バーバシア男爵
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「かの有名なユリウス・マルキウス侯爵令嬢にご訪問頂けるとは、思っても見ない光栄ですな」
バーバシア男爵は利に敏そうな目つきでミキストリアに言った。
(お父様よりは歳がいっているようですが、知り合いの娘か孫かと勘違いされているようですわね)
ミキストリアは高位貴族である侯爵家の令嬢であり、叙爵されていないとはいえグラリオン島の領主として訪問に来たことは先触れで伝えてある。男爵家当主がして良い挨拶ではなかった。
「お初にお目にかかります。ミキストリア ユリウス・マルキウスですわ。バーバシア男爵はユリウス・マルキウス侯爵家に何か隔意がおありな様子ですわね?」
「まさか! そんなつもりは毛頭もありませんとも」
「そのお話はまた後にしますが、祥子を紹介いたしますわ。わたくしのパートナーの祥子です」
「初めまして、ショーコ カツラギです」
「パートナー? ですか?」
ミキストリアは冷たい視線を向けた。
「あら? わたくしのことは有名なのではないのですか? どういうお話で有名なのでしょう?」
「ミキが嫁の貰い手がない行かず後家とかそんな話ではないのかしら?」
「とんでもない! 侯爵令嬢の2属性は有名ですし、グラリオン島を拝領したという事も聞きおよんでいます」
慌てて否定する男爵を前に、ミキストリアは祥子と眼を合わせると笑みを深くして言った。
「ええ。今日はそのご挨拶でお伺いしたのですわ。国王陛下より、グラリオン島を管理せよとの特命を拝領いたしまして領主をすることになりましたの。クオルト半島を挟んではおりますが、海路ではここバーバシアがグラリオン島からの最寄り。今後はお隣としてよろしくお願いしようと思って参りましたのに……」
「いえいえ、隔意などとんでもないことでございます。こちらこそユリウス・マルキウス侯爵令嬢の領地の隣となれて光栄でごさいます」
ミキストリアはそれには取り合わず話を進めることにした。
「グラリオン島といえば、獣人の町リアはこのあたりでは有名だそうですわね?」
「はい、獣人だけで町をつくっているというのは王国でも珍しいですからね」
「ご承知いただいているなら話は早いですわね。
今回、グラリオン島を下されたことで陛下もグラリオン島へのご関心を増すことでしょう。わたくしとしても、ユリウス・マルキウス侯爵家としても島の統治をしっかりとしていくつもりですわ。リアの町から住人が居なくなったり、ブラッシャの町が襲われるというような事は今後は起こさせませんし、そのような企みをするものはわたくしが許さないということですわ」
「え、ええ。もちろんそうでしょうとも」
バーバシア男爵は、笑顔を引きつらせて返事をした。
(それでは、関与していると自白しているようなものではないかしら?)
ミキストリアは内心呆れたが表情には出さずに淡々と続けた。
「そのような手合いには、わたくしの従魔も張り切って対応することでしょう」
「ミキの従魔は怒らすと大変ですからね」
バーバシア男爵は一段と顔を引きつらせた。
「何でも大変危険な魔物をお連れだと聞きましたが……」
「ええ。野生のままの魔物なら危険ですが、従魔契約をしていますから理由もなく人を襲ったりはしませんわよ」
「そ、それなら安心ですな」
「ええ、理由なく襲いませんから」
ミキストリアは繰り返した。重要な点なので。
「リアにも今後は獣人以外が入植して町が広がっていくでしょう。獣人の町と呼べるのも今だけのことになりますわ」
「すぐには想像できませんな……」
「あら? 男爵は新しい船の噂はご存じない?」
「新しい船といいますと、お二人が乗ってきた帆の無い船ですかな?」
「ええ、あれは侯爵家が後援している魔道具師が研究開発しているもので、加えてヴァレリウス公爵とマリウス辺境伯、ファビウス辺境伯からの支援も受けているのですわ。辺境伯も新しい船を手に入れたそうですからバーバシアに新しい船が来ることも増えるでしょうね」
「船足も速くなって寄港地を減らすこともできるとか。辺境伯も王都への行き来が早く楽になると喜んでいらっしゃるそうですね」
「ええ。辺境伯も我が家とは縁続きですから、船をお出しになるならグラリオン島にも間違いなくお立ち寄りくださるはずですわ」
ミキストリアは祥子と顔を見合せながら次々と爆弾を投下していった。バーバシア男爵の眼からはミキストリアを卑下するような様子はさっぱりとなくなっていた。
ミキストリアはさらに追い打ちを掛けた。
「あの船はまだ試験段階ですが、いずれは王家にも献策されるべきもの。我が家に隔意のある家や港からは遠ざけておくほうが良いかと思っておりますの」
「もちろん我がバーバシアは、侯爵家への隔意など1つまみもございませんよ」
バーバシア男爵は割り切ったかのような表情で言った。
(何かを振り切りましたわね?)
「それなら安心ね」
「ええ。バーバシア男爵に隔意がなければ、グラリオン島の住人もバーバシア領での活動も安心してできるというものですわね。何といってもグラリオン島の住人はわたくしの領民、ユリウス・マルキウス侯爵家にゆかりあるもの。その者に何かあったら国王陛下に申し訳がたちませんわ」
「え、ええ。グラリオン島の住人は我がバーバシア領でなんの心配もする必要がございませんとも」
「男爵に安堵いただいて島の住民も安心できますわ」
ミキストリアは、にっこりと笑顔でダメ押しをし、男爵邸を後にした。
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