養親宣誓式 1
「ミキストリア様、朝ですよ。起きてください。今日は大事な式の日ですよ」
ミキストリアは、自分の部屋で侍女マリアに起こされた。昨晩、マリアから絶対に自分の部屋で寝てくれと強く言われたのである。母ソフィアからも、キツく言われていたので、昨晩は大人しくしていたのだった。
「おはよう、マリア」
「おはようございます、ミキストリア様。今日はたくさん予定が詰まっていますので、テキパキお願いします」
「張り切ってるわね、マリア」
「ええ、思い描いていたものとすこしちがいますが、いいえ、そんな違いを言っている場合ではありませんから。張り切っていきますよ」
(思い描いていた? 違う? なんのことかしら? それにしても張り切りすぎではないかしら。主役はアレシア様よね)
ミキストリアはそんな事を考えながら、マリアが持ってきた洗面道具で顔を洗った。
「ミキストリア様、朝食はこちらにお持ちしています。準備に時間もかかりますので、女性の方は皆さまお部屋にお持ちしれ召し上がっていただくことになっています」
「わかったわ、ありがとうマリア」
ミキストリアは、マリアによって手早く用意された朝食をいただいた。いつより気持ち重めの内容で、腹持ちがいいようなメニューであった。これはこの後、多くはないとはいえ来賓客への対応もあり、昼食は式が一段落する後になってしまうからである。
朝食の後は、マリアの指示のもと、数人の侍女によって湯浴み、マッサージと念入りに磨き上げられる。
「マリアだけかと思ったら皆も随分と気合が入ってるわね?」
「「「はい、ミキストリア様も今日は主役ですから」」」
「主役はちょっと大袈裟ではないかしら?」
「「いえいえ、そんなことありません」」
「……」
ミキストリアは若干腑に落ちなかったが、侍女達のなすがままに身を任せていた。その後、仕上げは会場でやるからとシンプルなデザインのワンピースを着せられ、マリアに促されて部屋を出てホールに向かった。ホールには同じように当惑顔の祥子が待っていた。祥子は十分な睡眠をとれたようで(ミキストリアが昨晩は部屋に行かなかったため)、色つやもよく、同じく侍女達に磨き上げられて美しかった。
ミキストリアはそんな祥子が愛しかった。朝起きてからの当惑が消えてなくなるような気分だった。ダニエルの婚儀に参加する中でも一番だとミキストリアは思っていた。
玄関では多くの侍女や使用人がたくさんの荷物を馬車に積み込んでいた。
「すごい荷物ね」
「ショーコ様、あれでも厳選したのです。本当はもっと持っていきたいのですよ」
見送りに来た侍女長のサブリナが答えた。
「サブリナ、お父様たちはどうしているの? リサとヒラリーは?」
「お館様はルーカス様、ルキウス様とご朝食中です。今日はリサ様もヒラリー様もご一緒です」
「ではリサとヒラリーはお父様と一緒に来るのかしら?」
「はい。リサ様、ヒラリー様はそれほど準備にお時間もかかりませんので、お館様とご一緒の予定です」
「そう、わかったわ。よろしくね」
「はい、ピカピカにしてお届けいたします」
満面の笑顔で言う侍女長に、ミキストリアはなんとなく違和感を感じつつもそれが何かわからないまま馬車に乗る。今日のダニエルの婚儀の式会場である領都の教会は侯爵邸からは遠くなく、馬車でその違和感について祥子と話す間もなく、馬車はすぐに教会についてしまうのだった。教会に着くなり、ミキストリアは迎えに出てきた教会関係者と有無を言わせぬ様子の侍女たちによって祥子と別の部屋に案内される。
ミキストリアが部屋に入るとそこは女性用の待合室として準備されているようで、全身が映る大きな鏡と、上半身用の鏡に向けて置かれた椅子が用意されていた。
マリアに促されて椅子に座る間にも、侍女が次々と荷物を運び込んでいた。
「ミキストリア様、今日はこれをお召しになるようにと奥様から言付かっております」
運び込まれた箱の中でも、一際大きな箱からマリアが純白のドレスを出すのを見て、ミキストリアは眉を顰めた。
「マリア? 間違ったドレスを持ってきているわよ。白は違うわ」
「いえ、ミキストリア様、これで間違いございません、白のこのドレスを着てくるようにと奥様に言われております」
「お母様は何を考えているのかしら?」
「そこまでは私達も聞かされておりませんので。揃いの小物類も合わせて持ってきております」
ミキストリアはそう言われてしぶしぶとそのドレスを着た。そのドレスは地球風のマーメイドラインのドレスであった。ミキストリアはこのドレスのオーダーはしていないので母ソフィアがやったはずだが、そのドレスは背高いミキストリアによく似合った。後ろの裾は大きく広がっており、踏んでしまわないようにと侍女が軽く持ち上げている。
「ミキストリア様、お美しいです」
「お似合いですわ」
「ありがとう」
「失礼します、ミキストリア様。お召し物の最終調整に参りました」
入ってきたのは王都の仕立て屋の若いデザイナーとお針子達であった。
「ちょっと失礼します」
そう言うとデザイナーはミキストリアの周りをぐるぐると回って仕上がりを確認していった。
「ミキストリア様、お美しいです。ドレスもぴったりフィットしておりまして修正も必要ありません」
「そう、良かったわ。ありがとう。これはお母様がオーダーしたものでしたかしら?」
「以前、ミキストリア様とショーコ様にオーダーいただいたものをソフィア様の指示でこれに変更しました」
「あら、そうなのね……」
(お母様は何を考えているのでしょう? なんでわざわざ変更を……?)
デザイナーとお針子達が退室すると、アクセサリーや手袋などの小物を侍女達がテキパキと準備を続け、ミキストリアの化粧と髪のセットにとりかかった。髪のセットが終わると、腰に掛かるほどの長さのベールもセットされた。純白の靴も用意されていてミキストリアは履き替えた。
侍女たちによってミキストリアの準備がほぼ終わるころ、侍女長が部屋に現れた。
「失礼します、ミキストリア様、準備のほうはいかがですか?」
「侍女長、もう少しで終わるところです」
「サブリナ、お母様がこのドレスを着るように言ったということなんだけど、おかしくない? 何か聞いている?」
「ミキストリア様、そのドレスで間違いありません」
「そ、そうなの?」
「よくお似合いでとてもお美しく、このようなお姿を……」
「サブリナ?」
「いえ、なんでもございません」
ミキストリアは、侍女長に訴えたのだが、あっさりと切り返されて返す言葉もなくなった。
「ミキストリア様、そろそろお時間です」
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