自爆
ミキストリアは、兄フィリップに呼ばれてフィリップの執務室を訪れていた。
「やあ、ミキストリア、呼び出してすまないね」
「いえ、お兄様、何かの御用ですの?」
「まぁ掛けてくれ」
フィリップは椅子を勧めると、仕草でお茶の用意を命じた。
ミキストリアは兄の従者が椅子をひいてくれるのに軽く会釈し、お茶を待った。お茶を出した従者がフィリップの目線を受けて遠ざかるのを待って、フィリップは口を開いた。
「立ち入ったことなんだが、ミキストリアとショーコ嬢の関係を聞きたくてね」
「祥子との関係、ですか」
「ただの友人、恩人ではないだろう?」
「親しい友人、親友というやつですわ」
フィリップはその答えを聞くと背中を椅子に預け、両腕を広げた。ミキストリアは、兄が信じていない事を知る。
「……」
「ミキストリア、ファビウス辺境伯の話は無くなったが、それだけでは済まないよ。以前の、聖と闇属性持ちというだけのミキストリアであればともかく、今や時の人だ。ミキストリアの価値は上がった。最上級と言っていい。歳もずれて今まで考えられなかった組み合わせも出る」
「……」
ミキストリアは黙り込んだ。決心がつかなかった。
「ショーコ嬢もそうだ。ミキストリアよりも歳上だろう?
使命がある、とも言えるが、その使命は婚姻するとできないものなのか? そう聞かれてなんと答える?」
「お兄様は何をどこまでご存じなのです?」
「2人は仲が良いって事だけさ。見知らぬ異世界に飛び込むくらいにね」
ミキストリアは観念した。自分達が政治の駒となることはどの道避けられないと悟ったからだ。どうせなるのであれば、自分達に有利な方がいい。兄に助力を求めるべきだった。
「お兄様の力をお貸しください」
「勿論だとも、ミキストリア。どうすれば良いのかな?」
ミキストリアは深呼吸すると一気に言った。
「わたくしと祥子は好きあっております」
「ほぅ」
「わたくしも祥子も婚姻しません。わたくしと祥子は婚姻できませんが、互いを連理の枝として生きるつもりです」
「それはショーコ殿も同じ認識なのだね?」
「…………はい、たぶん」
「おいおい、ミキストリア」
俯いたミキストリアを見ながらフィリップは肩を大きくすくめた。卓上の鈴を取って鳴らすと、入ってきた従者にショーコ殿を急ぎ呼んでくれ、と頼んだ。
ミキストリアは顔を上げられなかった。1人でリキんで暴走したのだ。恋人にはなったがその先の話、婚姻できない自分達のその先を話したこともなかった。穴を自分で掘ってでも入りたかった。もし祥子が違うと言ったら? 手助けに来ただけだと言ったら? いつかは帰ると言ったら? ネガティブな発想が止まらない。
「フィリップ様、ショーコ様においでいただきました」
祥子は侯爵家の一員と認定されているが、あくまでも客分であった。従者の言葉でミキストリアもその事を痛感する。
兄が立ち上がって祥子を迎え入れるのを、ミキストリアは俯いたまま感じた。祥子の顔を見れない。耳まで赤くなっているのが自分でもわかる。
「急に呼び立てたりしてすまない。ミキストリアがこんな調子でね。まぁ掛けてくれ」
「いえ、それは良いのですが、これは一体……」
「個人的な事なのだがお聞きしても良いだろうか?」
「え? はぁ、どうぞ」
「ショーコ嬢、ミキストリアを嫁にもらってくれと言ったら聞いてもらえるだろうか?」
「は? はい?」
祥子の声は裏返っていた。
「ショーコ嬢の国ではどうか知らないが、この国では、いや、こちらの世界では同性同士は婚姻できない。だが、できるとしたらその気があるのか、という質問と取って欲しい」
祥子が呆れ果てている気配がミキストリアにも伝わってくるが、ミキストリアにはどうにもできなかった。自分の再起動すら終わっていない。
「わたしは微力ながらミキを助けるためにこちらに来ました。女神様に帰れと言われるまでそれは変わりません」
ミキストリアは祥子の言葉に嬉しくなったが、疑問も湧いてきた。嫁にもらうかの返事は無かったからだ。心が落ち着かない。
「そうか。ありがとう。ミキストリアもさっき同じことを言ってね。好き合っていると、一生一緒だと」
なんて話をしているのだと言わんばかりに祥子がミキストリアを睨んでくるが、ミキストリアはまだ再起動中である。
その間にもフィリップが続けた。
「それで、ショーコ嬢も同じ気持ちなのかと聞いたら、ミキストリアはわからないと言うんだ」
フィリップが戯けた様子で腕を広げる。流石のミキストリアもこれには黙っていられない。
「お兄様、おかしな事を言うのは止めて頂けますか。わたくしは『たぶん』と言ったのですわ。『わからない』などと言っておりませんわ」
「同じ事だよ、ミキストリア。なぁショーコ嬢もそう思うだろう?」
「あ、あのう、わたしはもう下がってもよろしいでしょうか?」
「あ、わたくしも……」
居た堪れなくなったのか、祥子が逃げを打つのを見たミキストリアもそれに乗っかろうとしたが、フィリップの方が上手であった。
「あぁ、忙しいところを呼び立ててしまってすまなかった。後はミキストリアと私でうまい方法を考えるよ」
ミキストリアは自分のセリフに被せて言う兄の声を聞いたのだった。
〜〜〜
ミキストリアはその晩、祥子の部屋を訪ねた。常の様な先触れはしなかった。侍女のマリアとサマンサにはちょっと相談があるから先に休んでいて良いと遠ざけた。ミキストリアは兄に喋らされ、盛大に自爆した事で開き直っていた。
「聞いてください、祥子。さっきは兄に騙されたんですわ」
ミキストリアは隣で気怠げに横になっている祥子に話しかけた。祥子の額は汗は月の光で煌めいていた。ミキストリアの鼻にも玉の汗が光る。
「騙されたって、そんな物騒な……」
「ですが、『婚姻してたらダメなのか』とか聞くんです! 答えられないではないですか!」
「……」
「それでわたくしは色々と言わされることになって……」
「あぁ、あれね」
「後で聞けば『女神の使命があるからダメだ』で良いと言うんですよ? ハメられたんですわ」
「ミキ、言い方」
「祥子、ちゃんと話を聞いてください」
「無理……。いくら久し振りだからって激しすぎ……」
「まだ夜は早いですわ」
「いやもう無理……」
「祥子?」
「なんで異世界の侯爵令嬢がバリたち? そんなのあり? どこでそのテクと知識を得たのよ……」
「ネットですわ」
「いや答えてほしいわけじゃなくって……、ああん、ミキ、も、もう十分だから」
「優しくしますわ」
2人の夜はまだまだ終わらなかった。
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