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異世界ヒーラー世界を治す  作者: 桂木祥子
1章 出会い編
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片思い


帰り際に食材も買い、2人は祥子の実家に戻った。もうこの家しかないので単に「家」と呼ぶことに2人で決めた。


買ってきたベッドをどこに置くか、ミキストリアの部屋をどこにするかで2人は揉めた。


「ここは祥子の家なのですから、祥子がこの大きい部屋を使うべきですわ」

「ダメダメ、ここはミキの部屋にするの」


祥子には亡くなった両親の部屋という意識が残っており、そこを自分の部屋にできるほど心の整理がついていなかったのだが、ミキストリアにはわからなかったのだった。話し合いは平行線だった。


祥子が少し辛そうな顔で言った。


「わたしには自分の部屋があるし、その部屋を気に入ってるの。

 それに買ってきたベッドはこの主寝室以外は無理よ?」


ミキストリアは折れた。幾つかあるベッドで大きなものを選んだのは自分だったし、祥子がこの部屋を使いたくない理由にようやく思い至ったからだった。祥子に辛そうな顔をさせてしまったことが悔やまれた。自分が早く祥子の気持ちに気づいて折れればよかったのだとミキストリアは自分を呪いたいほどだった。ミキストリアはこれほど自分が許せないと思うことはなかった。


「わかりましたわ、この部屋にしますわ」

「それが1番よ」


その日は、ベッドを組み立てたほか、細々した整理や食器の入れ替えなどで終わった。


この家のお風呂は大きめのもので2人でもぎゅうぎゅうにならずに入れるものだったので、ミキストリアは祥子と一緒に入りたかった。入ってシャンプーなどの使い方をもう一度聞いたり、髪を洗ってもらいたかったのだ。


「ここのお風呂は初めてですし、一緒に入って教えていただけませんか?」


ミキストリアは精一杯考えた理由をつけて祥子を誘った。髪を洗って欲しいというのは、ミキストリアにも言い出せなかった。


祥子は顔を赤らめるとそれを隠すかのようにそっぽを向いた。


「お風呂なんてどこも一緒よ。ここは少し広いからゆっくり入ってきなさい」


〜〜〜


翌朝、目が覚めたミキストリアは今までと少し違うベッドの感触に一瞬戸惑った。新品の寝具はよそよそしく、ミキストリアは少し淋しく思ったが、今寝ているベッドを、昨日祥子と2人でスタッフを押し切り他の客の目を盗んで収納して持ち帰ったことを思い出して笑った。


(祥子と2人だけの秘密が少しずつ増えて行きますわね)


そんなほんわかした気分は、ここ数年来の習慣となっている朝イチのステータス確認で吹き飛んだ。


ステータスに


状態: 片思い


とあるのを見つけたからである。


「はい?」


大きな叫び声が出そうになり慌てて両手で口を塞ぐ。


(片思いとはどういうことですの!? わたくしが片思い?)


こちらの世界にきて魔法の威力・効力が弱体化しており、ステータス表示も完全ではないことをミキストリアは思い出した。


(表示までおかしくなるなんてこちらの世界での 魔法はどうなっているのでしょう?)


心の中で毒づくと、ミキストリアは何回かステータスを表示し直した。ついにはわざわざはっきりと詠唱までした。状態表示に変化はなかった。むしろ、太字に変わったような気さえするくらいだった。


(わたくしが、片思い……。

誰に、というのは愚問ですわね。こちらにきて以来、話をしているのは祥子だけですし……。

いいえ、そんな建前より、わたくしが惹かれているのは祥子。惹かれてはいましたが、恋心だったとは……)


ミキストリアは初めから祥子に惹かれていた。それは自分に親切だからであり、それは友情であり感謝であると、ミキストリアは思っていたのだった。まさか恋愛感情だとは、思いもよらないことだった。


そもそもミキストリアは侯爵家の次女であり、侯爵家の権勢のために有力な貴族と婚姻を結ぶのが当たり前と教育されてきている。ミキストリアは、聖と闇の二属性持ちという謂く付きであったため、婚姻の話は体よく断られるか、足元を見る対応をされるかだった。


南の国境を守る辺境伯家は、女性でもいざという時は戦うという家訓で知られており、また、まだ若い現辺境伯は妻を次男出産の折に亡くしていたため、ミキストリアが戦える女性であることを立証するという条件で、後妻とすることを約束していた。これは足元を見た対応ではなく、ミキストリアの能力を買った上で、ミキストリアの意志も尊重するというものだったため、侯爵はこれに感謝し、ミキストリアが宮廷魔法師団の実働部隊で実績を積み上げるのを待っていたのだった。ミキストリアもこれら全てを承知しいる。自分が恋愛感情を、しかも同性の女性に向けるというのは、想像したことすらなかった。


全ての情報が表示されないステータス魔法には不信感もあるが、表示された内容を疑うという考えは、自分が同性に恋愛感情を持ったということよりも受け入れがたった。


(まさか、このステータス表示がそもそも間違って……。いえいえ、流石にそれはないですわ。

 HPもMPも、そのほかも表示されているものは間違っていない。とするとこの状態表示も正しいということ。

この気持ちが片思いというやつなのですね……)


ミキストリアは、自分のこの初めて経験する感情を認めた。自分がいなくなったことで辺境伯と侯爵家の話も消えた。そう考えるのが当然であった。ミキストリアの心の中でも辺境伯は消えていた。


(ですが、ステータスにこのように出る必要はないのでは無くって?

 このような情報を欲しいとは思っておりませんわ。

 ステータス魔法の術式を開発した方に文句を言うべきですわね!)


まさかのステータス情報で自分の心を強制的に知ると言う鬼畜仕様っぷりに、ミキストリアは悪態をつくのを止められなかった。


〜〜〜


この日は周辺散策などしたものの、多くの時間を2人は別々に過ごした。


「今日も片付けをしないとなんだけど、わたしが仕分けしている間、ミキにただ待ってもらうのは時間がもったいないと思うのよ。せっかくミキのスマホもゲットしたことだし、早くちゃんと使えるようになった方がいいから、ミキはスマホの練習してて。

わたしが一通り仕分けしたら声かけるから、そしたら一気に収納してもらうから。その方が効率いいもの」


という祥子の提案だった。


ミキストリアは、祥子の近くに居られないことを残念にも思ったが、自覚してしまった気持ちを持て余してもいたので、ホッとする部分もあった。


読んだいただき、ありがとうございます。感想おまちしてます。

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