魔道具師
ミキストリアと祥子は、王都の工房地区にある魔道具店を訪れていた。件の斬新な魔道具を次々作ると言う魔道具師の店である。
店がある通りでは、多くの平民が列を作っていた。明らかに貴族家の従者あるいは侍女とわかるのも何人かいた。
「ミキ、まさかこの列は……」
「ジョン、何か知っていまして?」
ミキストリアは、案内を買ってでた従者のジョンに聞いた。
「お嬢様、これは例のアキトという者がやっている店に並んでいるのです」
「こんなに?」
「はい。今日は商品の発売日で、うちの者も朝から並んだはずです」
「そうなのね」
行列を横目に店の正面へ向かうと、行列で噂する声が聞こえて来た。
「あの女性は商人風にしてるが貴族だろう。お忍びってやつか?」
「間違いないな、金がかかってる」
「騎士もわざと目立たないようにしているしな。間違いない」
「今日、貴族多くない? さっきも男の人が歩いていったよね」
「そうだな、また揉め事にならなきゃいいけど」
ミキストリアは不思議に思って祥子を見ると、祥子も意味がわからないと言ったように頭を振った。店の前では、同じギャルソンエプロンを付けた2人の店員と貴族らしき男が争っているところだった。ミキストリアの護衛としてついて来ていた騎士のマークがそれを見て、ミキストリアと祥子の前に立つ。
「お嬢様、お待ちください」
「何をしているのかしら?」
「揉めてるみたいね。貴族とのトラブルが多いってジョンさんの話だったけどもしかしてそれ?」
貴族らしき男はどうやら列を無視して商品を買いに来た様子である。
「ゾン男爵家で買ってやると言っているのだ! 早く商品を持ってこい!」
「ゾン男爵様、うちの店は貴族様にも平民も皆様並んでいただいていますので」
「商品をご希望でしたら、あちらの列の最後に並んでください」
「お前らは貴族を馬鹿にするのか。貴族が平民と一緒に並べるものか。そこを退け! 店長に話す!」
ゾン男爵は持っていたステッキで店員を打ち倒した。肩にステッキの一撃を喰らった店員は悲鳴をあげて倒れ込んだ。
「キャァ!」
「何をするんです! 誰か衛兵を!」
ミキストリアは仕草で後ろで控えていた従者のビリーに衛兵を呼びに行かせると、ゾン男爵と店員の揉め事に割り込んだ。
「おやめなさい! 国王陛下のお膝元で陛下の臣民を打ち払うとは。恥を知りなさい!」
「これはこれは、どこのお嬢様かとおもえば、商人風情の娘とは。お前の様な小娘が出る幕ではないわ」
ジョンが男爵に向けて軽く礼をし、話しかけた。
「ゾン男爵様、恐れながらこちらはユリウス・マルキウス侯爵家のミキストリア様でございます。これ以上何かありますと、私もお館様にお話しなければいけません。今日はこの辺りでお納めいただくのが良いかと……」
「侯爵令嬢!? な、何で侯爵令嬢がそんな粗末な身なりを……」
「男爵様には関わりのないことですが、ミキストリア様のお召し物のほうが、男爵様よりは上等かと存じますが……」
ミキストリアと祥子は工房地区に来るということで地味なワンピースを着ていた。ずっと前に作ったものだが、侯爵は捨てさせる気になれずきちんと保管されていた。微妙に古いデザインなのであるが、いわゆる平民風なので問題ない。祥子も別の1着を着ている。祥子には少し丈が長いのだが、脚を出すデザインではないので調整すれば済む範囲だった。
そしてこのワンピースは一見そうは見えないものの手が混んでおり、小ぶりなアクセサリーなども合わせると男爵のぱっと見だけ上質そうな仕立てとの服とは雲泥の差であった。よほど列にいた先程の平民の方が目利きだった。
「くっ、何をしている、帰るぞ!」
男爵は捨て台詞すら言えずに従者たちを怒鳴りつけると足早にその場を去っていった。
「絵にかいたような小者ね」
立ち去る男爵をにらみつけた祥子は容赦なかった。
「<ヒール>
ひどいめに遭いましたわね。肩はこれで大丈夫ですわ」
ミキストリアは、店員のシャツの肩口が少し赤く滲んでるのを目にすると、間髪をおかずヒールをかける。
「え、え? あ、ホントだ、もう痛くない」
「助けていただいたのは嬉しいのですが、回復魔法のお礼ができるほどお金は……」
「あぁ、結構ですのよ、わたくしが勝手にしたことですわ」
「本当ですか!? ありがとうございます。助けていた上に回復魔法まで……」
その時、店の中から、黒髪黒目の30代の男が出て来て、倒れた店員を支えていたもう1人の店員に声をかけた。
「ラン、外が騒がしかったがどうしたんだ? なぜセーラは倒れてて怪我を?」
「店長、実は……」
ランという名らしい店員が説明した。店長と呼ばれた男は話を聞くなり激高しだした。
「また貴族が面倒ごとかっ!」
「でもこちらのお嬢様が助けてくれました」
「何?」
「ミキストリア ユリウス・マルキウスですわ。お見知りおきを」
「アキトです。セーラを助けてくれたのはありがたいですが、侯爵令嬢様がどんな用件ですかね? こっちも忙しいんですよ」
アキトの失礼な物言いにミキストリアに同行する騎士や従者が顔をしかめ、ジョンはその態度を咎めようと一歩前に出る。
「アキトとやら……」
ミキストリアが手を挙げてジョンを止めた。
「ジョン、いいのですよ。アキトさん、祥子と会ってもらうために来たのですわ」
これは打合せ通りの対応であった。ジョンの下調べでアキトが貴族を嫌っていることを知り、侯爵家への対応としては失礼で横柄であることを予想していたのである。侯爵家としてはアキトの態度を咎める必要があり、話を続けるにはある程度受け入れる必要があるという判断から、ジョンとミキストリアでお約束のやり取りをして見せたのだった。
「アキトさんですね、わたし、桂木祥子です、日本から来ました」
ミキストリアの斜め後ろにいた祥子が出て自己紹介すると、アキトはのけぞって驚いた。
「何だって? 日本から来ただって!?」
「こんなところでは何ですのでとこかで落ち着いてお話しできませんか?」
「む、では店の中へ」
アキトがそう言ってそのまま店の中に戻るのを見たミキストリアは、軽く肩をすくめると祥子と護衛1人を連れて、アキトの後に続いた。
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