ダンジョンへ
領地の主要都市を巡って回復魔法を掛けるという「ヒーリングツアー」で東部の主要都市巡りから戻ったミキストリアは、領都で父への報告やら報告、相談、家族団らん、次の巡回への準備などを手早く済ませると南部のキャゼスとリアヴィリールへ向かった。
南部巡りが終わると、領都西部にあって王都への街道上に位置するウォータミッチ、同じく西部だが別の街道となるレーン、キャジュアと巡り、ツアー最後として北部へ向かう街道を進み、ラーキリア、ナクスチャーカ、シェヴァニーを巡った。街道を往復する毎に領都で報連相、団らん、準備とこなしている。
この一連のツアーは8週間に及び、12の月も半ばになるころにようやく領内の主要都市巡りが終わったのだった。
この8週間でミキストリアはレーザー魔法を体得していた。
東部巡りではマリアのほうから馬車の同乗を断られていたが、その後の南部巡りでは実際にグリーンの単色光を出す研究をするため、ミキストリアのほうから同乗不要と伝えていた。馬車の中では窓枠に木の輪切りや鉄や石の板を吊るし、それを的に魔法の光を当てていた。もちろん、万が一、的を貫通してしまっても問題の無いよう、魔法強度と調整と射線上の確認はしたうえで、である。実はどのくらいのMP消費で的を貫通するのかというのも興味あることではあったのだが。
ミキストリアは取得したレーザー魔法を<グリーンレーザー>、<赤外線レーザー>、<UVレーザー>と名付けた。これらのレーザー魔法を別々に名付けたのには理由もあった。グリーンレーザーはダメージに加えてノックバック効果があり、赤外線レーザーは対象物を熱することによるダメージ、UVレーザーは対象物の内部破壊というように効果が違うのである。例えば赤外線レーザー魔法は木に当てると表面にすり鉢状の焦げた穴をあけて貫通するが、UVレーザーは裏面にすり鉢状の焦げていない穴をあけるという具合だった。
ミキストリアは、レーザー魔法の開発に成功したこと、3つの魔法とその効果の違いを、感謝を添えて祥子経由で七海にメールで送った。七海はそのメールの返信で、ミキストリアの成功に大喜びしていたが、レーザーの違いがどうしてこのような違いになるのかはわからない、と書いて送ってきたのだった。
各地で回復魔法を発動し、その際には了承を得たうえで相手のステータスを見るということを繰り返していたせいか、ミキストリアは【鑑定】スキルを取得していた。これによってステータス魔法も詳細が出るように変わっていた。
ミキストリア ユリウス・マルキウス
種族: 人族
年齢: 20 (=24=)
職業:
聖人候補(推薦:ナクスチャーカ、ターサミウム、侯爵領東部 [new])
侯爵家魔法師団 魔法研究分隊 分隊長
祥子の同性パートナー、養親
状態: 異常なし
LV: 38
MLV: 52 [up +1]
HP: 818/818
MP: 2918/2918 [up +219]
腕力 74 / 体力 85
知力 151 [up +1] / 精神 161 [up +1]
速度 74 / 器用 141 [up +1]
幸運 101
スキル:
聖魔法 IV、闇魔法 IV、雷魔法 III [up]
魔法多重起動
術式改造 II
無詠唱 II [new]
鑑定 [new]
パッシブスキル
魅了
三角関数
医学(血液、整形外科、神経、皮膚)[upgrade]
魔法連携 II [up]
高度回復 [new]
異世界言語理解(読む、聞く) ※チート
属性:
女神ユグラドルの導き(中)
養子x2
この鑑定スキルでスキルの詳細が分かるようにもなったのである。
【魔法多重起動】
魔法を多重に起動した際に必要となる追加MPを削減する。効果は習得レベルに依存。
【術式改造】
本来の術式を上書きして異なる効果を発生させる際の必要MP量を削減し、成功率を上げる。効果は習得レベルに依存。
【無詠唱】
無詠唱で発動した魔法の効果低下を抑止する。効果は習得レベルに依存。
【鑑定】
ステータス魔法で対象(物質や生物)の情報を見ることができる。見ることができる情報は習得レベルに依存。
同意なしでの他人のステータス参照は犯罪を構成する。
【魔法連携】
複数人の魔法発動を連携させ、確定で複合効果を生じさせる。効果は習得レベルに依存
【高度回復】
回復魔法の効果上昇と消費MP削減を持つ。効果は習得レベルに依存。
(これはまた、前代未聞の話になってきましたわ。正直に父やバート団長に話していいかどうかも悩みますわね……。
ライトニング魔法を使っていないのに雷魔法スキルの習得レベルが上がるというのも解せません。使っていたのはサーチと収納、ヒールとライト魔法の改造だけ。サーチと収納は闇属性、ヒールは聖属性。まさかライト魔法は雷属性とでも?
もう、これはしばらく黙っているしかないですわね)
ミキストリアはため息をついた。
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「ミキストリア様、ショーコ様、お館様がお呼びです」
家令のトーマスが、サロンで家族4人で団らんを楽しんでいた最中に告げてきた。
ミキストリアは思わず祥子と顔を見合わせる。祥子の顔には困惑と心配が広がっていた。
「サラ、ヒラリー、お母様たちはお祖父様のお話を聞いてきますわ。シルエッテ、リリアン、あとはお願いね」
突然のことでどうしていいかわからず戸惑っているサラとヒラリーを侍女たちに委ね、ミキストリアは祥子と連れ立って父の執務室へ向かった。
「ミキストリア、ショーコ、急にすまんな」
「いえ」
ローレンスはミキストリアと祥子が腰を下ろすのを待つ間も惜しいと言うように話を続けた。
(この様子では、よほどとんでもない話になると言うことですわね)
ミキストリアは父のその様子を見て厄介ごとに身構える。
「先程、早馬があってな。ダンジョンが危ういと」
ミキストリアと祥子は同じように息をのんだ。
「遭遇する魔物のレベルが急に上ったとか。これはダンジョンが溢れるスタンピードの前触れではないかということだ」
「それはまずいことになりましたわね」
ミキストリアは、話の行き先はある程度察したが、隣で黙り込む祥子を無駄に刺激しないようにと慎重に反応した。
「うむ。早急な対応が必要だ。しかも大規模な、な」
「そうなるでしょうね……」
ミキストリアは父がこの期に及んでまだ逡巡しているので、待つことに決めた。祥子のためにも、侯爵家当主の指示に基づく行動が必要だと思ったのである。
だが、ローレンスが次のセリフを口にする前に、祥子が思いつめた様子で口を開いた。
「お義父様、ミキに預けていただけませんか?」
「「え?」」
これは、ミキストリアだけでなくローレンスでも予想外のことらしく、ミキストリアとローレンスは唖然とした顔のまま、視線を祥子に向けた。
「ミキ、もうこのダンジョン騒ぎには決着をつけるべきだと思うの。
お義父様、ロックバードとの戦いを見て思いましたが、侯爵家の最大戦力はミキです。あの時、失礼ながら両団長とも適切な攻撃、防御手段をお持ちでないように見受けられました。
今回のことも、ミキが対応できないような強力な敵がいるのだとしたら、侯爵家の騎士、魔術師を充てるのは正しくないのではないかと。
もちろん、ミキですら対応できない相手だとしてら、すぐさま撤退する、のが条件ですが」
高揚した様子で一気に話を終えた祥子は大きく息を吐くと、紅茶を口にした。
「祥子……」
ミキストリアは祥子の信頼がうれしかった。
「ミキストリア、行ってくれるか?」
「お父様、わたくしが」
ミキストリアとローレンスの声が重なった。
「ふふ。頼んだぞ。だがショーコの言う通り、敵わぬ相手と見たら必ず撤退して戻ること。これは私からの条件でもある」
「ミキ、約束して」
「お父様、祥子、約束します」
ミキストリアは大きく頷いた。
「星組だけ連れて出ます。月組も連れていきたいところではありますが、さすがに10歳未満を戦いの場に出すわけにも行きません。侍女も不要」
「それがいいであろう。星組も10は超えているとはいえまだまだ未成人だ。ナクスチャーカに留め、負傷者の対応とだけするように」
「はい」
ミキストリアは祥子に向いて手を取った。
「祥子、無事に帰ってくると約束します。祥子はサラとヒラリーをお願いね」
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