初めての戦闘
ミキストリアは結界線を周囲5mにしたイージスを発動した。常時発動しているイージス専用サーチ魔法がチリチリとした感覚をミキストリアに伝えてくる。
「ミキ、ライトニング打てる?」
祥子が視線を前方に向けたまま案じるような声で聞いて来た。
先ほどまでは同じように焦っていた祥子が落ち着いて対応策を考えてくれてるのを知り、ミキストリアも急に落ち着きを取り戻して来た。
(わたくしはもう回復魔法だけではない。異世界で力をつけ、女神の導きを授かった魔術師。力を見せなさい、ミキストリア)
ミキストリアは自分を叱咤すると、大きく深呼吸して言った。
「祥子、勿論ですわ。我が国初、ライトニング魔法のお披露目ですわ」
そうこうしているうちにゴブリンたちは12mほどに近づいて来ていた。ゴブリンたちは女2人のミキストリアたちが丸腰で、抵抗もできず、恐怖で身動きもできない状態だと見てゆっくりと距離を詰めているのだろう。甘く見てくれるのは大歓迎であった。ミキストリアは後ろを振り返るとこの世界で初めてとなる魔法を発動した。
「<マルチプル ライトニング>!」
ミキストリアにとっても人生初の攻撃魔法の実戦使用、しかも多連装での発動であった。気合が入っていた。後方のゴブリンを先に攻撃したのはゴブリンメイジがそこにいるからである。イージスがあるとはいえ、対火魔法での確認が取れていないイージスでは万全とは言えない。魔法攻撃をしてくるゴブリンメイジを先に相手にするのが定石である。攻撃を担当しない魔術師であってもその程度は宮廷魔法師団で叩き込まれる。落ち着きを取り戻したミキストリアは訓練で身に付けたことを思い出していた。
眩い閃光と共に今まで何もなかった空間に光が出現するや、ゴブリンの頭に向かって轟音を上げて光を伸ばしていく。ゴブリンメイジと3匹のゴブリンは、頭上10cmから落とされた太い雷の直撃を頭に受け、短い悲鳴をあげて倒れた。ピクリともしなくなった。
「祥子、後ろをお願い」
ミキストリアは短く言うと前方に向き直った。後方のゴブリン達は絶命しているはずだが、念のためである。
「もし動くようなら教えて!」
「了解!」
前方のゴブリンは、一瞬で後ろの仲間が倒されたが何が起こったのかわからず、虚をつかれたようにゴブリンウォリアーを振り返っていた。
(遅いですわ)
攻撃や防御に参加していないとはいえ、ミキストリアは宮廷魔法師団の討伐では遠距離攻撃担当の魔術師と並んで後衛に位置し、ヒールをかけ回っていたのだ。戦闘中に敵前で防御もなしに動きを止めることの愚は知っている。
「<マルチプル ライトニング>!」
ゴブリンウォーリアーは腰の剣に手を伸ばしかけていたが全く遅かった。その手は剣を握ることなく動かなくなった。瞬殺であった。
本来であればこれの1/4以下のMP消費で十分だったが、初の戦闘行為、初の攻撃魔法となればミキストリアが加減がわからないのは無理もなかった。ライトニング魔法のMP消費と威力の調査はミキストリアの今後の課題である。
ミキストリアの攻撃職としての初陣は大成功といえた。
「うん、死んでるみたい」
祥子の声にミキストリアが振り向くと、木の枝を持った祥子がゴブリンに近づき、つついて死体を検分しているようだった。
「祥子! 離れて! もしかしたらまだ……」
「多分大丈夫よ.白目剥いてるもの。焦げ臭いし」
祥子が鼻を摘んで言った。ミキストリアは頭を振ると、ゴブリンの死体を全て収納した。収納できる、つまりは完全に死体だと言うことである。まだ息があれば収納できないはずなので生死の確認には便利だった。
「それでも!」
心配だからと続けようとしてミキストリアはその場に崩れ落ちるように座った。
「ミキ!」
祥子が慌てて走ってくる。
「ミキ、どうしたの? 大丈夫?」
「ちょっと膝の力が抜けただけですわ」
「ふふふ。お疲れ様。格好良かったよ、ミキ。魔法も凄かった」
「少し緊張しましたわ」
「緊張っていうより、焦りすぎ? ライトニング忘れてたでしょう?」
「そ、そんなことなありませんわ。思い出すのにちょっと時間がかかったのですわ」
「ふふふ、そっか」
「そうですわ」
「ちょっと休もっか」
「そうですわね。そういえば祥子、なぜあそこにゴブリンがいるとわかったのです?」
「うーん、なんでかな? 虫の知らせ? とにかくそのまま近づいちゃだめだって気がして」
祥子もミキストリアも知らなかったが、祥子のこの能力は、女神ユグラドルの加護(中)の効果の一つ、危機察知であった。虫扱いされたが、2人の命を救った優れものであった。
「そうだったのですね。少し不思議ですが……」
「そういえばLV上がったよ。4つ。MLVも上がった」
「MLVも、ですの? ちょっと早すぎではないかしら?」
ミキストリアが不思議に思うのも当然で、元々のレベルが低いとはいえ4は上がりすぎだった。これも加護(中)の効果である、取得経験値30%増の賜物なのだがまだ2人は知らなかった。
「そうなの? わたしがレベルの低い弱ヨワだからじゃない? そろそろ行く?」
「ええ、行きましょう」
そういうと、ミキストリアは立ち上がって祥子と歩き出した。
進行方向側のゴブリンがいたあたりを通過する時、ミキストリアは、ハッとし、周囲10mまで結界線を広げたイージスを発動した。本来王都に近いこの場所に魔物が出ることが異常であり、ミキストリアはそのことを知っているからこその無警戒でもあったが、ミキストリアはこれ以上、祥子の前でカッコ悪いことはできなかった。
ミキストリアは王都につくまで、定期的にイージスを発動し続けた。
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