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異世界ヒーラー世界を治す  作者: 桂木祥子
2章 修行編
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新属性魔法の発見


「暑いわねぇ」


ある暑い日の週末、買い物から帰り家に入るなり、祥子が唸るように言った。


2人が暮らすこの家は、広く快適で、居心地の良い場所なのだが、唯一の欠点が古くなったエアコンであった。8年ぶりにこの家で夏を過ごす祥子はエアコンの力不足に、夏が来るまで気がつかなかったのだった。


「暑さも厳しくなりましたわね」

「よし、今日はバーライトパーティにしよう!」

「ええ、それがいいですわね」


バーライトパーティは暑い夜に2人が始めた遊びである。この家の照明は、キッチンなど正確な色味が必要な場所を除き、暖色系の光を出す電灯色電球で統一されていた。これは柔らかで優しい感じなので祥子もミキストリアも好んでいるが、熱いのが難点であった。LED電球に付け替えてだいぶマシにはなったが、暖色系という通り、夏には暑苦しい感じが出るのはやむを得ないことだった。


ミキストリアがバーライト魔法を完成させてしばらくしたある日、リビング、ダイニングの電気を全て消し、代わりにバーライト魔法で床から筒状にした光源を数本生やして照明にするという遊びをやって2人ともハマった。LED電球は少ないとは言え発熱する。それが無くなった。バーライト魔法の光は青白く、冷んやりとした気分にさせてくれた。ミキストリアはMP消費を減らして光量を下げる技も身につけているため、少し薄暗いという程度に光量を下げることもできた。そうすると、いつもとはがらっと違った雰囲気の食卓になるのも良かった。ミキストリアは毎日でも良かったが、祥子がMP消費を気にして、たまにやるくらいにしていたのだった。


ミキストリアは早速、数本のバーライトを出し、リビングとダイニングの照明を落とした。


「ありがとう、ミキ。この雰囲気だけでも涼しい気がするわ」

「同感ですわ」


しばらくリビングのソファでくつろいでいた祥子だったが、意を決したように立ち上がった。


「よし、そろそろご飯作ろっか」

「ええ」


ミキストリアが短く返事をし、祥子を追って立ち上がると、祥子がサイドテーブルに置いてあった雑誌に手をぶつけてしまうところだった。祥子は落ちそうになる雑誌を取ろうとしてバランスを崩し、反対の手を広げてバランスを取ろうとした。


「あ!」


ミキストリアは思わず声を上げた。祥子の手が床から生やしたバーライトの光源を横切ったからであった。バーライトは消えた。


「祥子!」


ミキストリアは慌てて祥子に向かった。ライト魔法の光源に触れた人はいなかった。触る必要はそもそもないし、遠くまで照らすように光源を手が届かない高い位置に置くのが普通だった。ミキストリアにも光源に触れた場合にどうなるのかの知識はなかった。最悪の場合、怪我をしてもヒールで治せば良いとは思うが、何もないに越したことはなかった。


「ごめん、ライト消しちゃった」


ミキストリアが傍によると祥子が言った。


「怪我はありませんか?」

「うん、ライトに触って消しちゃったけどなんともないよ」

「念のためヒールします。<ヒール>」


ミキストリアは祥子の返事を待たずにヒール魔法をかけた。普段のミキストリアであればステータスを確認してから必要な量のMPでヒールをかけたはずである。ミキストリアは落ち着いていられなかった。回復の標準手順など頭から抜け落ちていた。

「祥子、確認のためステータス見せてください」

「え、あ、うん」

「<ステータス>」


ミキストリアは直ちにステータスをかけた。


「問題ないですわ」

「ごめんね、ありがとう。申し訳ないんだけど、消しちゃったやつまた点けてくれる? で、今度こそご飯作ろう」

「なんでもない事ですわ」


その後祥子とミキストリアは、いつものように過ごし、それぞれの寝室に分かれた。


ミキストリアは寝室で考え込んだ。祥子がバーライト魔法を消したシーンが目から離れなかった。


(あの時、間違いなく発動済みの魔法効果が中断させられていましたわね。

 通常であれば、魔法効果はMPが尽きるか術者がキャンセルするまで続くはずですわ。

 MPはまだありました。他のバーライトはあの後もずっと点いてましたから。

 わたくしが慌ててキャンセルした? いえ、ハッとはしましたが、キャンセルする時間は無かった……)


翌日からミキストリアはバーライト魔法に物理的に干渉する実験を始めた。祥子は何とも無かったが、念のため、自分の腕ではなく雑誌を使った。祥子がライト魔法の光を消す原因となった雑誌である。


光源の直径は測れないので厳密ではないものの、直径のおよそ3/4を塞ぐと光が消えることが判明した。塞ぐ部分が3/4以下であれば、塞いだ部分がなくなり細くなるものの光は消えない。ただしその後、塞ぐのをやめても元の太さには戻らなかった。


ミキストリアがこの話を祥子にすると、祥子はホースの中を流れている水みたいだと言って笑い、七海にも伝えた。七海は祥子以上に面白がり、色々な実験パターンを提案してきた。ほとんど実行できない案だった。眩しくて中を流れている何かが見えないのなら光らなくすればいいという案に、ミキストリアは声をあげて笑った。


「ふふふ、光らなかったらライト魔法になりませんわね」


その夜、ミキストリアはシャワーを浴びながら落ちてくる水滴が光ってキラキラするのを見つめていた。シャワーヘッドを塞いだり戻したりして、バーライトはふさぐとその太さになってしまうが、その点以外は同じようだと感じた。もしかしたらやっぱりバーライトの中には何か流れているのかもしれない、ミキストリアは漠然と感じた。


翌日、ミキストリアは光らないライト魔法に挑戦した。難題だった。光らないライト魔法とは? 意味が分からない。ミキストリアは首を振る。ただ、ミキストリアには成功体験があった。


(ここまできたらやはり、あの手を試すしかありませんわね。

MP切れで倒れるとまずいですから、程々に、2/3くらいで行きますしょうか)


「<光らないバーライト!>」


かっての魔法師団の同僚が聞いたら、間違いなく気が触れたと思われるこの詠唱に、ミキストリアは大量のMPを無理に注ぎ込んだ。元々のMP量が多いミキストリアだからこその力技である。


バチっと、ミキストリアが聞いたこともないような音がした。焦げたような匂いもする。一瞬光ったような気もするが定かではない。それ以外には何も起きなかった。何かが起きたはずだが、何もわからなかった。もう一度試すMPは無い。続きは明日だった。


翌日、夕飯を終えた祥子とミキストリアはテラスに出た。夜とはいえ八月ではまだ暑い。隣人はテラスには出ていないようだった。


「誰もいないわね。はい、カメラ準備OK。今よ!」


ミキストリアはこの日、昼間の魔法実験をしていないのでMPは完全に回復している。1500 MPという膨大なMPで光らないバーライトを発動した。


バチバチッ。


「きゃ!」


2人の目の前に一瞬出現した光に祥子が短く悲鳴を上げた。光らないはずの魔法だったがその一瞬の光はまぶしかった。


「祥子!!」


ミキストリアは少し離れてスマホを構えていた祥子に慌てて近づいた。魔法は2人から少し離れたところに出現させたから、怪我とかはしていないはず、ミキストリアはそう思ってても心配だった。


「うん、大丈夫よ、ちょっとびっくりしただけ」

「良かった……」

「ミキ、これって……」


祥子は撮影した動画を再生すると、ミキストリアにそれを見せながら言った。


「これって雷だわ」


スマホには横に2mほどの長さで細く伸びる稲妻が写っていた。


祥子がこの話をビデオ通話で七海に伝えると、七海は大笑いした後、両手を叩いて我が事のように喜んだ。ミキストリアは、そんな七海を不思議な人だと思うが悪い気はしない。


「ミキちゃん凄いよこれ! マジ凄い。まさか、光らないってやったらこれになるとはねー。魔法って不思議だわ」


詠唱は変えた方がいいかもしれない、と七海が言った。


「んー、ライトニングとかどう? まんまだけど」


ミキストリアはありがたく使わせてもらうことにした。何と言っても七海の奇妙な「光らないライト」という案が無ければこれも無かったからである。


七海は、上から下に流れる意識でやったらどうかとも提案してきた。自然界の雷はその方向だからという理由だった。ミキストリアは納得したが、成功するまでに何日も試行錯誤がいるほど難題だった。成功したとき、魔法が発動する位置に置いておいた板は黒く焦げて割れていた。繰り返し練習するうちにMP消費は激減し、減った分のMPを使うことで太い稲妻が出せるようになっていた。


「ミキちゃん、もう立派な攻撃魔法だよ、これ」

「ミキ、これも封印だわ……」


ミキストリアにも異論はなかった。

攻撃魔法「ライトニング」の完成であった。バーライトの謎はどうでもよくなっていた。


読んだいただき、ありがとうございます。評価、感想おまちしてます。

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