レリア 2
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レリア伯爵領の港町キーロに入港したミキストリアであったが、バーバシア男爵からの内通情報と港での出来事、そもそもレリアを含むクオルト半島先端部が人以外の種族に対して蔑視的であることなどから、他の地でのようにありきたりに下船するのではなく対策が必要となっていた。船の警護が必要という判断である。男爵の当初の態度やその後の話から、ミキストリアが王国南部では流刑同然に島においやられたと噂されているということの影響もある。
ミキストリアは護衛騎士と魔術師の半数、アルティンとブーディカを船に残し、祥子と侍女従者、残りの騎士、魔術師を連れて下船した。
ミキストリアが、特別にと船の警護をアルティンとブーディカにお願いしたところ、アルティンとブーディカは即快諾しただけではなく、ミキストリアの予想以上に張り切っていた。アルティンは極細の見えない糸で船を囲う監視結界を造り、ブーディカは自慢のコピシュの手入れや素振りに余念がなかった。
「あれは、かなり怒っているんじゃない?」
「そうですわね。これまで見たことのないくらい怒っているようですわ」
「敵を殲滅しちゃうね」
「殲滅してしまっても何の問題もありませんけど、話を聞き出す必要がありますわね」
「死なせず捕らえるように言っておいたほうがいいわ」
「ええ、そうしましょう」
ミキストリアは追加の指示を船に残る全員に伝えると、町で一番の宿に入った。1フロアの一角を占めるように部屋を取り、部屋の外には護衛を置かず、油断しきっているように見せかけるのも忘れない。護衛は部屋の中に配置している。これらはすべて魔術師団長ローランドのアイディアであった。
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「ミキストリア様、始まったようでございます」
ミキストリアは夜も開ける前、マリアの静かな声で起こされた。何かあった場合には宿の警護をしているローレンス経由でいつでも起こしてもらうことになっていたのだった。
「ありがとう。ちょっと見てきますわ」
ミキストリアはマリアにナイトガウンとロングコートを着せてもらい、寝室から続きの間に向かった。祥子も目を覚まして同じように後を追ってくる。
続きの間ではローランドが待っていた。
「ローランド、始まったそうですわね」
「はい。何日も警戒態勢を引かずに済むのは良かったですな」
ミキストリアは苦笑いを返しながら船の周りをサーチした。16人ほどが船に取りつこうとしているようだった。
「16人かしらね」
「相変わらずミキストリア様のサーチは特別ですな」
ローランドが気負わない様子で言う。船ではアルティンとブーディカが不寝番、騎士魔術師が交代で夜警に当たたっている。アルティンが敵の接近を発見し、騎士に教え、その騎士が “収納便” で報告してきたという。
「見くびられたたものですな、16人程度で何とかなると思われているとは」
「多くて困るよりはよいことでしょう?」
「まぁその通りですが、船に残った連中は物足りないと文句を言いそうです」
「ともかくも手筈通りにお願いしますわ」
「はっ。お任せください」
ミキストリアは宿の周辺もサーチしていた。寝る前にサーチしていた時と人数は変わっていない。敵襲があるとしてもこのタイミングではないようである。
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「宿には誰も来ないようですわ。少なくとも今は」
「はい、私のサーチでも敵は見つかっておりません」
「わたくし達はもう少し休むことにしますわ。こちらに来るのは朝になるでしょうから」
「はい。予定通りお二人には休んで頂いて、朝にでも詳細をお伝えします。マリアもサマンサも休んでくれ」
翌朝、朝食後にお茶を楽しんでいると、商会長と名乗る男がミキストリアを訪問してきたのだった。
(来ましたわね)
ミキストリアのサーチには、この商会長は薄いオレンジで出てくるのである。これはこの商会長が敵とまではいかないものの中立でもなく、悪意を持っているということを意味していた。
「わたくしの船についてお話があるそうですわね。どういったことでしょうか?」
本来であれば、初見で紹介状もない商会長に侯爵家の令嬢が会うことは無い。この時も家令のマークが対応し、しぶしぶしょうがなく会ってやるのだ、という体裁を取っている。
「お目にかかることをお許しいただきありがとうございます。初めてお目にかかります、ラーラン商会の会長をしております、ジェイソンと申すものです」
「そのラーラン商会がどういう用ですの?」
「先ほど耳にした話なのですが、ご令嬢様の船が夜襲にあって失われたということで、何かお困りでわたくしども商会でお助けできることがあればお力になれるかと思い、参じた次第です」
「夜襲?」
ミキストリアは何を言っているのだというように聞き返した。
「はい。商人の耳は早うございます。ご令嬢様がまだお聞きになっていないのも無理はありません。昨夜、夜盗が船を取り囲んだそうで」
ミキストリアは後を振り返った。
「マーク、ローランド、何か聞いていますか?」
「ミキストリア様、船に問題があったという報告は受けておりません」
「ということですわ。ラーラン」
ミキストリアは優雅な笑顔をラーランに向けて言った。
「ご令嬢様、信じられないのも無理はありません。報告が届いていないのも夜盗どもの手によるものかと。港はここからも近いですから人を送って確認されてはどうでしょうか?」
「そのような必要はないと思いますが、ローランド?」
「お嬢様、万が一ということもありますし、念には念を入れることも肝要でございます。人を送って見てこさせましょう」
ローランドは、これも打合せ通りに、事情に詳しくない令嬢に対するかのような口調でミキストリアを諫め、配下を港に送り出した。普段しないお嬢様呼びも打合せの通りであるが、慣れない呼ばれ方でミキストリアはくすぐったいような居心地の悪さを感じた。
ラーランはいかに自分の店が凄いのかを延々と語りはじめたが、その相手はマークに任せ、ミキストリアは祥子を促して中座した。
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