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表 ー2ー

「リキ、あれは何?」


移動中、アカネは好んで自分の馬に乗った。

それに対して皇子達は不満そうであったが、アカネは頑なだった。

例え仲間とはいえ、妻帯している者と必要以上に接触しないというのが彼女の言い分であり、彼女がいた世界での常識であるとのことだった。

元来、それ程女好きということもなく下手に手を出して面倒なことになるよりは余程気楽だと商売女としか関係を持ってこなかったリキドレイはここでも自分で自分の行動を褒めた。

仲間として選ばれた騎士は他に二名おり、男の方をラドル、女の方がシエナと言った。だが、この二人は今回選ばれる前から恋仲とのことで、必然的にアカネはリキドレイの馬に乗るようになったのだ。


この世界の物は自分の世界では見たことがないものばかりであると、アカネは目に付いた物は何でも聞く。

その度にリキドレイも丁寧に答える。

無口で無表情が標準の自分であるから、質問にただ答える形になってしまうがアカネはその度に嬉しそうに笑顔を返してくれた。

そのうちに、自分のことをリキと愛称で呼ぶようにもなった。

こちらでは珍しくもないリキドレイという名前は、アカネにとっては長く呼びにくいとのことだった。

アカネから呼ばれるのなら何でも構わなかったが、今まで呼ばれたことのないその名はリキドレイに甘い疼きを齎した。








アカネと共に旅立って十日後、一つ目の魔素があるとされる場所に辿り着いた。

禍々しい臭気が立ち込める巨大な洞窟の中にそれはあった。

洞窟の近くはその臭気故か生き物がいる気配は全くない。

第二皇子がシールドを貼り、第一皇子を先頭にアカネを守り固めるように、周囲を警戒しながら進んで行く。

途中、道が二手に分かれていた。


「こっち」


だが、アカネは迷うことなく一方を示す。

臭気が強過ぎて第二皇子でも魔素の気配が追えないとのことで、アカネの指示に従って進む。

洞窟に入ってからアカネの雰囲気が変わっていた。

柔らかな陽だまりのような空気はなくなり、何か張り詰めた硬い空気を身に纏っている。

戦いなど、血生臭いこととは無縁の世界で生きてきたというアカネにはどれだけの心的負担がかかっているのだろうか。

それが分かるから、リキドレイは何としてでもアカネを守らなければと気を引き締める。


しばらく進むと魔素が見つかった。


「これはっ…」


第一皇子が絶句する。

魔素は確かに数メートル前、目で確認できるところにあった。

だが、その周りには見たことのない大きな獣が一頭寝そべっていた。

体長は五メートル程だろうか。

見るからに固そうな鱗に、大きな口。閉じていても見えている牙は鋭利で簡単に人の肌など裂くことができるのが分かる。

短い手足が二本ずつ付いており、大きな尻尾もまた固そうだ。

エラルーシュでは目にしたことはない獣だった。


「魔素の影響で生まれた化け物だろう」


第二皇子が呟く。

その声に反応するかのように、獣が目を開けた。

縦に長い瞳孔に金色の瞳で、ひたとアカネを見つめる。


「来るっ!!」


リキドレイは叫んだ。

咄嗟に第二皇子がシールドを強化する。

目にも止まらない速さで移動した獣は、ガキンッとシールドに弾かれたが特に打撃は受けていないようで、すぐさま突進してくる。

何度かぶつかるうちに、シールドが緩んでくる。


「魔素の影響が強過ぎる!シールドがもたんっ」


第二皇子が悔しそうに叫ぶ。


「次のシールドを貼るまで粘れっ!!リキドレイ、お前はアカネを!他の者は私に付いて来いっ!!」


第一皇子がそう指示した。


ガキンッ!!


ついにシールドが破れる。

それと同時に第一皇子が剣を片手に飛び出した。その後をラドルとシエナが続く。


獣の鱗は剣を簡単に弾く。

傷は負っていない。

太い尻尾を振り回すと、それによってかなりの風圧が起こる程だ。


第一皇子の指示の下、三人は攻撃を加えるがまったく打撃は与えられていない。

それどころか、剣を尻尾で弾かれたシエナの手は小さく震えている。

騎士として選ばれた彼女がこの程度のことで恐怖を感じる訳がない。

つまりそれは、それだけの衝撃であったということだ。

獣はアカネだけを狙っている。

三人を蹴散らし、こちらへ向かおうとしている。

その中で三人の行動パターンもある程度は理解しているかのように反撃している。


強い。


誰もがそう思う。

魔素を守る獣がこれ程の力と知能があるというのなら、親玉である悪龍はどれ程なのだろうか。

リキドレイも他のメンバーも表情を険しくする。


「弱点を探せっ!必ずあるはずだっ!」


第一皇子が叫ぶ。


その時


『ーー!!』


アカネが何かを叫ぶ。

その声に獣の体が僅かに揺れる。


「リキ。大丈夫だから行かせて」


アカネが獣から目を離さずに告げる。


「出来ない」


即答だった。

何の対抗手段も持たないアカネを獣の元へ向かわせることなど絶対に出来ない。


『ーー?ーーー』


何かを尋ねるかのように、アカネが獣に向かって言葉を口にする。

その言葉はリキ達エラルーシュの人間には、全く理解できないものだ。


獣がそんなアカネに答えるかのように、唸る。


『ーー。ーーーー』


また、何事かをアカネが言うと暫くして後、獣は腹を地面に付けて頭も下げた。

戦闘態勢が解除された状態だ。


「リキ。大丈夫だから行かせて」


アカネのその言葉に悩むが、第二皇子のシールドは復活している上、第一皇子達は臨戦態勢のままなのでゆっくりと二人で獣に近づく。


『ーー?ーーー?』


アカネは近づきながら、話し掛ける。

それに応える獣の唸りの意味も理解できているかのようだった。


アカネが近くへ寄ると、獣はぐっと頭を上げた。

それに素早くリキドレイが反応するが、その腕に手を添えてアカネが遮る。

そして、何の躊躇いもなく獣の顎下を撫でた。

気持ち良さそうに、獣はその瞳を細める。


『ーーー。ーーー』


アカネが笑いながら言うと、獣の体が光り出しそして小さな球体へと変わり最終的にはエメラルドの宝石のように光り輝く石になってアカネの手の上に収まった。


「今のは…」


呆然と皆がアカネを見つめる。

魔素を守る恐ろしい獣を光で包み、殺す訳ではなく昇華させた。

それは宗教画のように美しく静謐な瞬間であった。

皆がアカネに見惚れていたが、リキドレイは違った。

ただただ、怖かったのだ。

これ程美しく清らかな女性の側に、自分のような人間がいられる訳がないと理解してしまったからだ。


「ア…カネ」


呆然と呟くその言葉を拾い、アカネがリキドレイと目を合わせる。


「リキ。ね?大丈夫だったでしょう?」


にこりと笑うその顔はいつもの春の陽だまりのようで、少しだけリキドレイも力が抜けた。

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