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異世界ヒーラー世界を治す  作者: 桂木祥子
2章 修行編
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収納魔法の練習


ミキストリアは、祥子との約束の通り、毎日家中にクリーン魔法をかけていた。何だったら2度する日もあった。


(隅々まで行き届いた気がしませんわね。MPも有り余ってますし。もう一度<クリーン>)


クリーン魔法は見ている範囲、あるいは術者がイメージした範囲に効くので、対象とする範囲をきっちり認識する必要があった。


ミキストリアが祥子と住むこの家は、4人家族用であり、それなりに広い。LDKなどは住み始めたころは、何度かクリーン魔法をかけないと隅々まできれいにならなかったくらいである。


今ではもう慣れたもので、一回のクリーンでできるようになったし、リビングにいて、後ろ方向にあり見えないダイニングも含めて一回でクリーンしていた。複雑な形のキャンドルシャンデリアも含めてクリーンできるようになったのもそのころである。


(そういえば、シャンデリアにクリーンがかかっていなくて埃がたまっていたのを初めて見たときには驚いたものです。

侯爵家の使用人はああいったところも、きれいにしてくれていたのですね。感謝ですわ)


遠い(?)実家の使用人に感謝するのであった。


家の中をあちこち回ってクリーンしていたミキストリアは、自分の寝室の前に来てふと考えた。


(ドア越しでもできるのではないかしら)


見えないところや広い範囲をクリーンするには生活魔法とは言えそれなりにMPが必要なのだが、膨大なMP量を持つミキストリアは頓着していない。MPが必要とは言え生活魔法なのだ。宮廷魔法師団で生活魔法の消費MPを気にする魔術師はいなかった。


ドア越しにクリーンをかけてドアを開けてみるが、そもそもどのくらいどこが汚れていたかなど見ていないので効果があったのかどうかもわからなかった。


(ふふ、わたくしとしたことが迂闊でしたわ。ゴミがなかったらわかりませんわ)


ミキストリアは、ティッシュをちぎって部屋のあちこちに置くと部屋を出てドアを閉めた。


「<クリーン>」


わざわざ詠唱した。宮廷魔法師団の後輩に聞かれたら、スランプで魔法発動が不安定になっていると上司に告げ口されかねない状況であるが、魔法効力を上げるため、ミキストリアは結果を優先した。


これでどうよ、と言わんばかりの勢いでドアを開けて寝室に入り検分する。ミキストリアの予想に反して、ティッシュの切れ端が一つ隅に残っていた。


(なぜですの? なぜ一つ残って……)


ミキストリアは、残ってしまったティッシュの前で考え込んだ。ここでもう一回クリーンすれば、このティッシュは間違いなくきえるのだが、そうではなかった。「センパイ、スランプですか?」と聞いてくる気さくな平民の後輩の声が聞こえるかのようだった。


(いえいえ、スランプなどではありませんわ)


ミキストリアは脳内の後輩の声を振り切った。


(ゴミに注目するのが間違っておりますわ。注目すべきはきれいにする対象、部屋のほうであるべき)


ミキストリアはそう結論すると、再びティッシュをちぎって散らし、部屋を出てドアを閉めた。


(部屋をきれいに、部屋を……。<クリーン>)


今度は詠唱しなかった。部屋を対象とすることに集中していたのだ。


今度はすべてのティッシュ破片は消えていた。成功だった。ミキストリアはこの成功に気をよくして、すべての場所をドアの前からクリーンした。とはいえ、内部を細かく意識して覚えているわけではないので、いったんドアを開け、内部の状況を確認、記憶し、ティッシュを散らし、ドアを閉めてクリーンするという面倒な手順を踏んだ。件の後輩が見ていたら何をしているのかとあきれられるところだろうが、ミキストリアは頓着しなかった。こういった一見回り道のように見えるステップが後々効いてくることをミキストリアは学習していた。


ミキストリアは徐々にドアから距離を開けてクリーンをするようになった。隣接する二つの部屋を同時にクリーンすることも試し始めた。部屋に入り、ティッシュをちぎって撒き散らし、ドアを閉めて離れ、クリーンするというかなり面倒なことをしている。


「こういう地味な検証が重要なのですわ」


ミキストリアは思わず口に出していた。脳内後輩の揶揄する声が聞こえたような気がしたのである。失敗してティッシュが残ることもあったが、ミキストリアは気にしていない。魔法の習熟には訓練が必要なのは常識である。


ミキストリアが人知れず遠隔クリーンあるいはマルチクリーンともいえるようなクリーンの訓練をしていると、ある日の夕食時に祥子が聞いてきた。


「ミキ、そういえば最近ティッシュの減りが早い気がするのだけど、まさか風邪とか引いていないわよね? ヒールもしてるし」

「ええ、風邪はひいていませんわ」

「ならいいのよ、ちょっとそれが気になっただけ」


ミキストリアは心配したことを詫び、自分のやっている訓練を話した。


「そういうことね。安心したわ。でも無理しないでね」

「ええ、祥子に心配かけないようにしますわ」

「七海が聞いたら面白がりそうね」

「後で、伝えますわ」


ミキストリアは食事後、グループチャットにメッセージを送った。


(七)また面白いこと思いついたね。ミキちゃん凄いよ

(ミ)たいしたことではありませんわ

(七)クリーンと捨てる収納ってどう違うの?


ミキストリアは固まった。気にしたこともなかった。同じくグループチャットを見ていた祥子もこちらを見てくる。


「か、考えたこともありませんでしたわ」

「気にしなくていいのよ、ミキ」


(七)見えないところの収納もできたら便利そうだなって

(七)気にしないで

(ミ)いえ

(ミ)いろいろやってみることが増えましたわ

(七)ごめん

(七) m(_._)m

(ミ)いえ、ありがとうございます


ミキストリアはいろいろと試してみたものの、結局は断念することにした。目に見えているか、触っていないと収納できないのである。クリーンと収納は微妙に違っているようだった。


あとはどのくらい距離が離れてもできるのか、であった。七海からも、試してみたら面白いよ、とけしかけられていた。


クリーン魔法の訓練で鍛えたのがよかったのか、遠くのものであっても収納し、また収納から取り出すことができた。家の中では距離が足らず、ミキストリアは祥子に頼んで一緒に海岸に行き、落ちている貝殻を使って試した。姿が見えていれば、かなり遠くまで2人が離れても問題なかった。


この話を伝えると、七海はまた大喜びした後、さらに煽ってきた。


「空中にも出せるの?」


空中は意外にも難しかった。収納から出すことではなく、思った位置に出すことが難しかったのである。距離が離れるほど目標からずれた。地面に出すのと違って、距離感があわないようだった。高い位置に出そうとするほどずれるのである。


この話をグループチャットに書くと、七海からビデオ通話がかかってきた。


「ミキちゃん、凄いね。空中もお手のものだね」

「ですが思った位置にならないのですわ」


ミキストリアはすこししょげて言った。


「ミキちゃん、三角関数っていうのがあってね……」


七海はミキストリアに絵を使って説明した。


「後で、角度でどう距離が変わるか表にして送るよ」


表はすぐに来た。水平距離を100とした時に空中への距離、直角三角形でいう斜辺がどのくらいになるかが並べられていた。ミキストリアの世界でも直角三角形の辺の比についての理解はあったが、建築などごく一部の関係者に限られており、魔法を特色にする侯爵家では知らないのも無理はなかった。


角度を目安で判断できるようになり、表で地表目標からの何割増し、というように距離をとらえることで空中への収納からの取り出しの精度は急速に向上した。


「これでミキちゃんにいつでもシャワー出してもらえるね」

「七海、あなたそれだけのつもりじゃないでしょ」

「まぁ」

「けしかけすぎよ」

「反省はしていない(キリッ)」

「キリッじゃないわよ」

「ミキちゃん頑張った、えらい」

「七海さんのおかげですわ」

「ところで、さっきくらいの距離って攻撃魔法は届くの?」

「これだけ離れると無理ですわね」

「弓とかは?」

「届きませんわ」

「ミキちゃん無敵じゃん」

「やっぱりそれか……」

「え?」

「ミキちゃん、大きな岩とかをね」

「あ!」

「熱湯もいいわね。煮立った油とか」


七海はさらに、目の前に用意したものを、収納、空中放出と連続して行うことで、移動させているように見えるように使うのがよいと、ミキストリアに言うのだった。そうすると収納魔法であることがバレにくくなり、他の収納魔法が使える魔術師が真似する可能性が減るからである。新規に転送魔法だというと、他人が同じことをやるのが難しくなるからだった。


攻撃魔法も弓も届かない距離から相手の頭上に、岩だの熱湯だの煮立った油だの物騒なものを精密に落とせる魔改造された収納魔法と、収納と遠距離での空中放出を瞬時に連続発動する爆撃魔法「ボンバー」の完成であった。勿論七海の命名である。


ちなみに水も油もヒートアップ魔法で熱々にできるのでわざわざその場で加熱しなくてもいい。


「そろそろもう攻撃魔法は打ち止めでいいんじゃないかな、ミキちゃん」


ミキストリアも異論はなかった。


読んだいただき、ありがとうございます。評価、感想おまちしてます。

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