親と子
「ミ、ミキ、もうだめ、無理、あー-、だめだから、だめっ、あっ、あー-----」
ミキストリアはサイドテーブルに置いてあったタオルで祥子の額に浮かぶ汗を拭いた。
「愛していますわ、祥子」
「わたしもよ、ミキ、でも今日はもう無理だから」
「祥子?」
「ラーキリアから、帰ってきた、ばっかり、だから……」
「そういえば、わたくしを嫁にするのかどうかのお返事もいただいていませんわ」
「……」
「祥子?」
「……」
「寝るのが早いですわね」
ミキストリアは足元に追いやられていた掛け布団を引っ張り上げると祥子に優しくかぶせ、祥子の少し開いた唇に軽くキスをすると、自分も隣にもぐりこんだ。
「祥子とわたくしが親になる。全く考えてもみませんでしたわ」
~~~
朝、ミキストリアは入ってきた侍女のマリアに起こされた。最近、マリアはサマンサと一緒に朝一で祥子の部屋にまず来るというように仕事の手順を変えていた。祥子の部屋にミキストリアがいる方が多いからであった。
「ミキストリア様、朝です。起きてください」
「あ、あぁ、マリア、おはよう」
「おはようございます。奥様がお呼びです。朝食前に部屋に来るようにと」
「え、お母様が?」
「はい。急いで起きて着替えてください。ショーコ様はごゆっくりしていて下さい」
「お母様、お話があると伺いましたが」
「ミキストリア、そこに座りなさい」
「お、お母様?」
「ミキストリア、まさかあなたに、フィリップやダニエルに言い聞かせた事を言う羽目になるとは思ってもいませんでした」
「え? あの……」
「あなたは一体妻の体を何だと思っているのです?」
「え、つ、妻って」
「ショーコ以外に誰がいるのです! いつまで寝ぼけた事を言っているの!!」
「え、あっ、はい」
ミキストリアはソフィアにこんこんと説教されたのであった。説教が終わった時、ソフィアとミキストリア以外の家族の朝食は、祥子も含めて全員終わっていた。
〜〜〜
ミキストリアはサロンでお茶を飲んでいたが、ソワソワする気分を抑えられなかった。
「ミキ、少し落ち着こうか」
「祥子はなぜそれほど落ち着いていられるのです!? わたくし達の子どもですわよ!?」
「ミキが緊張しすぎてて、緊張してられないっていうか」
ミキストリアがカップを置いて言い返そうとした時、家令のトーマスがサロンの入り口に姿を表した。
「フィリップ様がお着きです」
「やあ、ミキストリア、ショーコ。元気そうで何よりだが、2人が動くと必ず何か起こるね? 今度からは事前に知らせてくれると嬉しいかな」
「お兄様、お疲れ様でございましたが、いきなりそれはひどいですわ」
「フィリップ様、無事のお着き何よりでございます。お言葉ですが、2人で、ではなく、ミキが、です」
「あははは、そうかな? それはともかく父上から聞いているだろうが、ヒラリーを紹介させてくれたまえ」
「ヒラリーです」
ヒラリーはそう言うとドレスを摘んでカーテシーを披露した。
「ミキストリアよ」
ミキストリアはカーテシーをすると膝をついて目線を合わせた。
「あなたのお母さんになるのが楽しみでしたわ」
「ショーコです。あなたのお母さんになれて嬉しいわ」
ミキストリアは、祥子が自分の左に同じように膝をついて目線を合わせた姿勢になると、左手を祥子の肩に回し、右腕を広げた。横で祥子が同じように右手を自分に回し左手を伸ばしている。
「あなたをぎゅっとしていいかしら」
「はい、おかあさま」
ヒラリーがミキストリアと祥子に近寄ってきたのでミキストリアは右手をヒラリーの背中に回す。同じように左手を回してきた祥子の手と触れる。
「これからずっと一緒ですわよ」
「4人でね」
ミキストリアは視界の隅で兄フィリップが満足そうに頷き、マルティナを促してサロンを出ていくのを見て、ハグを解き、ヒラリーをソファに誘った。
ミキストリアは、自分や祥子の話は後でたっぷりするからと、ヒラリーの旅の話を聞いた。ファビウス辺境伯の領地から船と馬車を乗り継いで王都まで出てきたと言う話に祥子は食いつき、驚き、まだまだ幼いヒラリーがそんな長距離を旅してきた事を本気で褒めているのを見て、ミキストリアは上手くやって行けるような予感がするのだった。
そうこうしているうちに、マリアが近づいてきた。
「失礼します、ミキストリア様、ショーコ様、ヒラリー様。ヴァレリウス公爵様がお着きの時間です」
「ありがとう、マリア。祥子、ヒラリー、行きましょう」
「はい」
「ヒラリーは賢いわね」
ホールでは多数の使用人を後ろに、ローレンスとソフィアが既におり、フィリップとマルティナと雑談を交わしていた。ローレンスがホールに集まってきたミキストリア達に気づいて振りかえる。
「ヒラリー、疲れているところにすまないね」
「大丈夫です」
「そうか。えらいな」
ローレンスは相好を崩した。
「お父様、お顔が緩みすぎですわ」
「む、そうか?」
ミキストリアが冗談めかして言うとホールの緊張も少し緩んだようだった。
「ヴァレリウス公爵様、お着きです」
家令のトーマスが扉を開ける。
ミキストリアは、父母、兄夫婦に挨拶を終えた公爵に笑顔を向けた。
「おぉ、ミキストリア!」
「ルーカス様、エリーザ様、おひさしぶりです。いろいろとご心配をおかけしました」
「うむ。その後もいろいろと話題になっっているようだね?」
「お耳汚し恐縮ですわ。ルーカス様、エリーザ様、祥子とヒラリーを紹介させて下さい」
「ヴァレリウス公爵、公爵夫人、初めてお目にかかります、ショーコでございます。よろしくお願いします」
「ショーコ嬢、ルーカスと呼んでくれ。今回の話も快諾してもらって感謝している」
「そうですわショーコ嬢、わたくしのこともエリーザと。よろしくおねがいね」
「もったいないお言葉です、ルーカス様、エリーザ様。こちらがわたくし達のもう1人の娘、ヒラリーです」
「ヒラリーです」
「うむ。してこれがサラだ。サラ、ご挨拶を」
「サラですわ、よろしくおねがいしますわ」
ミキストリアはサラに近づくと膝を折って目線を合わせた。
「サラ、ようこそ。あなたのお母さんになれて嬉しいわ」
隣に祥子もきて膝を折った。
「サラ、あなたのお母さんになるのを楽しみにしてたわ」
ミキストリアはヒラリーを近づかせサラとヒラリーを祥子と一緒にハグした。
「これから4人で家族ですわよ」
「楽しく暮らしましょうね」
「「はい」」
ミキストリアは姉夫婦、グレータとその夫ルキウスにも祥子とヒラリーを紹介すると、皆の後を追ってサロンに入った。
「ルーカス様、お父様、わたくし達は4人で話したいと思いますので一旦失礼させていただきますわ」
「ああ、ミキストリア、ゆっくり話すが良い」
ミキストリアがサロンの入り口でそう言うと、ローレンス、ルーカスが笑顔でうなづいた。これも予定通りなのである。
「それでは、また後ほど。失礼いたします」
「「「失礼いたします」」」
ミキストリアがいうと、それに続いた祥子、サラ、ヒラリーの声が重なった。サロンに残る大人達の笑みが深くなったのを見て、ミキストリアはサロンを後にし、別の小ぶりなサロンに移った。
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