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異世界ヒーラー世界を治す  作者: 桂木祥子
4章 侯爵領編
47/135

ロックバードとの戦い


クエェーーー


ロックバードの鳴き声が響き渡る。


「ミキストリア様も避難を!」

「皆は散れ!」

「わたくしもここで」

「「ミキストリア様!!」」


団長2人に言われ、ミキストリアは引き下がった。子ども達とは反対の左の森の入る。逆側にいた方がもし岩が子ども達側に落とされた時も軌道が読みやすいからである。


(言い争いの時間はないわ。視認できるから収納できるはず。もうわたくしは回復魔術師だけではない。ゴブリンとも戦えた。自分を信じるのよ、ミキストリア!)


ミキストリアはロックバードとその大岩に意識を集中した。2人の団長が矢継ぎ早に指示を出す声が聞こえていたが、それもすっと消え意識に上らなくなる。


ロックバードは森に逃げた子どもが目に入らなかったか馬車を目標とするようだった。幅4mはある街道よりも広く羽を広げて大岩を見せつけながら降下してくるロックバードは死の象徴だった。大岩の落下コースに入ったら避けられない。今動いても、ロックバードがコースを変えたら同じである。走る速さよりもロックバードが速いのは明白だった。騎士も魔術師も足が止まった。



クエェーーーェ!


森の背の高い木々に届くかというような高さにまで降りてきたロックバードは耳をつんざく鳴き声を上げると大岩を放り出した。馬車とその近くのミキストリア他数人が大岩の影に入る。


「ミキ!」

「ミキストリア様!」

「撃て! 射て! 岩のコースを変えるんだ!」


叫び声と団長の指示が交差した。


「<収納>!」


ミキストリアは落ち着いていた。イージスは掛けてあるが、低い高さに張ってあり大岩はまだ到達しない。だが、目視できてロックバードの脚から離れた今なら問題ないはずだった。


大岩は光の粒子になって消える。


「「何っ!?」」

「<ライトニング>!!」


そのままミキストリアは間髪を入れずに1500MPを注ぎ込んで電撃魔法であるライトニングを打ち込んだ。ライトニング魔法が産んだ閃光と轟音はミキストリアも経験のない規模だった。


「「「うわあっ!!」」」


(ちょっとMP多すぎましたかしらね?)



グゲグェ……


ライトニングを脳天に打ち込まれたロックバードが奇妙な鳴き声をあげ、硬直しそのままの姿勢で落下してきた。


「逃げろ!!」


ミキストリアも森に数歩分入って身を隠した。ロックバードは翼を広げた姿勢のまま、ミキストリアの頭上少し上の高さを森の外縁の木の枝を薙ぎ払い、急速に速度を落とすと大音響と大量の土埃を上げながら街道に落ちた。


「団長! 注意しながらとどめを!」


ミキストリアの声にハッとしたバートが、アースカッターで翼を攻撃するがロックバードはピクリともしなかった。


「死んでいるようですね……」


バートが半信半疑な様子で呟く。森から出てきてその様子を見たミキストリアは、内心は大岩の収納とライトニングが成功していたことに興奮していたが、何でもない様子を繕った。


「それでしたら、そのままだと街道も塞いでしまうので収納しますわ。<収納>」


ロックバードの死体も光の粒子になって消えた。


「ミ、ミキストリア様、あの岩もロックバードも収納できるので?」

「ええ、まだ入りますわ」


ミキストリアが笑顔でバートに言うと、バートは顎が外れたかのようだった。バートはハーフエルフ族で、ヒューマン族よりも魔法的性も初期SPも高い。そのバートから見ても大岩とロックバードの両方は非常識であった。エルフならいるかも、といったレベルである。


「エルウィン団長、ここを頼みます」

「ミキストリア様はどちらへ?」


エルウィンに声をかけてミキストリアが歩き出すと、エルウィンは不思議なものを見るかのような表情で振り向いた。


「オーク三匹も収納してきますわ。あちらも、もう終わったようですし。ラーキリアの人々に良い手土産になるでしょう」

「あ、はぁ……」


エルウィンは毒気が抜けたようだった。


ミキストリアは、サーチでオーク討伐に行った班を探し合流した。


「皆さん」

「ミキストリア様! なぜこんなところへ!?」

「お怪我はありませんか?」

「1人転んで擦り傷を作ったものがいますが、全員問題ありません」

「そう、よかったですわ。隊に戻ったらヒールをかけてもらってください」

「はっ、ありがとうございます」

「いえ、これもあの子達の練習なのですわ。練習に付き合わせてしまい心苦しいくらいですのよ」

「いえいえ、本当にありがたいことで」

「重傷なしという事でしたらオークのところに案内してください。収納しますわ」


討伐に出た班はオークを無事仕留めていたが、討伐が目的で食材、素材としての利用は初めから考えていない。数百キロにもなるオークを持ち運ぶ準備もないからだ。現場はそう遠くなく、ミキストリアはすぐに着くことができた。オークは素材としては残念な状態だったが何も無いよりは断然マシである。ミキストリアが無造作にオーク3体を収納すると、収納するということを半信半疑だった討伐隊の団員は目を剥いた。


(ロックバードも入っているということは言わないほうがよさそうですわね)


ミキストリアが街道に戻ると、皆がロックバードが薙ぎ倒した倒木を片付けているところであった。


(あれも収納した方がいいかしら? エルウィンに言われなければいいことにしましょう。ちょっと今日は皆を驚かせすぎてしまいましたから)


「エルウィン団長、怪我人を集めてください。どんな小さな怪我でも擦り傷でも構いません。ヒールで治します」

「はっ」


聖魔法の練習の機会があればぜひにと、事前にミキストリアから聞いていた団長はすぐに伝令を呼び、怪我人に集まるように指示した。


「重傷者がいればわたくしが対応します」

「ありがとうございます、ミキストリア様。幸い今回は重傷はおりません」

「それが何よりですわ」


集まった怪我人は4人だけであった。どれも擦り傷、切り傷と言った、普段ならそのままにしておくようなレベルの傷である。今回は全ての怪我、傷を、すぐに治すという、討伐に出る騎士や魔術師には夢のような話であった。一列に並んだ騎士、魔術師をこれも一列に並んだ少女達が交代しながらヒールで治していく様子はその場を和ませるのだった。


「よし、準備は終わったな。予定外に時間を食ったので少し速度を上げて移動する。

隊は第2小隊が先導しろ。班を1つ先行させてアップル隊と情報交換して戻れ。第1隊は中央で馬車の警護。出発!」


「ミキ! お疲れ様。お手柄ね」


馬車で一息入れると祥子が満面の笑顔を向けてきた。ミキストリアは緊張が解け、大量のMPを一度に使った反動の気だるさにぐったりしていたが、祥子の笑顔で文字通り生き返る気分だった。


「祥子も、ありがとう。こちらではどうだったのでしょう?」

「最初は怖がってて、わたしととサマンサ達で大丈夫って言って聞かせてたんだけど、結局は瞬殺だったでしょう? 怖いのは一瞬であとは驚くだけっていうか……」

「ミキストリア様、私は生きた気がしませんでした。岩がミキストリア様の方へ行った時にはもう……」

「マリア、大丈夫よ。わたくしも少々驚きましたけど、収納が意外と使える魔法だとあちらの世界で学んだのよ。大丈夫だから、そんなに心配しなくてもいいのよ」

「ミキストリア様、そうおっしゃいますが、私も今回ばかりはお館様に死んでお詫びをと思っていました」

「え、そんなことは思わなくてよくてよ」

「ですが!」

「まぁまぁ、皆んなも落ち着こう、ね? わたしもハラハラしたし気が気じゃなかったけど、これからもミキに助けられる状況って出てくると思うのよ。そのたびに心配するのはしょうがないとしても、心配したってミキを責めるのってどうなの?」

「あ、いえ、責めているわけでは……」

「うん、わかってるよ、マリア。でも、ミキも出会いたくてロックバードに出会ったわけでもないし、無事でよかったね、ってことで終わりにしない?」

「ショーコ様……」

「ショーコ様、お言葉の通りです。ミキストリア様、申し訳ありませんでした」

「「申し訳ありませんでした」」

「いえ、もういいのよ。祥子の言う通りこれで終わりにしましょう。もう魔物も出てこないでしょうし、出てきてもまた退治するわ」

「ミキ、それフラグ……」


一行はその後何事もなく、ラーキリアに着いた。


読んだいただき、ありがとうございます。評価、感想おまちしてます。

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