祥子の悩み
「ねぇミキ、またキャンプ行かない? 七海も誘って」
ミキストリアは、重大な決心を告げるような祥子の様子と、その内容に落差に気づき、違和感を感じたが一瞬の間だけだった。第一回のキャンプから2ヶ月ほど経っていた。あの時の楽しかった記憶はまだ鮮明だ。
「馬刺も買いますわよね?」
「え? 馬刺? いきなりそっち? ずいぶん気に入ったのね」
「ええ、あれは衝撃でしたので」
「そうなのね。もう寒いから暖かい伊豆か千葉の方って思ってたけど、馬刺ならあっちがいいかもしれないわね」
「場所はお任せしますわ」
「わかったわ。七海の予定も聞いて決めるわ」
~~~
「おはよう! ショーコ、ミキちゃん。申し訳ないけど、ミキちゃん、この荷物お願い」
「ええ、お預かりしますわ」
当日、七海は前回と同じような荷物に加えてノートパソコンを持ってきていた。ミキストリアは、七海が差し出したクーラーボックスを受け取り収納に入れた。
「ごめんね、七海、無理して予定開けてもらって」
「大丈夫。ちょっと仕事させてもらうけど、まぁ大丈夫でしょう」
「七海さん、わたくしたちが話をしていても大丈夫なのですか?」
「大丈夫だよ。残ってるのは書類仕事だけだから。話振られても応えられないかもしれないから、2人で話してて」
ミキストリアも車の運転にはだいぶ慣れて来ていたが、高速道路は久しぶりであり話の内容はミキストリアの運転に関わることが多かった。
御殿場で祥子に運転を代わるころになっても七海はまだ仕事をしていた。車内の会話は、どこで何を買うといった食事に関することになった。買い出し中も七海は仕事を続けていた。
「終わったぁ!」
「七海さん、お疲れ様ですわ」
「良かったわね七海。ちょうど着くところよ」
「いや間に合わないかと焦ったよ」
ギリギリで仕事を終わらせた七海はチェックインを済ませるとすぐに燻製を始めた。
「はいこれでよし。温泉行こ!」
「七海が急に元気になって安心したわ。七海のベーコンも楽しみにしてたし」
「ええ、本当によかったですわ」
ミキストリアは夕食の馬刺も堪能した。
(このためだけに来てもいいですわね)
ミキストリアはすっかり馬刺にハマっていた。
各自飲み物を、もう寒くなって来ているのでホットワインのような温かいものを持って焚き火に移動した。
ミキストリアは、朝から祥子の様子がいつもと違うことに気づいていたが、その原因はわからず、不安に思いながらも祥子が自分から口に出すのを待っていた。
「ちょっと前に来て以来なのにすごく懐かしく感じるよ」
「そうね」
「で、ショーコ、今回はショーコがわたしたちに話があるんでしょ?」
「……」
「思うにショーコはまずミキちゃんとちゃんと話すべきね」
「わたくしと?」
「やっぱり。ミキちゃんのその様子じゃ、何も話してないんでしょ。追加のお酒買いに行ってくるからその間に話しなよ」
サッと立ち去る七海を、ミキストリアは呆気に取られて見ていた。一緒に暮らしていて話す時間はいくらでもあったのだ。確かに祥子がここ最近思い詰めたような様子だったのはわかっていたが、自分に関することとは思いもよらなかった。
「祥子、なんでしょう? わたくしはどんなお話でも聞く用意がありましてよ」
ミキストリアは、きっと良くない話だろうと思いった。悲しいが、祥子の望むことなら叶えようと決めた。
「ごめん、ごめんなさい、ミキ。今まで話せなくて」
「ええ、いいのですわ」
「私には他に方法が思いつかなくって。
ミキに頼むのはダメだって思うんだけど。
他に無くって」
ミキストリアはいよいよ覚悟を決めた。
「お聞きしますわ」
「ミキの力を借りたいの」
「……」
ミキストリアは自分が何を聴いたのかわからずに戸惑った。なんと返していいかわからず黙り込んだ。
「ミキと一緒にやりたいの」
祥子の声は小さかった。
「はい?」
ミキストリアは思わず聞き返した。祥子の声は小さかったが聞こえた。意味がわからなかった。もっと悲惨な話、家を出ていってほしいとか、もう会わないとか、そう言った悲しい内容かと身構えていたのだった。
「ミキと一緒に仕事をしたいの。でも、わたしには何も力がなくって、ミキの力を借りるしか思いつかないの。ミキを利用するようで本当は嫌なの。でも一緒にやりたいのよ」
ミキストリアは、覚悟していた悲しい結末では無かったことでホッとした。涙が出て来るのを止められなかった。
「くっ、うっ………」
「ミキどうしたの!?」
「なんでショーコはミキちゃん泣かせてるわけ? 何してんの?」
「いや、これは、ミキが」
「……」
思えば、こちらの世界に転移して来た最初から幸運続きだったのだ。ひとりぼっちで苦労する、それ以上に生死を彷徨ったり短い命をこの世界で散らすと言うこともあり得たのだ。祥子に出会えて幸運だったのだ。女神様のお願いもあったが、それ以上に祥子に助けられていたことに改めてミキストリアは感謝したい思いだった。
「いえ、うっ、これは、うぐっ、わたくしが………」
「ショーコ!!」
「え、ええ?」
ミキストリアはなんとか自分を落ち着かせると、祥子は悪いわけではないことを階だしから帰ってきた七海に説明した。
「と言うことですわ、七海さん」
「ショーコが悪いんじゃん」
「「え?」」
「ショーコが最初からちゃんと説明しないのが悪いんじゃん」
「そう言われるとそうなんだけど……」
「で、わたしはその話にどう絡むわけ? ショーコは考えてくれてるんだけよね?」
「七海がコワイ」
「七海さん、容赦ありませんわね」
「はい、キリキリ話す!」
自分の仕事を持ち込んでまで付き合うことになった七海は容赦なかった。
「……というわけで具体的に何をっていうのは全然決まってないんだけど。七海にはアプリとかシステムとか、できたらマーケティングも頼みたいのよ」
「アプリとかシステムは何やるかによっても変わるけど、まぁ、それはいいよ。うん、わかった。マーケティングはSNSとか手を動かす部分はやってもいいけど、戦略はショーコがやらないとだよ」
「戦略?」
「何を売るのか、とか特徴とか、誰に売るのかとか、商品戦略の部分」
「なるほど」
「何を、と、誰に、が決まれば、どうやってお客を呼んでくるか、ってことになるからそこは手伝ってもいい」
「ありがとう、七海」
「商品戦略のところも意見は言うけど、決定するのはショーコってことだよ」
「わかった」
「ショーコはいずれ会社辞めるってことだよね?」
「そうなるわね」
「えっ?」
「ミキちゃん、ショーコがやろうとしているのは会社で働いている片手間ではできないよ」
「そうなのですね」
「うん。ショーコは100%これに頑張らないと成功しないと思う」
「……」
「でも、聞いただけだけど、私の部分はそこまでいかないと思う」
「そうなの?」
「だぶん。だから非常勤みたいに考えてくれると嬉しいかな。週何日か、2日とか3日とかこの件に時間取って他は別の仕事することになると思う」
「わかったわ。それいいわ」
「あとは、何を商品にするかだね」
「そうね」
「それが一番大変なんだよ」
「うっ」
「まぁ、2人の門出? ショーコがやっと決めた日ってことで乾杯しよ!」
「七海さんもですわ」
「そうよ、七海もよ。逃がさないわよ」
「おぅ、そうだった」
3人は、夜も更けて室内に移り、日が変わっても続いていた。
翌日、3人とも朝、昼食を抜いた。ミキストリアのヒールで二日酔いは避けられても、食べ過ぎは治らないからである。昨晩は食べすぎた。
3人は温泉で、花壇の前で、あちこちに場所を変えながら、商品をどうするかのアイディアを話し合った。
「ヒールをどう使うかなのよね。ミキを利用するようで本当に申し訳ないんだけど」
「まぁヒールだよね」
祥子の台詞に頷きながら七海がチラッとミキストリアに視線を送る。ミキストリアは七海の視線には気づいたがその意味はわからなかった。
七海は祥子がミキに悪いと言いつつ、ミキの力を使うことでミキがお金を得る手段を作ろうとしていることがわかるからであった。
「美容かなー」
「美容だね。医療は無理よ」
「七海の髪もツヤツヤになって来たしね」
「ミキちゃん、様様よ」
祥子のアイディアは美容のためにヒールを使うという、今までにも話し合って来たことだった。それを少し大々的にやろうというのである。
3人はこの日も夜遅くまでアイディアを出し合った。
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