孤児院で侍女探し
養親宣誓式の数日後、ミキストリアは、祥子とサラ、ヒラリー、聖属性の弟子たち星組を連れて、朝から領都の総主教会を訪れた。
「これはこれは、ミキストリア様、ショーコ様。ようこそおいで下さいました」
ミキストリア達が教会に入ると、司教がにこやかに挨拶をしてきた。
「司教様、4人でお祈りしたいのですが、構いませんか?」
「もちろんでございます。今日は大司教は用があってご挨拶できかねるかと思いますが……」
「気になさらなくてよろしいですわ。大司教様もお忙しいでしょうし」
ミキストリアはそう言ってマリアに目線を送ると、マリアは軽く頷き、司教に喜捨を渡す。
「ミキストリア様、ショーコ様、いつもお気遣いありがとうございます。お祈りということでしたら、お御堂へ」
喜捨を受け取った司教は一層にこやかな笑顔になりミキストリアを案内した。
「では、まいりましょう」
ミキストリアは声をかけると司祭を追ってお御堂に入り、女神に新しい家族について祈りを捧げた。
「司教様、今日は孤児院の子どもたちにもお福分けに来たのですわ」
「ミキストリア様、それはありがとうございます。子どもたちも喜ぶでしょう。ぜひ」
司教は、笑顔を深くして頷くと教会に隣接する孤児院へと足を運んだ。ミキストリアが孤児院を訪れたのは目的があった。祥子の、子どもはもっと遊ぶべき、というセリフでサラとヒラリーを遊ばさせるためと、サラとヒラリーに、年の近い、平民出身の侍女を探すためであった。サラとヒラリーは公爵家と辺境伯家からの養子ということもあり、身の回りの侍女や護衛は貴族家出身で固められている。そのこと自体に不満はなかったが、ミキストリアは一年弱の日本での経験と祥子との会話から、変革の時代には多様性が重要であることを学んでいた。そして今が変革の時であることは疑いもなかった。自分と祥子の行動が暮らしや社会を変えていくのは明白であった。
司教が子ども達を呼ぶと、ミキストリアは星組メンバーに言ってヒールを掛けてもらった。孤児たちは大けがこそなかったが、擦り傷やちょっとした体調不良は普通にあるので、それをまず治したのだ。ヒールをかけ終わると、持参のお菓子をお土産として渡し、一緒に摘まんで会話を盛り上げた。お菓子がすべて子どもたちのお腹に消えると、その場を祥子に託して、ミキストリアは星組メンバーと教会を出た。護衛と侍女の半分を残してあるので危険はない。祥子が孤児院に残るのはサラとヒラリーの遊びをサポートするためと、侍女探しのためである。ミキストリアは上位貴族の一員としてみると、宮廷魔法師団での経験もあり、平民を差別することはなかったが、貴族と平民という意識はまだ残っている。それが侍女選びにどう影響するかはミキストリアにもわからなかったが、そもそも自分が上位貴族の一員であるという意識すら怪しい祥子が選ぶほうが良さそうだとミキストリアと祥子は話をして決めていた。侯爵家としてダメな問題があれば子爵家出身の侍女が助言することになっているので問題ない。また、ミキストリアがこれからしようとしている現場は、血生臭いのでサラとヒラリーにはまだ見せないほうがよかった。
ミキストリアは教会を出ると、領都の北東部の通りを廻って重傷病者を治していった。領都は5万を超える人口があり、ナクスチャーカでの経験らすると300人以上の重症者がいることになる。孤児院での時間もあり、領都全てを廻るのは現実的ではなかったので、まずは北東部だけにしたのであった。星組の聖属性の弟子達も重症とまではいかない怪我人病人を治していった。この日だけでも100人を超える人数に回復魔法をかけ続け、ミキストリアは夕刻に侯爵邸に戻ることになった。
「ミキストリア様、お聞きしても良いでしょうか?」
「何? レイチェル、何でも聞いて良いですわよ」
「はい、ミキストリア様。思ったより多くの人が怪我や病気をしていて……」
「そうね」
「もっと私たちが回復魔法が上手だったら、もっと沢山の人を助けられたかもって……」
レイチェルは涙ぐんでいた。ミキストリアは優しくレイチェルの肩を抱いた。
「レイチェル、辛かったのね。でもそれはあなたの落ち度ではないのよ。気にしすぎないで」
「で、ですが……」
「みんなもそうよ。回復魔法が使えると周りの人の怪我や病気を治してあげることができるわ。でも、どうやっても全員を助けることはできないのです」
「……」
「わたくし達回復魔術師は、全員を助けられるなどと思い上がってはいけないのですわ。そして出来る事をするということでは、他の属性の魔術師と変わらないのです」
「もっと頑張ればもっと沢山の人を助けられます」
「そうね、その通りよ、レイチェル。でもそれであなたが倒れたりしたらいけないのですわ。あなたが無理をして1日倒れたら、その1日で助けられたはずの人は助けられなくなってしまうのです」
「そ、そうですけど……」
「皆もよく覚えていてください。全員は助けられませんし、それであなた達が気に病む必要はありません」
「「……はい」」
「緊急事態の時に順番をつけることもあります。例えば回復魔術師は一番最初です。回復魔術師が増えればより多くの人を助けられるからです。いつでも、どうしたらより多くの人を助けられるかを考えてください。貴族だから先、とか、身分で前後をつけてはいけません。そのうえ全員は助けられないし、そのことは回復魔術師の罪ではないことを忘れないで」
「「はい」」
「そうは言ってもなかなか難しいのですが、少しでも多くの人を助けられるようにしていきましょう」
「「はい!」」
ミキストリアは中1日のペースで領都の残りの南東部、北西部、南西部も廻り、重症者を治していった。ミキストリアが治した重症者は450人以上にもなり、領都は重症者が多いこともわかったのだが、理由までは判明しない。星組の弟子達4人の魔法レベルも上がった上、領都ターサミウムでもミキストリアは聖人と呼ばれるようになった。
ミキストリアが領都で聖人騒ぎを起こしたのは、ナクスチャーカでの話が領都でも噂になっており、治療を望む声が聞こえてきたということと、その聖人騒ぎが噂になっている間に孤児院での侍女選びをしてしまうことでそれが噂になることを抑えるという狙いもあった。ミキストリアは更に重症者だけではなく、次に重い症状となる傷病者も直していった。
この間、祥子はサラとヒラリーを連れて何回か孤児院を訪れ、10歳のラキアと11歳のアナベルに白羽の矢を立てた。王国では16歳で成人となる。平民では12歳、家が困窮しているなどの場合には10歳から、見習いとして働き始めるのが一般的である。孤児院でも12歳をめどに卒院するのが通例であった。見習い先が見つからない場合など、Gランクの冒険者となって上位ランクの冒険者の手伝いをしたり、街中の軽作業などを請け負って日銭を稼ぐ。
そういった話を教会で聞いた祥子が、見習い先の当てのないアナベルとラキアを選んだのだった。ミキストリアの聖人騒ぎで、侯爵家が孤児を引き取った話は人の口に上ることはなかった。
ミキストリアのステータスも変わっていた。
ミキストリア ユリウス・マルキウス
種族: 人族
年齢: 20 (=24=)
職業:
聖人候補(推薦:ナクスチャーカ、ターサミウム [new])
侯爵家魔法師団 魔法研究分隊 分隊長
祥子の同性パートナー、養親 [new]
状態: 異常なし
LV: 38 [up]
MLV: 50 [up]
HP: 818/818 [up]
MP: 2454/2454 [up]
腕力 74 / 体力 85
知力 149 / 精神 160
速度 74 / 器用 139
幸運 101
スキル:
聖魔法 III、闇魔法 III [up]、雷魔法 II
魔法多重起動
術式改造
パッシブスキル
魅了
三角関数
人体構造
属性:
女神ユグラドルの導き(中)
養子x2 [new]
(同性パートナーが職業になってますね…… これは養親になって公的な記録に残ったからでしょうか? それにしても養子って属性??? ステータス表示は謎が多いですわね)
ミキストリアは自分のステータスの変化に少々戸惑いを感じた。
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