的の岩山に着いた。小休止をし、周囲の様子を確かめた。絶壁の岩肌には出入口がある。4段の短い階段を降った先はケルベロスがいることがサーチでわかっている。
「入りましょう」
ミキストリアが言うや、ブーディカは四つ足になって出入口をくぐって降りていった。ミキストリアですら止める間もなかった。
「あ、ブーディカっ……」
急いでミキストリアたちが後を追って部屋に入ると、ケルベロスの3つある頭を咥えたブーディカがコピシュでケルベロスの腹を切り裂くところであった。ケルベロスが光る粒子となって消えていく。
「ブーディカ、1人で突入してはダメよ、というのも無駄な気もしてきますわね。これの何が問題なのかわたくしにも明瞭に説明できる気がしませんわ。
ブーディカ、突入するのは良いとしますが、ちょっとでも危険があると思ったら仲間と一緒に戦うのですよ?」
ミキストリアが言い聞かせるように言うと、ブーディカはギャゥイと鳴いて頷くのだった。
さらに3つの部屋を巡り、ケルベロス、グレーターケルベロスを討伐する。4つ目の部屋で野営することとした。
野営した4番目の部屋には3つの出入口がある。一つはこの部屋に入るために通った北側口で、後2つは東と南にあった。翌朝、ミキストリアが東側口へ向かうと、ブーディカが、ギャアウ、ギャアウ、と鳴き、足を止めた。
「ブーディカ? どうしたのかしら? この先に行っては行けないとでも言うの?」
「ギャイ」
ブーディカが頷く。
「それは危ないからかしら?」
「ギャアウ」
ブーディカは首を振った。
「危ないと言うわけではないのね。でしたら、わたくしたちは行かないといけないのです。付いてきてくれます?」
「……ギャイ」
ブーディカは頷くと項垂れた。
(わたくしが何かいじめをしているような気分になりますわね。ですが、ブーディカには申し訳ないですが、危ないと言うならともかく、そうでなければ進んでその先の魔物を討伐する必要がありますわ)
「では隊員のみなさん、参りましょう」
ミキストリアたちは東側の出入口を出た。
「え? ここは?」
「おい、これはどういうことだ」
「何でここに?」
ミキストリアたちは最初の部屋、岩山の出入口から入った最初の部屋に戻っていた。
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