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異世界ヒーラー世界を治す  作者: 桂木祥子
4章 侯爵領編
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シェヴァニーの討伐戦


作戦会議の直後、エルウィンは早馬を領都に送り、討伐遠征の準備を始めた。早馬の連絡を受けた中隊が領都を出発し、ナクスチャーカに到着するまで最短でも5日。それまでに外壁のないシェヴァニーへの脅威を減らすために魔物の討伐をするのである。あまり圧をかけると街道にあふれ出てしまうので、押し出さず引き込んで殲滅する。簡単な作戦ではなかった。


ミキストリアは兵糧の運搬を申し出た。シェヴァニーの西から西南は深い森で、兵糧用の荷馬車が使えない可能性が高かった。そうなると各自が持っていく他にないのだが、持てる量に限りが出るため近場での対応になる。ミキストリアは祥子や弟子たちが残る街から離れた場所での作戦としたかったのである。そのために必要な食料は収納に入れると提案した。これまでの道中で、ロックバードや多数のオークを収納するミキストリアを見ていたエルウィンとバートはあきらめたような顔でそれに同意したのだった。


翌日、祥子や弟子たち、侍女や使用人、街の防衛に残るアップル隊が見守る中、ミキストリア達は出陣した。


街から南となるナクスチャーカへ向かう街道を西に折れ、湖岸に沿うように西行する。10kmほど進んだところで前方、西側からの魔物の出現はなくなり、魔物は南からのものばかりになった。


エルウィンは進撃を一旦とめ、配下の指揮官を集めて相談した。呼ばれたのはバート、団長付きの連絡士官4名、小隊長2名、そしてミキストリアである。バートとミキストリアのサーチ情報をもとに、西に1㎞進んだ先のゴブリンの群れを殲滅するために分隊を出し、本隊はここで野営することとした。



ミキストリアはエルウィンに進言し、分隊一つを連れて南方向1km先にいたオークの群れを討伐に向かった。ここまでほとんど使っていないMPを消費するためと、ライトニングの実戦経験を積むためである。分隊はミキストリアの護衛としてエルウィンが許可する条件として付けてきたのだった。


サーチの結果の通り、オークが目視できるところに来るまで魔物との遭遇はなかった。


「オークです。距離約40、数は10。まだこちらは見つかってないようですね」


ミキストリアは小声で同行する分隊長に言った。貴族の格としては圧倒的にミキストリアが上だが、分隊長としては同格、同行した分隊長の方が先任でもあるのでミキストリアは先輩としての扱いをしている。


「予定通り、ミキストリア様が攻撃する、でよろしいですね」


とはいえ、相手の分隊長は主である侯爵家の令嬢にタメ口などできないようであった。分隊長も小声で返してくる。


「はい。それからわたくしの魔法は侯爵家の秘匿事項です。そのつもりでお願いします」

「承知しております」

「目標が少し散っているので2回に分けて攻撃します。撃ち漏らしがあったらお願いします。耐轟音耐閃光防御の用意を」

「承知しました」

「では」


「耐轟音耐閃光防御」とはロックバードとの戦いが終わった後に祥子に教えてもらった言葉であった。ミキストリアのライトニングはその轟音と閃光で味方も驚かせ無防備にさせてしまいかねない。予め味方に警告しておくほうが良い、とアドバイスをもらったのだった。「本当は『耐ショック耐閃光防御』っていうんだけど」と祥子に言われたが、その意味はミキストリアにはわからなかった。


ミキストリアは同行の騎士、魔術師が耳を塞ぎ、片目になるのを確認し、自分より遠いほうの左側に位置する5匹のオークに狙いを定めた。耳を塞ぎ片目な状態を長く続けるのは危険でもあるので魔法の発動を急ぐ。


(テストも兼ねて弱目に行きましょう)


初めてライトニングをゴブリンに撃った時は、1つにつき100MP前後をつぎ込んでいた。その量に根拠はなく失敗してももう一回発動できる余地からの逆算だった。あの時はオーバーキルだったのだ。今回は相手がオークでゴブリンよりも強いため、こちらも強い魔法が必要だが、ミキストリアはあえて弱目で撃つつもりだった。ダメでも打ち直せばいいし、最悪でも騎士団の分隊という過剰な護衛がいる。弱い威力の魔法を試すいいチャンスだった。


「<マルチプル ライトニング>」


気負いもなく、ミキストリアは60MPを使ったライトニング魔法を5つ同時起動した。その全てがヒットしたことを確認するとダメージの評価は後回しにして、間髪をおかず右のオーク達も撃つ。突然の閃光と轟音で浮足だった残りのオークが散らばると厄介だからだ。


「<マルチプル ライトニング>」


2回目は50MPまで下げた。それでも2回の魔法で500を超えるMPを一瞬で使っており、これだけでも魔法レベル30以下ではできない大技である。


2回の連続して放たれたライトニング、しかも多連装での発動による閃光と響き渡る轟音で、同行する騎士や魔術師も驚きのあまりすぐには行動できない様子であった。


「分隊長! 念のためトドメを」

「ぐ、そ、そうですな。1班は右、2班は左だ、行け」

「「はっ」」


ミキストリアはサーチでオークが死亡していることは分かっていたが、念のためとして分隊の騎士に確認をお願いした。


命令を受けた班が抜剣しながらオークに近づいていった。


(ライトニングは音がうるさいのが欠点ですわね。仕方がないのかもしれませんが。こうなると静かな攻撃魔法も欲しくなりますわね。贅沢になったものですわ)


その間、ミキストリアはのんきな感想を思い浮かべていた。


「隊長! オークは既に死亡。5匹全てです」

「隊長! こちらも同じく生き残ったオークはおりません」

「わかった。そこで待て」


分隊長がミキストリアに振り返った。


「ミキストリア様、これほどとは……。ロックバードの話も聞きましたが実際に見るのでは大違いです」

「上手くいってよかったですわ」

「ではオークを回収して隊に復帰しましょう」

「ええ、では収納しますね」

「え?」


分隊長はオークの倒れている現場に向かうつもりで言ったのだが、ミキストリアはそんな無駄はしなかった。左右に軽く視線を振り、全てを収納した。しかも無詠唱だった。1秒とかかっていなかった。


「「「え? ええーー?」」」


まだ年若いこの分隊にはミキストリアの遠隔収納は刺激が強すぎたようであった。


ミキストリアはさらに500mほど進みその先の状況をサーチして戻った。その先1kmに魔物がいたのだが、エルウィンに許可された戦闘は終わっている。たまたま遭遇してしまった魔物と戦闘するのは許されてもこちらから求めていくのは許されていない。しかもサーチできるミキストリアに、たまたまの遭遇は無いのだった。


野営予定地に戻るとテントや防御柵の設営など野営の準備は進められていた。食事の準備もあちこちで進められていた。ミキストリアは、野営準備の指揮をしていた小隊副長にオーク一匹を収納から出して渡すと、エルウィンとバートがいる陣幕へ向かった。副長に野営準備を指示した分隊長もミキストリアに続いた。


「ミキストリアです、戻りました」

「こちらへ。無事と信じておりましたがやはりホッとしますな」


ミキストリアを迎えたバートがエルウィンに言う。


(その心配は入りませんのに、まぁそうも行きませんわね)


「わかっていても、な。で、いかがでした?」


エルウィンはバートにうなづいた後、ミキストリアに向き直る。


「はい、想定通り、南進した先でオーク10匹と会敵、殲滅しました」

「ミキストリア様の魔法2発で、我々は手出しする必要もなかったです」


ミキストリアに続いて同行した分隊長が報告した。


「その先も見てきましたが、一部魔物が集まるところもありましたがその先にも魔物はいました。ですので、集まっていた場所に何かあるのかどうかは不明です。行ってみるしかないかと」


「そうですか……」

「では予定通り、ここで1泊した後は南進しよう。バートとミキストリア様は継続してサーチを頼みます。小隊一つで対処できない規模の魔物の集団を発見したらその時点で速やかに後退。それがなくても2日で南進を止めてシェヴァニーへ戻る」

「うむ、それが良かろう、予定通りということだな」

「分隊長、ご苦労であった。ミキストリア様、あちらで食事を」


ミキストリアはエルウィン、バートなど指揮官達と食事をし、用意されていたテントで休んだ。分隊長格であるが、ミキストリアの夜警番はない。魔物討伐遠征の1日目が終わった。



読んだいただき、ありがとうございます。評価、感想おまちしてます。

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