養親宣誓式 2
サブリナに促され、マリアに先導されて聖堂の入口へ向かうと、礼装に身を固めた父ローレンスとヴァレリウス公爵、かわいくきれいに着飾ったサラとヒラリーが待っていた。サラもヒラリーも白をベースにそれぞれの髪の色をモチーフに蒼とタンジェリンで飾りをつけたドレスを着ていた。通路の反対側からサマンサに先導されて祥子が近づいてくるのが見えた。祥子も純白のAラインのドレスを着ていた。そのドレスは祥子によく似合い、祥子の美しさを引き出していた。祥子の姿は眩しかった。不意に涙が出てきそうだった。
「おかあさまたちキレイ……」
「ミキストリアおかあさま、ショーコおかあさま、素敵です……」
ヒラリーとサラがつぶやくように言う声が聞こえた。
ミキストリアがますます混乱する中、ヴァレリウス公爵が祥子に近づき、小声で話かけたがミキストリアには聞こえなかった。祥子は怪訝な顔をしつつ、はぁ、わかりました、と返事するのが聞こえた。
これは一体どいうことなのか? ミキストリアはさすがに父ローレンスに説明を求めようと口を開きかけたとき、マリアが入口のドアに近づいて軽く1回ノックをするのが見えた。
「ミキストリア様、ショーコ様がサラ様、ヒラリー様とご入場です!」
ドアの内側で大きく声がすると、ドアが内側から開かれた。
「ミキストリア、では行こうか」
ローレンスが近づいてきてミキストリアの手を取った。視界の隅ではヴァレリウス公爵が同じように祥子の手を取っていた。
ミキストリアはローレンスに手を取られ、同じように手を取られた祥子と並ぶように立たされると、そのまま聖堂の中に入っていった。聖堂の通路左右に、ダニエルとアリシアの婚儀に呼ばれた来賓が座っていることにミキストリアは気が付いた。
(ダニエルの婚儀でなぜわたくしと祥子がこのように入場を? お父様とヴァレリウス公爵は一体何をなさっているの?)
ミキストリアは混乱する頭で、左右を見回すが、だれもが満面の笑顔でミキストリアと祥子を見つめてくるのだった。
静謐で厳かな雰囲気のなか、ミキストリアは父に手を引かれたまま通路を進んだ。左には祥子が同じようにヴァレリウス公爵に手を引かれ歩いている。
祭壇の前に着くと、ローレンスは手を離し、そのまま右最前列の席に座った。その隣にはソフィアが満面の笑顔で座っていた。ヴァレリウス公爵も同じように祥子の手を放すと左2列目に席を取ったようだった。
ミキストリアは困惑したまま、同じように困惑している様子の祥子と目を合わせた。何が起こっているのか全く理解できていない。この場で大騒ぎしたり父に問いただしたりしてはいけないことだけは明白だった。
その時、祭壇の前にいた大司教が大きく手を広げた。
「お集まりの皆様、これより新たな家庭を築く2人のその宣誓式を執り行います」
聖堂が一気に静まり、神聖な空間に変わった。
大司教が笑顔でミキストリアを見つめてきた。
「ミキストリア ユリウス・マルキウス。汝は健やかな時も、病める時も、富める時も、苦しい時も、ここにいるショーコ カツラギを終生の伴侶として、慈しみ、敬い、共に手を取り合い、そして女神の導きが2人を分かつまで、共に歩んでいくと誓いますか?」
養親の宣誓で使われる言葉ではなかった。ミキストリアは驚き、その意味に気がつくと、感動で涙が浮かんでくるのを止められなかった。大きく深呼吸した。
「誓います」
かろうじて涙声になるのをさけることができた。感動で打ち震えているミキストリアに大司教の言葉が降ってきた。
「ショーコ カツラギ。汝は健やかな時も、病める時も、富める時も、苦しい時も、ここにいるミキストリア ユリウス・マルキウスを終生の伴侶として、慈しみ、敬い、共に手を取り合い、そして女神の導きが2人を分かつまで、共に歩んでいくと誓いますか?」
「誓います」
祥子の声ははっきりとしていた。
大司教はミキストリアと祥子を交互に見ながら続けていった。
「ミキストリア ユリウス・マルキウス、ショーコ カツラギ。2人はこのサラおよびヒラリーを子とし、いかなる時でも、慈しみ、見守り、支え、導いていくと誓いますか?」
ミキストリアは祥子の方を向くと、祥子もミキストリアを見返すところであった。ミキストリアと祥子は外側に半歩ずれると後ろにいたサラとヒラリーに手招きし、自分たちと並ぶようにした。ミキストリアは自然とヒラリーと手をつないでいた。祥子もサラを手をつないでいる。ミキストリアは祥子を目を合わせると頷きあって、大司教に向き直った。
「「誓います」」
大司教は深くうなずくと、もう一度大きく腕を左右に広げた。
「2人は純白の、汚れのない純粋な気持ちで今日ここに宣誓しました。今後、2人は力を合わせ、新しい色に家族を染めていくでしょう。
ターサミウム総主教会の名のもとに、今、この2人が親となり、子を迎えて1つの家族となったことを宣言いたします」
ミキストリアは思わず祥子に近より片手で祥子の肩を抱いた。祥子もミキストリアにもたれかかり、お互いの方に顔を埋めた。
家族も来賓も惜しみなく4人に拍手を贈った。
この、婚儀の式に見立てた宣誓式、事情を知る者にとってはそのまま婚儀の式は、母ソフィアがミキストリアの「お泊まり事件」を侍女から聞いて急遽企画したものだった。マーメイドライン、Aラインのドレスは元々違う色、異なるデコレーションでオーダーしていたものを、純白で婚儀に相応しい荘厳で華やかなものへと変更させたのだった。ソフィアは内々に祥子を呼び出し、地球での結婚式の様子や白を着る意味などを聞き出し、大司教に伝えていた。
この式でのミキストリアと祥子の純白のドレスはそのビジュアルで非常に大きなインパクトを起こした。大司教が語った白を着る理由と共に人々はこの出来事を話し広まっていった。王国では、婚儀の際には家や自分を象徴する色でドレスを作っていたが、新郎新婦共に白を選ぶことが増え、この大司教の言葉も繰り返されていった。婚儀が家と家を繋ぐと言う考えはなくならなかったが、新郎新婦の考えで色を染めていくと言う、個人主義的な考えが浸透する一助になったのであった。
ミキストリア達は、大司教に促され、ソフィアが座る最前列の後ろ、2列目に4人で収まった。ローレンスはダニエルと共に入場するために席を離れていた。
ダニエルとアリシア嬢の婚儀は、ミキストリアと祥子の宣誓式以上に大きな拍手でつつがなく終了した。
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