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異世界ヒーラー世界を治す  作者: 桂木祥子
2章 修行編
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七海の悩み


「ミキ、七海が遊びに行かないかって。キャンプがしたいらしいわ」

「キャンプですか?」

「やったことある?」

「ええ、遠征する時はほとんど野営でしたわ」


ミキストリアの世界ではレジャーとしてのキャンプは無かった。自然は危険なものであり、野営は警戒しながら行うもので決して遊びではない。


「えっとね、多分ミキの言う野営とこっちのキャンプは違うわ」

「そうなのですか?」


祥子から聞くには、今回はキャンプというよりグランピング、しかもコテージに泊まり、温泉に行ったり焚火をしたりするのだと言う。


「楽しそうですわ」

「2日もいたらやることなくてぼーっとするけど、たまにはそれもいいかもね」


〜〜〜


当日朝、最寄駅で七海と合流し、山中湖へ向かう。運転は高速を降りるまでミキストリア、その後は祥子と決めてある。ミキストリアは先日無事四輪の免許を取った。ミキストリアが正式に免許を取った時、祥子は大喜びした。ミキストリアのためもあるが、チートアイテムである千代田区の住所が書かれた古い免許が不要になると言うこともあった。


七海は持ってきた小さなクーラーボックスをミキに渡して収納してもらうと、後部座席に乗り込み、寝ると言って熟睡し出した。


3人とも着替えとタオルなど身の回りのものしか持っていない。キャンプの道具は借りる予定であり、コップや食器などそれ以外のものは全てミキストリアが収納していた。御殿場に着いた時、ミキストリアは、初めての長距離運転でぐったりしていた。


「ミキちゃん、お疲れ! ここからはショーコだから休んで!」

「ずっと寝てた七海に言われるのもなんか微妙ね」

「緊張しましたわ……」


御殿場市内で食材を買い、昼食も済ませ、山中湖畔のキャンプ場にチェックインする。夏休みも終わった後の平日なので空いていた。


コテージ内にはハンモックもあり、それを見つけた七海は子供のようにはしゃいでいる。


(七海さんお疲れのようでしたが元気になりましたわね)


七海がいきなり寝てしまったので、ヒールをかけるタイミングもなかったミキストリアは、七海が元気を取り戻したのをみて安心した。


「今日は乗せてもらったお礼に、美味しいベーコン奢るから」


七海はそう言うと借りてきた燻製機を組み立て、持ってきたクーラーボックスから豚の塊肉を取り出すとセットしていった。


「七海さん、手際いいですわね。何度もやってらして?」

「うん、たまにだけどね」

「まさか燻製チップも持参とはね」

「え、だって好みの仕上がりにしたいじゃん。

 これでOK!

 さ、温泉行こ!」


温泉から戻ると焼肉の準備を始めた。ミキストリアは温度制御魔法でワインやビールを冷やした。


「焼肉ができるまではこれね。馬刺」

「馬? 生?」


ミキストリアは目を丸くした。途中で肉屋に寄ったのも、肉を買ったのも覚えているが、まさか馬を、しかも生で食べるとは思っていなかったのである。


「そう、生姜醤油で食べると美味しいよ」

「ミキ、無理しなくていいのよ」


ミキストリアは笑顔で言う祥子を見たが、その笑顔はミキストリアを心配しているようには見えなかった。


「ええ、ちょっと驚いただけですわ」


屋外で魔物の心配をすることなくお酒を飲み、食事をするのは楽しかった。馬刺は美味しかった。


「七海さん、誘ってもらって感謝しますわ。こんなに楽しいとは」

「外で食べると何でも美味しいよね」


ひとしきり焼肉を堪能すると、飲み物を手に焚火を囲んだ。マシュマロやソーセージを焼くのも忘れない。


「それで七海はなんか話があるんでしょう?」


ミキストリアがちょうど焼けたソーセージを味わっていると、おもむろに祥子が切り出した。


「えぇー、もう突っ込んでくるの? ショーコちょっと早いよ」

「どうせこのキャンプの間に話すつもりなんでしょ? 早い方がいいわよ。それとももっと飲む?」

「白ワイン貰おっかな」


ミキストリアは収納から白ワインを出しグラスに注いで七海に渡した。外に出しておいて倒しそうになったのでワインは全て収納に戻していた。


「ありがとう、ミキちゃん。

 えー、今の会社を辞めようと思っててさ」

「ほほぅ」

「別の会社に行くか、フリーランサーかで迷っててさ」

「なるほど」

「3人で会社始めたら面白いかなーとかも思ったのよ」

「この3人で?」

「そう。でも方向性が違うじゃん、みんな。だからこの案はないかな、と」

「そうねー、楽しいとは思うけど何したらいいのかわかんないなぁ」

「みんなの得意なこと、やりたいことやるのがいいんだけど、それで一つに纏まんないんだったらちょっと無理かなって」

「そうね、今すぐには難しいわね」

「やっぱりショーコもそう思うよね。だから3人でやる案はナシ」


その後も2人の話は続いた。ミキストリアは、話に耳を傾けながら、時折お酒を補給した。湖畔の夜はひんやりとしており、焚火は暖かく、空は高く澄んでいた。揺れる炎を見つめながら、今までと同じではいられないのだと直感的に悟った。


翌日は3人とも遅かった。コーヒーを淹れ、ホットサンドでブランチにした。ミキストリアは相変わらず包丁を持たせてもらえず、祥子と七海が準備、ミキストリアは焼き上げる係である。七海は、昨日燻製して半日冷蔵庫に入れておいた手作りベーコンで、ベーコンエッグを作ってくれた。屋外で食べるホットサンドと七海謹製ベーコンエッグは最高だった。


その後も花を愛でたり、温泉でまったりしたり、ゆっくり過ごした。日本人の自慢だと祥子がいう富士山は綺麗だった。ミキストリアは、箸も使えるようになっていたが、夕食の蕎麦屋では苦戦したのでマイフォークを収納から出して使った。


コテージに戻って再び焚火を囲み、ベーコンを炙っていると祥子がぶり返した。


「それで七海は決めたの?」


ミキストリアにも、七海が一緒に遊びながらも考え事をしているのには気づいていた。


「やっぱり3人でなんかやりたいのよ。でも思いつかない。だから決めたの。フリーランサーになる。フリーランサーになって色々な仕事をしながら考えるよ」

「そっか、ありがとね」

「七海さん……」


ミキストリアは言葉が無かった。


「ミキちゃんはどうする?」

「そうですわね……」


ミキストリアも自分も変わらないといけないとは思っていたが、何も思いつかなかった。


「何ができるでしょうか?」

「ミキちゃん、お話書いたら?」

「ああ、それはいいわね」

「お話、ですか?」

「うん、ミキちゃんの世界の話」

「ですが、わたくし、冒険者の活躍の話など知りませんわ」

「ミキ、王国の歴史とかどう?」

「貴族のどろどろとした抗争とか凄そう」

「知ってるでしょう?」

「王国の歴史に抗争ですか? 歴史は知っていますが、抗争の方はそれほどは。面白いですか?」

「ミキちゃん、面白く書くんだよ」

「七海にかかると何でも簡単そうになっちゃうね」


ミキストリアは、いつかまた3人でキャンプに来ようと決めていた。


この後、ミキストリアは侯爵家の歴史を中心に、聖ユグラドシア王国の歴史を「ユメリアル王国興隆記」、宮廷魔術師団でのあれこれを「宮廷魔術師の日々」として小説を書き、興亡ものファンを中心にすこしだけ売れたのだった。興亡ものだと信じて買った読者から、亡国編はいつか、と問い合わせが来たが、もちろんミキストリアには書けなかった。王国はまだ健在だからである。


読んだいただき、ありがとうございます。評価、感想おまちしてます。


ストックもなくなってきたので平日のみの投稿にします。よろしくお願いします。

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