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異世界ヒーラー世界を治す  作者: 桂木祥子
3章 帰還編
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衛兵隊長との話


ミキストリアと祥子を連れた衛兵は、入場門傍の衛兵詰所にある隊長室につくと、ノックをするなり返事を待たずにドアを開け、中に入った。門の衛兵隊にとって入場のトラブルは、魔物出現などの超例外的な出来事を除けば、事実上の最優先であるからだ。


「隊長、入場トラブルです」

「入れ」


執務机の後ろの隊長が短く命令すると、衛兵は机の前に進み、それにミキストリアも続いた。祥子も後ろからついてくる。


(初めてて来ましたが、応接セットもあるのですね。客ではありませんから、そちらではないのは止むをえませんですわね


このあたり、ミキストリアは柔軟である。驕り高ぶった貴族令嬢であれば癇癪を起したりしても不思議はない扱いだが、闇属性イジメと宮廷魔法師団での実務経験、異世界での体験は、ミキストリアに柔軟な思考を与えていた。


「何事だ?」


隊長は、衛兵、ミキストリア、祥子に順に目をやると誰にともなく言った。


「はい。ミキストリア ユリウス・マルキウス侯爵令嬢を名乗る者が、宮廷魔法師団の個人証で入場しようとしました」

「何っ!?」

「個人証は無効となっております」

「宮廷魔法師団の侯爵令嬢失踪の件は覚えている。確か4年ほど前だったか」

「……」


ミキストリアは隊長の断定的な言葉で驚いたが、かろうじて声を上げるのは抑えた。ここに来るまでの話で、もしかするとと予想していたおかげだった。そうでなかったら、大声で反論していたかもしれなかった。


「この者は1年前のことと主張しております」

「それはない。私はその事件の時、東門で任務をしていたのだ。酷く慌てた宮廷魔法団の入場確認をしたのも私が所属していた隊だった。その後で侯爵令嬢失踪の話を聞き、なるほどと思ったのを今でも覚えている」

「では、入場は許可してもらえるのですね」

「いや、それはできない。この個人証は無効だったと聞く。これは本物のように見えるが、あなたが宮廷魔法師団の一員であることも侯爵令嬢であることもこれでは確認できないからだ」


隊長は差し出された個人証を手の中でひらひらとさせながら言った。


「他に証明するものは?」

「侯爵家に使いを」

「使いは出してあります、隊長」

「よろしい。ではそれを待つことにする」

「魔物がどうとも言っていたな?」


ミキストリアと祥子を連れてきた衛兵が聞いてきた。ミキストリアは隊長に向き直ると説明を始めた。


「はい。この街道の先、1時間程の所で、ゴブリンウォーリアーとゴブリンメイジ各1匹に率いられたゴブリン6匹に遭遇しました」

「何ぃ!?」


本来大門から1時間程度の近距離に魔物が出ることはない。森が迫っているとはいえ、冒険者や王都騎士団、場合によっては宮廷魔法師団が討伐しているからだ。その近距離での魔物出現は一大事である。


「守衛隊本部へ連絡だ! 待機中の分隊を出動させる!」


隊長は思わず立ち上がり、傍に控えていた連絡役の衛兵に手早く指示を出した。続けて指示を出そうとする隊長をミキストリアは遮った。


「隊長」

「何だ」

「ゴブリンは全て討伐しました」

「「「何だって?」」」


想像もしていない言葉だったのか、隊長も衛兵2人も声を揃えて驚く。部屋を出ていこうとしていた連絡衛兵の足も止まっていた。


「ゴブリンは全て私たちが討伐しました。緊急の危険は無いと思いますが、周辺の警戒と調査をすべきかと」

「……」

「場合によっては、大規模な討伐も必要になるかもしれません」


驚きのあまり口を開けた状態で話を聞いていた隊長だったが、疲れたかのように椅子に腰を下ろした。大規模な討伐と聞いて我に返ったようだった。


「そ、そうだな。すでに討伐されているとなれば、調査だな。待機中の分隊に周辺の調査をさせろ! 魔物の異変の有無だ。遭遇戦の用意も忘れるな。本部へもそう報告しろ。行け」


隊長が改めて命令すると連絡衛兵が慌ただしく出て行った。遭遇戦の用意をさせたのは、ミキストリアの言葉を疑ったか別部隊の存在の可能性を考えたのだろう、とミキストリアはぼんやり思っていた。どちらにしても用意をしておくのは問題ない。


「情報の提供に感謝する」

「いえ、当然のことです」

「しかし、2人でゴブリンウォーリアーとメイジを含む8匹を撃退? 見れば丸腰でもある。信じがたいな」

「スキルに関することですので……」

「あぁ、判っている。だが、確か、失踪した令嬢は魔術師、しかも攻撃魔法を持たない回復魔術師だったと聞く。もし、あなたの主張通りその当人だとすると、話が合わぬのでな」

「侯爵家の隠匿事項でもありますので」

「それは侯爵家の使いが来てからのことだな。そう言えばそちらの女性は名前を聞いていないが」

「ショーコ カツラギです」


祥子はミキストリアに言われていた通り、苗字を後に名乗った。


「カツラギ? 聞かぬ家名だが、証明するものはあるか?」


疑わし気な眼で見る隊長に祥子が焦って何か言いだそうとする所にミキストリアは割り込んだ。


「祥子の身元は私が、いえ、侯爵家が保証します」

「ではそれも、使いが来てからということだな」


気まずい雰囲気であった。隊長は決して敵対しているわけではなく、見慣れぬ服を着たミキストリアの言葉も不審がることなく聞いてはいたが、任務に忠実であり実直だった。ミキストリアもそれがわかるので気にはしていない。


しばらくの間、誰もが破ることなく続いた沈黙は、ドアをノックする音で破られた。


「隊長、ユリウス・マルキウス侯爵家からの使いが来ています」


侯爵家からの使いは緊急事項ではないので入室には隊長の許可がいる。外から声をかけた衛兵は返事を待っている様だった


「入れ」

「はっ、失礼します」


衛兵がドアを開けた。隊長室にいた全員の視線が入口を向く。


「ミキストリア様! あぁ女神よ」


ドアの外にいた壮年の男はミキストリアを見つけるなり言うと涙を浮かべた。


「セバスチャン。元気そうね。ちょっと歳取ったかしら?」

「ミキストリア様はお変わりなく……」


侯爵家の使いのセバスチャンとミキストリアの会話は隊長の言葉で切られた。


「挨拶はそのくらいにしてもらおうか。その様子だとお互いが見知っているということで間違いないようだな」

「ええ」

「はい、もちろんです」

「この者が侯爵家の使いであることに間違いないな?」

「はい、確認済みです」

「よろしい。では、あなたの主張通り、あなたがミキストリア ユリウス・マルキウス侯爵令嬢であると認めましょう」

「ありがとうございます」

「ですが個人証、貴族証なしでの入場となるので2人分の入場料を払ってもらわねばなりません」

「あ」

「何です?」

「貴族証ならここに」

「……。1人分です」

「ありがとうございます」

「宮廷魔法師団への連絡は?」

「必要ならこちらで」

「わかりました。では以上です。君は報告をまとめてから警備に復帰せよ」

「はっ」

「ミキストリア ユリウス・マルキウス侯爵令嬢、どうぞご入場ください。ショーコ カツラギ嬢、王都へようこそ」


ミキストリアが侯爵家の一員と確定したあとの隊長の態度は丁寧だった。


読んだいただき、ありがとうございます。評価、感想おまちしてます。

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