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異世界ヒーラー世界を治す  作者: 桂木祥子
3章 帰還編
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魔道具師の決断


「本名はアキヒトなんだけど、こっちじゃ言いづらそうなんで、アキトってしてる。あだ名もアキトだったからな。アキト ホッターだな」


店の中のこじんまりとした応接室に収まるとホッターが言った。


「魔法使いになりたかった、とか?」

「なわけないだろ! まあともかく、うちの店員、セーラを助けてくれたことには感謝します。回復魔法も助かりました」

「いえ、何でもない事ですわ」

「侯爵令嬢様はこっちの人ってことでいいんですね」

「ミキストリアで良いですわ。わたくしはユグラドシア生まれですわ」

「こっちに転移して来たのは私よ」

「えーっと」

「桂木祥子」

「桂木さんはいつこっちに」

「祥子でいいわ。わたしもアキトって呼ばせてもらうから。こっちに来たのはついこの前ね。ミキがあっちに来て、ミキが戻ってくるときに一緒にわたしも来たのよ」


ミキストリアは事前の打合せ通り、祥子が話をリードしていくのをお茶をゆっくりと飲みながら聞いていた。


「おいおい、そんな大事なこと俺に教えていいのか?」

「あっちの世界のワンピース着て2人で門通ったからもう結構噂になってるらしいのよ」

「妙な服着た女2人が、個人証の列で揉めて衛兵にしょっ引かれたって話は聞いたが、それか!?」

「わたしたちね」

「今日はなんだってここへ? 商品買うなら並んでもらうぜ」

「あなたの噂を聞いて、転生者か前世持ちなら話をしたかったっていうのが、ここへ来た元々の理由」

「あっちの話をするのは懐かしいし、悪かねえけど、ちょっと忙しくてな。何せ、さっきみたいな貴族がちょくちょくやって来やがる。その度に揉め事になって仕事になりゃしねえよ。クーラーの仕事が一段落したら、たまに話するくらいは構わないけどな」


ミキストリアはお茶で喉を潤すと半分冗談のような口調で言った。


「アキト、ユリウス・マルキウス侯爵領に来るというのはどうかしら?」

「侯爵領? 行くっていうのはどういうことです?」


ミキストリアは祥子を見ると、祥子も頷いて話を引き取る。


「侯爵領に店を移さないかってこと」

「拠点を、移す、ねぇ? 俺になんのメリットが? 幾ら侯爵領とは言え王都よりは人は少ないだろ? 客が減るってことじゃねぇか」

「わたしと話す暇もないってことは、王都の住人全部には商品が行き届かないってことでしょう? 領都でも十分ってことよ。

それに領都なら貴族も少ないし、わざわざ侯爵領まで来て領民に無茶するってこともないんじゃない?」



アキトは腕組みして目線を落とす。


「その話は魅力的だけどよ、王都の住民に商品を買ってもらえないのは俺が困るんだよ。王都の人たちは右も左もわからなかった俺に優しくしてくれたからな。良い商品を王都の人に使ってもらうのは恩返しもあるだよ」

「それなら、この場所は残しておいて、売りに来るとか……は意味ないわね」

「それするくらいなら、最初っからここでいいだろ」

「でしたら、うちの商会を使えば良いのではないかしら」

「商会を使う?」

「ええ、アキトは領都でお店を出して、商品の一部を商会に卸すのです。商会は王都の支店で商品を売るのですわ」

「貴族に優先して売らないとかできるのですか?」

「できると思いますわ」

「貴族には全く売らないってことじゃないよね」

「あぁ、並んでくれれば普通に売る。数に制限はつけるけどな」

「そのくらいはできると思いますわ」


アキトはしばらく考え込んだ。


「そっちのメリットはなんです?」

「領都に素晴らしい店ができるということですわ」

「それだけですか?」

「後は、わたくしと祥子がこれからやることに相談しやすくなりますわね」

「これからやる? 何をです?」

「それをこれから考えるのよ」

「ええ。祥子とアキトの知恵を合わせるともっといろいろ作れるのではないかと期待していますわ」

「なるほど……」

「いつかは自動車みたいなものを造ってほしいですわね。こちらでも運転したいですわ」

「こっちでもってあっちでも運転してたのですか?」

「ええ」

「免許はどうしたのです!?」

「取りましたわ」

「マジか……」

「いろいろあったのよ」


祥子は引越しの際の住民票異動で行った区役所の悪夢を思い出しているのか、げんなりする様な表情で言った。


「お、おぅ、そうか。まぁそこまでお膳立てしてくれるんなら悪くねぇ話ですがね。流石に俺も貴族とのいざこざは、もうウンザリしだしてたんですよ。でも引越しで店を何日も閉めるのなぁ……」


ミキストリアと祥子は顔を見合わせて笑った。


「何がおかしい?」

「引越しなら任せて」

「何っ?」

「収納で一瞬ですわ」

「一軒分の荷物の準備が30分でできたのよ」

「マジかよ……」

「じゃ、決まりってことで良いわね」

「お、おぅ」


ミキストリアは、借りてきた猫のようだった祥子がアキトには容赦なく対応しているのを見て微笑ましくなると同時に、もっと祥子が活躍できる場が必要なのだと改めて思うのだった。


(イキイキとしている祥子を見るのは良いのですが、相手がアキトというのは、なんというか妬けますわね。今後、祥子の活躍の場は女の人相手のほうが……??? あれ? わたくしの恋人ということは、祥子は男の人には興味がない??? え?)


ミキストリアは自分と祥子の性的志向について一人物思いにふけった。


「わたしたちも侯爵領へいくから一緒に行く?」

「う、それは遠慮するぜ。さすがに息が詰まりそうだ」

「ひどいこと言うわね」

「そうはいうけどよ」

「別の馬車にすればいいじゃない? ねぇミキ」

「……」

「ミキ?」

「え、あ、失礼しましたわ。何の話でしたしらかしら? 」


ミキストリアは沼のような物思いから抜け出した。侯爵令嬢としてあるまじき失礼だったし、そもそもまわりにアキトも護衛もいる場で考えたりする内容ではなかった。


「アキトの引っ越しをどうしようか、という話」

「でしたら、わたしたちが出発する前日の午後に来て、荷物を収納しますわ。アキトは、領都についたらわたくしのところへ来ていただければ、お好きな場所に荷物を出しますわよ」

「お、おう。まぁ、店をどこにするか決めてからですね」

「うちの商会に提案させることもできますわよ」


アキトは両手を上げて降参するようなポーズをとる。


「わ、わかった。もう、わかった。全部頼むことにする。俺は魔道具を造って平民のみんなが喜んでくれりゃ.それでいい。そのほかのことは任すことにする。その代わりこっちの言い分も聞いてもらいますぜ」

「侯爵家でできることならいかようにも。それでは出発の予定が決まったらお知らせしますわ」

「おう、頼みますぜ」

「それにしても簡単にOKしたね。もっとネゴるかと思ってたわ」


アキトは腕組みするとしかめっ面になる。


「俺もよ、そろそろ限界かなって思ってた部分もあってな。魔道具はまず平民のみんなに使ってもらいたいんだが、これ以上突っ張るなら、それこそラノベの話じゃねぇけど、自分が王様になるくらいじゃないと難しいかなってな。でもそこまで無敵なスキルはないし、そもそも王様なんてめんどくさいし柄でもねぇ。どこかの貴族かデカイ商会と組めたらなってのは少し思ってた」

「タイミングよかったね、お互い」

「まぁ、そう言うことだ。ところで祥子ちゃん、日本人同士、俺とお付き合い……」

「しませんわ」

「何でミキストリア様が返事するんですか? これは祥子ちゃんに聞いて……」

「しないわ」

「瞬殺? ちょっとは考えたりしない、普通?」

「異世界に来た時点でもう普通じゃないでしょ。ちゃん付けキモいし」


アキトが遠い目でつぶやいた。


「……短ぇ夢だったな」


読んだいただき、ありがとうございます。評価、感想おまちしてます。

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