七海への手紙
「ようやく少し時間が空きましたわ」
久しぶりの仕立て屋と宝石やとの打ち合わせ、しかも祥子のぶんまでやって少々疲れが残るミキストリアだったが、祥子に来てもらう様に侍女に頼んだ。
「ミキストリア様、ショーコ様がおいでです」
「ありがとう、マリア。入ってもらって。お茶をお願いね」
祥子もまだ疲れが残っている様だった。
「お疲れね、祥子」
「昨日のあれは無理」
「ふふふ、そのうち慣れるわよ。わたくしも最初は買い物に慣れませんでしたから」
「そうね、そうだったわね」
「それで、そろそろ七海さんに連絡しないといけないと思うのですわ」
「あ! 忘れてた、っていうかやる時間なかったし」
「今やりましょう。明日からも沢山やることがありますわ」
「そうね……。怒ってるかな? 連絡遅いって」
「七海さんならわかってくれますわ」
「そうね」
ミキストリアは収納からチートアイテムの「七海への手紙用便箋」を取り出す。
「2人でそれぞれに書く、で良いですわね?」
「そうしよう」
2人は七海への手紙を書き始めた。
〜七海さんへの手紙 ミキストリア〜
七海さん、
突然のことですが、女神様に再び呼ばれ、元の世界に戻ってきています。祥子も一緒です。2人とも元気にしています。
祥子が女神様に、七海さんへの連絡をしたいと言い、女神様が便箋を用意してくださいました。それで、この手紙を書いています。この手紙は女神様が七海さんへに届けてくれるものと信じています。
七海さんにはいろいろなことでお力をお借りしました。大変感謝しております。
お礼も言えず、お返しもできず、お別れも言えず元の世界に帰ることになり、大変申し訳ない気持ちです。
本当にありがとうございました。
祥子と力を合わせてこちらでやっていきます。
七海さんもお元気で
あなたの友人
ミキストリア
〜七海への手紙 祥子〜
七海へ
連絡がつかなくてびっくりしてるかもだけど、女神様がまた来て、ミキを連れて行くって言うんで、一緒に来た。今はミキの世界にいます。私もミキも元気。
そろそろかもなんて言ってたけど本当に来たよ、しかも最初は私は置いてくとか言われるし。チートももらったけど使い方わかんないしサイアク。説明くらいあるんじゃない? 普通。
この便箋に書くと七海に届くっぽいんだけどホントかな? あ、もしかしてこれも女神様に読まれちゃう? まあいいや。
サヨナラも言えずに来ちゃったけど、七海は一生の親友。変わらないよ。
鎌倉の家は、渡してある合鍵で七海にお任せするわ。住んでもらっても、売っても、何もしなくてもいいけど、七海にちょっとでもプラスになる使い方してくれたら嬉しいかな。あ、車も頼んだ。銀行のお金も使っちゃって。どうせ私使えないし。暗証番号は〇〇〇〇。パソコンは*******。ネットバンクのパスワードはパソコンが覚えてる。
いろいろ恥ずいけど他に頼む人もいないし、放置もできないし、頼まれてくれると嬉しい。
こっちに来てまだちょっとなんで、こっちのことはまだ全然わからない。びっくりすることはたくさん起きた。王様に謁見とか、公爵に紹介とか、驚きよ。王国も色々あって大変らしい。ミキのお兄さんのフィリップさんも大変そうだった。
そうそう、ミキのライトニングはすごい威力だった。こっち来ていきなりゴブリンに遭遇したんだけど、ミキのライトニングで瞬殺だった。七海のおかげだよ。ありがとう、って私がいうのも変だけどライトニングなかったらヤバかったから、やっぱりありがとう。感謝。
この便箋の残りにまた書いたら別で七海に届くかな? まだ残ってるから後で試すよ。届かなかったらすまぬ。
一緒に何かやろうって計画してて出来なかったのが心残り。ごめん許せ。
今までありがとう。ミキとこっちで頑張る。七海の幸せを祈ってます
祥子
書き終えた便箋をミキストリアが収納すると、「七海への手紙」という便箋とは別アイテムになり、その直後に消えて無くなった。
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七海はここ数日間、慌ただしく働いていた。フリーランスに切り替えてもそれなりの仕事の量を確保していたからだ。
「ちょっと仕事入れ過ぎたかもなぁ。ショーコたちとの仕事もあるからちょっと考えないとだねぇ。そう言えば最近メッセージ来ないな」
独り言を言いながら、ある日家に戻った七海は、ダイニングテーブルの上に見慣れない紙があるのに気づいた。
「七海さん」
と書いてあることに気づくと、七海はすぐスマホを取り出すと慎重に紙を一枚ずつ写真に撮った。デジタルカメラとデスクライトも持ってきてさらに写真を撮った。七海は1人暮らしをしているが、この部屋の合鍵を持っているのは賃貸物件の貸主である大家だけで、勝手に入るとは思えないし、ましてや「七海へ」と書いた紙を残すことはあり得なかった。
間違いなく異世界に関連している。そう七海は直感し、急に出現したものは同じように急になくなっても不思議はない、と写真を残すことを優先したのだった。時々文字が目に入るがあえて読まないようにした。とにかくきれいで、完全な写真を残すのが最優先だった。
一枚ごとに何枚もの写真を撮りその写りばえにひととおり安心した七海は、ようやく内容に目を通し始めた。
「ミキちゃん、帰れたんだね。良かったね。いろいろと魔法考えてよかったよ」
七海は、近くにあったティッシュをとると目をぬぐった。あれほど帰りたがっていたミキストリアが帰れたというのは、単純に嬉しかった。応援したかった。ただ、ミキストリアが帰り、それについての連絡が祥子から来ず、まだ何枚も紙があるということの意味はもう既に理解していた。
この日が来ることはわかっていた。そのために準備もした。祥子とは2人で話もした。もしかしたらと思っても本当にその日が、しかもこれほど早く来るというのは、やはりショックであった。涙で字が読めなかった。
何枚ものティッシュを使い少しずつ読み進めた。
「ショーコはどこに行ってもショーコだなぁ」
大きく息を吸った。
「家とか車とか銀行とか、全部押し付けるんかーい」
ソファーに寝転がると小さくつぶやいた。気が進まないが、何もせず、思い出もある家や車が朽ち果てるのは忍びない。
「明日、一回見にいくのがいいかもね」
言い聞かせるように言った。
翌朝、手紙は無くなっていた。思わず口元が緩んだ。
「そうなるんじゃないかと思ったよ」
スマホとデジカメのデータと、念のためとパソコンにコピーしたデータ、さらに万一のためとあちこちのクラウドにバックアップしたデータ、いざという時のために印刷しておいた紙はどれも無くならず残っていた。女神がそこまで手間を掛けなかったのか、ミキストリアを助けた七海への温情なのかはわからなかった。残っていればそれでよかった。
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