土の精霊
大変間が開いてしまいました。DALLE E に書いてもらった挿絵を入れてみました。
感想、評価お待ちしております!!
誤字報告ありがとうございました!
翌日、ミキストリアは、大きめの地下室をいくつか選び、そのうえで井桁櫓を組ませると、その中に収納から出した魔物の遺骸を丁寧に並べていった。遺骸の数は途方もなく多く、数段に重ねる必要もあるのだった。井桁櫓も一つでは足らず、いくつも作る必要があった。
「こんなにたくさん倒したのね……」
祥子が呆れるとも感心するとも取れるような顔で言う。
「リッチが召喚したゾンビやスケルトンもいましたから」
「そうね。あのゾンビはどこから来たのかしら。浄化したほうがやっぱり良いのよね?」
「どこから来たのかなどはまったくわかりませんし、同じ個体が複数回召喚されたのかどうかなどもまったくわかりませんわ。ですが、もともとは人であった、その遺体ということは変わりないのですわ」
「そうね、そのとおりね」
「どのような経緯でゾンビやスケルトンになってしまったのかは知るすべもないことですが、死を安らかなものとするために浄化するのは悪くない事でしょう」
「ええ」
少々しんみりとした様子の祥子を引きつれ、ミキストリアはクリーン魔法を掛けて回った。聖属性を付与したクリーン魔法で浄化できるということはラミーアから聞いている。
「<クリーン>」
(ここのところずっと聖属性を使っていましたので、特に意識しなくてもクリーン魔法は聖属性化していますわね。これはこれで、便利……なのでしょうか?)
ミキストリアは次々と聖属性化したクリーン(ホーリークリーン)で浄化を進めていった。ミキストリアが浄化を終えると、火属性の魔術師たちによって火がつけられていく。
陽が傾き、暗い空に星が瞬くようになっても浄化の炎は燃え続けていた。
「ねぇミキ、あの、時々空に昇っていく光の玉があるけどあれは何? どうみても火の粉じゃないわよね?」
祥子が指し示す方向では、炎からオレンジ色の光の玉が浮き上がり、そのままゆらゆらと上空へと昇っていくのであった。
「あれは何かしらね。青白いものもありますわね」
ミキストリアが祥子に答えながら周りに目をやると、同じように空を見上げていたランスが口を開く。
「私にもわかりませんが、もしかしたら浄化されて本当の死を迎えた魂が天に帰っていっているのしれませんな」
「ランス団長の言う通りなら、この浄化作戦も無事に完了できたということでしょうか?」
「ランス、セリナ、そうね。そう考えて良いと思いますわ」
ミキストリアの言葉に、周囲の誰もが空を見上げ、次々と炎から出ては上空へと昇っていく光の玉に見入っていた。
「ミキストリアよ、この度のその方の働き、感謝する」
皆と一緒に空を見上げていたミキストリアは突然の、見知らぬ声に驚いて振り返った。居合わせた祥子やランス達も振り向いてくる。
そこには、つい先ほどまで間違いなく誰もいなかったはずだが、少女が立っていた。その少女は濃紺と萌黄色が複雑に交じり合うドレスにややうす汚れた紫紺のマントを重ね、手には奇妙に曲がる杖をもち、頭上には赤黄色と金茶色の冠を置いていた。肌は濡れた土のように濃く、その眼は青白い光が瞬いていた。
振り向いた誰もが突然のことに反応できなかった。少女の後ろにいる騎士、魔術師たちも魂を飛ばしたかのように動かないでいるのだった。
咄嗟に無意識のままバリア魔法を展開したミキストリアは、息を1つのみこんだあと、なんとか言葉を押し出した。
「あ、あなたはどなたなのです? いつ、どのようにそこに……」
少女は笑みを見せたようだったが、眼の中の揺らめく青白い炎はその少女が見た通りの少女でないことを明確に告げており、ミキストリアは警戒を解けないでいた。
「そう警戒するでない、ミキストリアよ。我はノーム。その方らが土の精霊と呼ぶものじゃ」
「土の精霊……様?」
「そうじゃ。ついさきほど冥府の女王、いやもう冥府にはおらぬから亡国の女王じゃが、そのラミーアに此処の始末を頼んだわけじゃが、その方が穢れを払ってくれた」
「……」
「まさかこれほど早く事を終わらせるとはな。上出来じゃ」
「精霊様、祥子と申します。この地の浄化は完了したと思って良いのでしょうか?」
「ショーコよ、その方のことも存じておる。まだ完全に終わってはおらぬが、このままの炎が続けばいずれすべての魂が天に昇るじゃろう。その方らの仕事は終わったと思ってよい。あとは見守るだけじゃな」
「あ、ありがとうございます」
「精霊様、いくつかお聞きしても?」
「ミキストリアよ、何でも聞くが良い。答えられるものには答えよう」
少女の姿をした土の精霊は鷹揚に返す。
「どうやってこちらにいらしたのです?」
「うむ、それは答えられんな。伝えても理解できんじゃろう」
読んだいただき、ありがとうございます。