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異世界ヒーラー世界を治す  作者: 桂木祥子
2章 修行編
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ライト魔法の研究


ミキストリアは、朝、目が覚めると、もうミキストリアにとって当たり前となった朝の一連のルーティンを行った。ライト魔法で部屋を明るくし、窓を開けてシャッターを上げ、ステータスを確認するついでにスクショも撮り、部屋を出て、ほとんどの場合すでに起きて朝食の準備をしている祥子におはようと声をかけるところまでがセットである。ライト魔法は注ぎ込んだMPが無くなると自動で消えるので部屋に放置である。


最近ではミキストリアも一緒に朝食を作るようにもなっていた。それが祥子の配慮、なんでも祥子がやってしまうのは逆にミキストリアにとって気分的に負担だろうという配慮の結果であることはミキストリアも承知していた。相変わらず祥子はミキストリアのお世話係で、ミキストリアは祥子におんぶに抱っこな状態であったが、祥子の、2人を対等にしようとする気持ちはありがたかった。もっとも、祥子に禁止されてミキストリアは包丁を持たせてもらえないのだったが。


祥子はいつもの明るい笑顔をミキストリアに向けた。


「おはよう、ミキ」

「おはようございます」


ミキストリアは少し砕けてきてはいるが、侯爵家譲りの丁寧な口調は変わらない。これがミキストリアにとっての普通で、もう変えられないということは祥子も知っており気にしなくなっており、祥子がそう思っていることをミキストリアも知っているので気にかけていない。


「ミキ、ちょっと今日は天気が良くなくて暗いから、ダイニングの電気を点けてくれる?」

「ええ」


ミキストリアは壁際のスイッチを操作してダイニングのシャンデリアを点けた。このシャンデリアはキャンドルを灯したようなシンプルなデザインで、ミキストリアは気に入っている。


2人で作った朝食を食べていると祥子が聞いてきた。


「ミキ、さっきシャンデリアを見つめて何を考え込んでいたの?」

「あの時ですか? つい考え事をしていましたわ」

「考え事?」

「ええ。あちらの世界でも灯りはキャンドルから魔石ランプに変わったのですけれど、シャンデリアの形は昔のままということも多いのですわ。こちらでも同じなのかと思うとちょっと不思議になって」

「へぇ、そういうものなのね」

「ええ、ただ魔石ランプになっても点けたり消したりするのは簡単ではなくて、何人もの使用人でやってましたわ」

「そうなのね。ライト魔法は使わないの?」

「ずっと部屋を照らすということには使いませんわね」

「そうなのね、面白いわね、色々と」

「キャンドルはもう使わないのですか?」

「特別な時にしか使わないかな〜。ほとんどもうLEDよ」

「LED?」

「そう。その前は蛍光灯っていうのを使ってて、さらに前は電球っていうのだったのよ。なんか光る仕組みが違うらしいんだけど、次々と違う仕組みが出てきて変わってきているのよ」

「そうなんですね」

「もしかしたらライト魔法もどれかと同じ仕組みだったりしてね。そんなことがあったらロマンね」

「同じ仕組み……」


ミキストリアは興味を引かれてネット情報を読みふけった。結局ミキストリアにも細かいことは理解できなかったが、それぞれ特徴があることはすぐに見つけていた。


電球というものは点けると熱くなって光る、と。ライト魔法は熱くはならないのでこれは違うようだった。


次に蛍光灯というものは管状になっている、と。直線だったり円形だったり、くねくねと折り畳まれていたりしたが全て管を使うとうのは変わらなかった。ライト魔法は球形状の光源が出現するので原理は違っているようだったが、光源として蛍光灯のように直線状の管、円形というように形状を変えるのは面白いかもしれないと思った。


LEDはよくわからなかった。電気の粒がぶつかる? 意味がわからなかった。もっともライト魔法も発光の原理はわかっていないのでおあいこである。


ある日の夕食で、ミキストリアは祥子にこの話をした。祥子はふんふんと興味深げに聞いたあと、ふと思いつた様に感想を言った。


「面白いことしてたのね。いいじゃない。

 蛍光灯かぁ。そういえば丸いのもあったわね。いや、今でも売ってると思うけど。

 ライト魔法も細長くできたりするのかな? 眩しくない程度で細長くなったり丸くなったり星形になったりしたら可愛いかもね」


翌日からミキストリアはライト魔法の研究を始めた。ライト魔法は、単に周囲を明るくするというものでそれ以上でもそれ以下でもない。もっと明るくしたい時には単に多めのMPを注ぎ込むだけだ。それだけの魔法だった。


ミキストリアはライト魔法を蛍光灯のように直線状の光源にしようとした。これはなかなか上手くいかなかった。そもそもライト魔法の光源は明るく、直視してじっくり観察するようなものではない。ミキストリアは、形状の変更は一旦棚上げし、光量を減らすことにした。これはしばらく試行錯誤するとできるようになった。ヒール魔法の発展系とも言える髪専用魔法リペアの開発で、低MP消費での魔法発動のために試行錯誤したことが、ここでも活きたようだった。ぎりぎり光量を下げても眩しいことには変わらず、光源のはっきりとした形を見ることができなかったが球形であることは間違いないようだった。


光源の形状を変えるのに、ミキストリアは苦労した。今までの色々な魔法に関する知識や、こちらにきてからの科学的な知識も役に立たなかった。


ライト魔法には「球形の光源を生成する」という術式が組み込まれていた。これは、球形が全周に光を放出するという点で最適であることと、発光のためのエネルギーをその形状で保持するのが1番面倒がないからである。つまりは発動することを最優先した術式になっていた。


またライト魔法を含め、全ての魔法の術式には「術者の意向を汲み取る」という記述が含まれている。これによって、例えばファイアボールであれば、出現位置や飛翔していく火の玉の目標地点などが決定されるのだ。


ライト魔法の術式で球形以外の光源を作るには「術者の意向」で「球形の光源」という部分を強制的に上書きするしか無く、そのためには大量のMPが必要であった。省MPで発動するライト魔法では球形の光源にしかならないのは当然だった。ミキストリアの試行錯誤に出口はなかった。


初歩中の初歩であるライト魔法が思い通りにならないことで、ついにミキストリアはキレた。キレて癇癪を起こした。


「なんで上手くいかないの! ライトが細長く光るだけじゃない!!」


癇癪を起こしたミキストリアは目を瞑り、叫びながらライト魔法を発動した。残MPのほぼ全てをつぎ込んでいた。


叫んだ直後から猛烈な倦怠感がミキストリアを襲っていた。ミキストリアはMP切れを起こしているのを自覚した。


(わたくしとしたことが、なんという失態……)


その強烈な倦怠感でミキストリアの癇癪は一瞬で引っ込んだが、意識は朦朧としていた。


(この眩しさは、いったい、あ、これは……)


目の前には蛍光灯の3倍程の太さの筒状の光源が出現していた。ミキストリアは立っていられずそのまま倒れそうになり、辛うじて両手を床について四つん這いになって耐えた。いきなり倒れなかったのは宮廷魔法師団での激しい訓練のおかげであったが、それもそこまでだった。ミキストリアはそのまま崩れるように倒れ込むと意識を失った。



読んだいただき、ありがとうございます。評価、感想おまちしてます。

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