獣人人質解放
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獣人たちに今後どうしたいかを聞くと、グラリオンに戻ってやり直したいと全員が一致した。ただし、ラーラン商会に残っている弟妹を残しては行かれない、と。
「皆さんの考えはわかりましたわ。ではラーラン商会に行って弟妹たちを引き取りましょう。そのためには、皆さんは船を襲った犯罪者でありグラリオンの法で裁かれるためにわたくしの捕縛下にあるということを肝に銘じてもらわなければなりません」
「え!?」
「何か間違っていますか?」
「え? いえ、領主様のいう通りです」
「悪いようにはしませんので、その点だけは忘れないように」
ミキストリアは、獣人たちを縄で縛らせ、ラーラン商会の住み込み寮へ向かった。
「我らはグラリオン領主様の一行である! 罪を犯した獣人達の賠償の一部として私物の押収に参った。誰かこの寮の責任者は居るか? 私物以外には一切手を振れぬが、心配とあらば立ち合いをするが良かろう。誰かあるか!?」
ランスは入口で言い放つなり、そのまま扉をくぐった。獣人を連れたアイザック、獣人に続きミキストリアも祥子やマークとともに屋内へ進んだ。
ランスは、責任者が出てくるのを待たずに、キーエルに案内させて押し込められていたという部屋に向かおうとすると、奥から年かさの男性が転がるように走り出てきた。
「一体何ごとですか! 勝手に中に入っては困ります! どちらさんですか!?」
ランスは鼻で笑った。
「ふっ。先ほど名乗ったが聞こえなかったようだな。我々はグラリオン島領主様の一行である。勝手にというが、ここは、ここに住んでいた獣人が自分の部屋に入るのに許可がいるのか?」
「寮の住人の出入りはともかく、あなたたちは部外者ではありませんか。勝手をされては困ります」
「いや、この者たちが犯した罪を賠償されるために来たので部外者ではない。先ほども言ったが立ち会ってもらってもこちらは一向にかまわん。その方、名前は?」
「ここの寮の責任者のブラントです。罪? 賠償? 何のことです?」
「ブラント。それについてはその方が関知することではない。先も言ったが立ち会ってもらってかまわん」
ランスはブラントの質問を切り捨てると、キーエルを促して部屋に向かった。キーエルたちに宛がわれていた部屋は狭く、2段ベッドの他には小さなクローゼットがあるだけであった。
ミキストリアは、その部屋の有様でここでの獣人の扱いの全てが判るような気になり、責任者だというブラントをしかりつけたくなるのを必死で抑えた。
(今、この者を成敗しても何にもなりません。人質の救出が最優先ですわ。間違えてはなりませんよ、ミキストリア)
ミキストリアが周りをみると同行していた皆が顔をしかめていた。同じような気分なのだろう。
「ここか。キーエル、フレン、マイク、ラウン、各自自分の私物を回収、提出するのだ。他人の私物、商会の品には手出し厳禁である」
「な、なにをするのです!」
「ブラント。先ほども言ったが、この者たちに私物で賠償させる。私物であるからこの者が持ち出しても問題ないはずだな?」
「え、そ、それはそうですが……」
「ラーラン商会の寮では、私物の持ち出しに制限があるのか?」
「いえ、そのようなことはないですが……」
「では、問題ないな? とはいえ、ほとんど私物は無いようであるが……」
ランスの言うように、私物といえるのは数枚の着替えと小銭入れなどが主で、数分とかからずに4人の獣人は私物を纏め終わり、マークに渡していた。
「では、次。この者たちの弟妹がここにいるそうだな? どこにいる?」
「獣人の弟妹にどのような用が?」
「用? ここでは兄が弟妹に会うのにその方に用を告げねばならんのか?」
「そういうことではありませんが……」
(ここからは先ほどから、『そういう事ではない』しか言っておりませんわね。ふふふ、可笑しくなってしまいましたわ)
ミキストリアが笑いのツボを必死に抑える間にも、ランスはずんずんと進んで少し離れた部屋へ入っていった。
「邪魔してすまぬな。わたしはグラリオン騎士団長のランス。ここにキーエルの妹ジェニコ、マイクの弟グレイウ、ラウンの妹リアードリーは居るか?」
その部屋は先ほどの部屋よりも狭く、同じように衛生状態はひどいものであった。
おずおずと名乗り出てくる3人を目に止めたランスが続けた。
「おお、君たちが弟妹か。話は兄達から聞くと良い」
ランスに促されて、キーエル達4人は、グラリオン島領主の船で罪を犯した事、島に戻って賠償のための使役につく事を話した。良ければ一緒に戻って賠償の手伝いをしてほしいと付け加えた。
「そんな! 勝手に出ていくなど許されないぞ!」
「ブラント、その方は罪人が償いをするのを妨げるというのか?」
「あ、いえ、ここの3人の事です」
ブラントはランスから目を逸らして3人を睨みつけた。
「それはまたおかしな事を言う。この者らはラーラン商会に雇われていないと聞いたが? ラーラン商会は契約もなく行動を束縛しているのか?」
「勿論そういう事ではありませんが!」
「ではラーラン商会が雇っているのか?」
「いいえ」
「では何だと申すのだ?」
(ランスは、侯爵家騎士団の憲兵隊長をしていたこともありますから、取り締まりや審問はさすが上手ですわね。地方の商会では相手になりませんわね)
ブレントは青くなったり赤くなったりとどうして良いか決めかねる様子であった。
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