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異世界ヒーラー世界を治す  作者: 桂木祥子
4章 侯爵領編
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領都へ


ミキストリアと祥子は、兄夫婦やダニエル、王都侯爵邸の使用人たちに見守られて、領都へ向けて出発した。侯爵夫妻が王都に戻ってきたときよりも1日多くかけてゆっくり行くことになっていた。侯爵夫妻が急がせすぎなのであって、ミキストリアと祥子の日程が普通である。食料や水など収納に入れようとミキストリアは提案したが、使用人によって断られている、とんでもない、と。



はじめこそ移り行く馬車の景色に興奮していた祥子も、王都の外に出るとそれほど景色も代り映えしなくなるため飽きてきたようだった。なにしろ尻も腰も背中も痛い。侯爵家ですら、馬車での移動は快適なものではなかった。


「体が痛い……」

「もうすこしで休憩ですわ。それまで祥子、がんばって。そういえば、女神様に貰った天魔法は何か進展しまして? この間に試してみるのはどうかしら? 気もまぎれるのではなくって?」

「あれか……。そうね、何もしないよりはいいわね。どうせ暇だし。早いとこ見つけたほうがいいし」

「その意気ですわ」

「<ネットアクセス>! まぁこれは前回もダメだったけどやはり違うようね。何か別の……」

「スマホでネットにアクセスするにはどうしていましたっけ?」

「スマホ? そうね、サファ〇を立ち上げて……。まさかのそっち? <サファ〇>!」

「いかが?」

「だめみたい。<ク〇ーム>、<エッ〇>。これもダメか……」

「……」

「まさか<スマホ>。いやないよね。パソコンでもアクセスできるわけだし。<パソコン>って無理ね。ん、まさか、<ブラウザ>だめか。もしかして <ブラウザを起動>」


祥子がふらついたのを見て、ミキストリアは慌てた。


「祥子! 大丈夫ですか? どうしたのです!?」

「あぁ、ミキ。わかったわ。できたわよ。こんなのわかるかーい!」


祥子が突然天に向かって文句を言いだしたのでミキストリアは驚いた。


「祥子! 本当に大丈夫ですか? 気を確かに!」

「ミキ、大丈夫よ。体からふっっと力が抜けていった気がしたけど、大丈夫、目の前にブラウザ画面が見えるわ」

「力が抜けたような気がするのはMPを使ったからですわね。すぐに慣れますわ。成功した結果ということでもありますわ」

「これがそうなのね。今までクリーンとか収納の練習では感じなかったけど」

「生活魔法はもともとMP消費が少ないので感じないものですわ。MP量が増えるとちょっとした魔法では慣れて感じなくなりますわ。MP量は大丈夫です?」

「う、そうね… <スタータス>」



桂木 祥子

種族: 人族(地球人)

年齢: 24

職業: 異世界人、ミキストリアのお世話係(更新)、侯爵家居候

状態: ミキストリアの同性パートナー

LV: 19

MLV: 7

HP 285/285

MP 90/113

腕力 41 / 体力 43

知力 158 / 精神 182

速度 35 / 器用 60

幸運 131

スキル:

 天魔法 ※チート

 精神耐性 II

 異世界言語理解(読む、聞く、話す、書く) ※チート

属性:

 女神ユグラドルの加護(中)



「ま、まだ、MPは大丈夫みたい、20ちょっと減ってたけど」

「祥子、どうかしましたの?」

「状態の表示が照れるっていうか慣れないっていうか…」

「……」


ミキストリアが祥子を好いていることは、侯爵家の家族、使用人も侍女も、全員が察していたが、よくある思春期のアレ(ミキストリアの歳からすると遅いのだが)、もしくは異世界という非日常の極限のような経験からくるいわゆる吊り橋効果みたいなものと思い、所詮一時のことと優しく見守っていたのであった。それに対し、ミキストリアが盛大に自爆して兄フィリップに「一生一緒」宣言をしたという話は侯爵家を驚愕させた。さらにはそれをフィリップが認めたという話が伝わると、一部ではその判断に疑問を呈するような声も裏では出たのである。その後、侯爵がフィリップの判断を認めたという話が伝わると、ミキストリア様だからしょうがないという雰囲気になり、フィリップを悪くいう声も無くなっていった。


実際には、ミキストリアの「お泊まり」を耳にしたフィリップが焦り、父ローレンスの耳に入る前にと、侯爵家にとって都合の良い相手はいないことや、ミキストリアを手元に置いておく価値など身も蓋もない話をしてローレンスを説得したのだった。令嬢として家と家を繋ぐ役割はミキストリアの魔法に関する新たな知見と祥子の異世界の知識でどうとでもなるということもフィリップは言い含めた。フィリップ、いい兄であった。


侯爵家の人々がミキストリアと祥子を、もうしょうがないというような気分で見始めた頃、2人のステータスは恋人からパートナーに変わった。


もちろんミキストリアは十何枚と無駄にステータスのスクショを撮った。


「じゃあ、アクセスしてみますか。えー、何か検索してみる? <馬車を検索>! おぉ、できた」


ミキストリアはなぜか妙にイラっとするのを感じた。祥子はネットの画面を見ているからいいかもしれないが、それではしゃいでしまうのもわからないではないが、自分には見えない。自分を放っておいてネットに夢中になるってどうなの?


「祥子? やり方がわかったなら、あとは必要な時にやればよいのではなくて?」

「そ、そうかな? いろいろ調べておいたほうがよくない?」

「たくさん調べても忘れてしまいますわ、きっと。必要な時に調べたほうがよいのですわ」

「そうかな、まあそうしよっか。ちょっとステータス見るね。ふーん、最初もMP使うけど、その後もアクセスの度にMP使うみたい」

「そうでしたらなおさら、いざと言うときのためにMP取っておくほうがいいですわ。それよりも何かお話しましょう」

「そ、そう?」

「そうですわ。まだ先は長いのです。いろいろお話しできますわ」


ミキストリアはにっこり笑った。ネットは便利だけど使いすぎは良く無い。祥子に知られたら「わたしの母親か!」と突っ込まれること間違いなしの事をミキストリアは考えていた。


実際問題としても話すことはいくらでもあった。祥子はミキストリアを助けたいと言い、そのための力として天魔法と女神の加護(中)を貰っている。ミキストリアは逆に使命を果たせと言われて、女神の導き(中)を貰っている。このことからも、祥子の知識や力は直接ではなく、ミキストリアや侯爵家を通じて世に出していくのがよいだろうというように結論付けた。これはまたユリウス・マルキウス侯爵家の保護下にいるとはいえ、法的な立場の弱い祥子を守ることにも役立つはずである。


ミキストリアは、祥子が個人的に財産を築くことも提案し、祥子の抵抗を押し切って納得してもらった。侯爵家からもらうお小遣いだけだと自由がなくなるという理由である。祥子の反対は、ミキストリアの「わたくしもあちらで祥子から同じことを言われた」というセリフで押し切ったのであった。もっとも、その後、祥子から、「ミキと同じく、そのお金はミキのために使う」と言われてぐうの音も出なかったのではあったが。


ミキストリアは道中の休憩や途中泊などの時間を使って、父ローレンスにも説明した。公衆衛生は具体的には石鹸の量産、普及と公衆浴場、金融はずばり銀行と損保である。


石鹸の原料としてオリーブオイル、ココナッツオイルや綿実油が使われるという、祥子がネットで拾ってきた知識はローレンスをうならせた。それらは適する気候条件が違うために今まで小麦の生産に向かないと思われていた土地も使える可能性が出てくるからである。これは農業生産を重視する内地派や中立派を大きく刺激することは間違いなかった。また、植物から油を作り、さらには石鹸に加工するということは付加価値の上昇を志向する貿易派にとっても重大事である。新しい産業のために銀行を興し、生産物の普及のために物流と損害保険を整えるのも必須であった。


読んだいただき、ありがとうございます。評価、感想おまちしてます。

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