◆突然の衝撃◆
◆突然の衝撃◆
「ほら夕実、早く準備しなさい。
今日のことは前から言ってあったでしょう?」
「私だって、私の用事があるんだよ。
お母さんたち先に行ってていいよ。
私、知らない人の家のお風呂とか入るの嫌だし・・・・・。
明日の法事までに間に合えばいいんでしょ?」
「まったく、夕実ったら・・・・。
じゃあ、お父さんとお母さんは先に車で出るから、明日の朝9時には着くように出てきなさいよ。」
「うるさいな〜、何度も言わなくたって分かってるよ。」
明日は、父方の祖母の何回目だか分らない法事。
私が生まれた時にはすでに他界していたし、しかもお父さんにとっても血の繋がっていない義理の母親。
お父さんの本当の母親は、お父さんが中学の時に病気で亡くなってしまい、そのあと再婚したのが、今回の法事の人。
新しいお母さんに馴染めなかったお父さんは、大学を東京に決め秋田の田舎から上京してきたんだって。
だから、一緒に暮らした時間は1,2年だったみたい。
それでも、両親ともその人のお葬式や法事には揃って出席していて、
今回私も行かなければいけないみたい。
でも正直、顔も知らないし、血も繋がっていない、私にとっては他人同然の人の法事より
友達と遊ぶことのほうが大事だった。
この春、通いなれた中学を卒業して、みんなそれぞれに違う高校に通う。
近くに住んでいたって、学校が違えばなかなか会えなくなる。
今のうちにいっぱい遊んでおかなきゃ。
今日は両親がいないし、たまには羽目を外して遊ぶぞ〜!!
「もしもし、敬子?
私。夕実だよ〜。何時に待ち合わせる?」
「うん。分かった〜。
じゃ〜、駅前の本屋に10時待ち合わせね。」
そして、私は敬子と遊ぶため、待ち合わせ場所へと向かった。
「夕実、今日法事で秋田に行かなきゃいけなかったんじゃないの?
遊んでていいの?」
「いいの。いいの。
明日の朝までに秋田につけばいいことになったから。
ね〜、そんなことよりも今日何して遊ぶ??」
「じゃ〜、ちょっとブラブラ買い物した後、お昼食べてカラオケでも行く〜?」
「うん。いいね〜。
私、洋服見たい。高校生になるからさ〜、ちょっと大人っぽい服とか着たくない?」
「そうだね。
高校に入ったら彼氏欲しいしね。」
やっぱり敬子と一緒は楽しい。
良かった〜。
今日から両親と一緒に法事に向かってたら、今のこの楽しい時間もなかったわけだし。
私の選択は間違ってなかったな!!
くだらないこと、中学の思い出話、これからの高校での恋愛妄想など二人でいると話は尽きない。
「じゃ〜、お昼も食べたし、そろそろカラオケでも行こう!!」
「うん!あれ?夕実携帯鳴ってない?」
「えっ、私??」
通常グループ分けされて、それぞれ違う着メロを設定してるから、音楽が流れるはずなのに、私の携帯から聞こえてきたのは、
『リ〜ン。リ〜ン。リ〜ン。』
普通の呼び出し音。
番号も知らない。
「夕実、出ないの??」
「う〜ん。だって、知らない番号だよ。
間違い電話かもしれないし・・・・・。」
「そうだね。用があればまたかけてくるよね。」
そう言って、カラオケへと歩き出した途端にまた鳴り始める携帯。
「もう、何??こんな番号知らないのに・・・・・・」
「とりあえず出てみなよ。
間違え電話だったら、すぐ切っちゃえばいいじゃん。」
「そうだよね。
・・・・・・・・
もしもし。」
「もしもし、松田 夕実さんの携帯でよろしいでしょうか?」
「そうですけど・・・・・・。」
「こちら、○○総合病院と申します。
突然ですが、あなたのご両親の乗った車が事故にあいまして、
今緊急手術が行われておりますが、お二人とも非常に危険な状態です。
至急こちらに向かっていただけませんか?」
・・・・・・・・・。
えっ・・・・・
何??
この人、何の話してるの???
悪い冗談やめてよ・・・・・・。
私のお父さんと、お母さんが事故に遭うわけないじゃない。
「もしもし?聞こえてますか??」
「はい・・・・・・。」
「あの、松田 正一さんと佳代さんはあなたのご両親で間違えないですよね?」
「はい・・・・・・」
「突然のことで驚かれたとは思いますが、至急こちらに向かって頂くことはできますか?」
全身の力が急に抜けたような状態になって、その場にしゃがみこんだ。
「夕実?どうしたの??」
「もしもし?もしもし?聞こえますか??」
敬子の問いかけにも、電話口から聞こえてくる緊迫した声にも
応対できる余裕も力も私にはもう残っていなかった。
ボ〜っとした頭で敬子を見上げると、私の代わりに電話の応対をしながら何やらメモを取っている。
いつの間にかその電話も終わったようで、
「夕実。うちのお母さんが夕実を病院に連れて行ってくれるって。
いったん家に帰ろう。」
どこをどう歩いて敬子の家までたどり着いたのか、
気が付くと敬子のお母さんが運転する車の後部座席に敬子と一緒に座り、車は発車いていた。
どれくらい車を走らせたんだろう。
高速道路を下り、少し一般道路を走ると、大きな病院らしき建物が見えてきた。
「敬子、お母さんは駐車場に車停めてから行くから、あなたは夕実ちゃんと先に行きなさい。
夕実ちゃんもしっかりするのよ。」
「はい。ありがとうございます。」
そして、纏まらない頭で病院内へと敬子と二人で入って行った。
「すみません。お電話いただきました松田ですけど。」
使い物にならない私の代わりにテキパキと行動してくれる敬子。
「松田 夕実さんですね。」
「はい。」
「こちらへどうぞ。」
看護師さんが両親の元へ案内してくれるらしい。
でも、至急病院に来てください。と言っていた割には
のんびりと案内されていると思うのは気のせいなのかしら。
大きな病院だけあって、エレベーターを乗り継ぎ移動する。
一人では到底移動できない迷路のような道をたどり、やっとたどり着いた廊下には窓がなく
病院に入ってきたときとは違う冷たさを感じる。
「こちらへどうぞ。」
案内された先は、通常の病室ではなかった。
嘘でしょ・・・・・・。
あんなにも朝元気だったじゃない・・・・・。
何かの間違いだよ。
「お父さん・・・・・
お母さん・・・・・・」
私の問いかけに何の反応も見せない二人。
ねえ、起きてよ・・・・・。
お父さん・・・・・・
お母さん・・・・・・
・・・・・・・・
「嫌―!!
ねえ、起きてよ。
お父さん、お母さん。
私だよ。ねえ分かるでしょ??
何とか言ってよ!!」
どうして・・・・・・
私が反抗ばかりしていい子じゃなかったから私を一人置いて逝っちゃったの?
もう二度と、反抗しない。いい子になります。
そう神様に誓ったら、神様はお父さんとお母さん戻してくれる?
お願い。
私から大切な人を奪わないで・・・・・・
気が付くと私は病院のベッドに寝かされていた。
あとで、聞かされた話によると突然発狂したあと、意識を失ったんだそうだ。
なんで私目覚めちゃったの・・・・・・。
気を失ったまま目覚めなければ良かったのに・・・・・・。
こうして、15歳の私は突然、本当に突然一人ぼっちになってしまったのだ。
両親とも一人っ子で、すでに両祖父母が他界している状態のため、実質的に身寄りはいない。
そのため、施設に入ったほうがいいんじゃないかと、中学の担任の先生には言われたけど、
やっぱり両親との思い出がたくさん詰まっているこの家を離れることなんてできない。
幸いにも、うちは裕福な家庭だったことに加えて、保険金などの支給もあったため、
私が一人で生活しながら大学を卒業して就職するまでの蓄えはあった。
「夕実ちゃん。家も近いんだし、うちは敬子と二人暮らしだから、
いつでも遠慮しないでうちにいらっしゃいね。」
そういって、支えてくれる敬子のお母さん。
そして、いつでも私の心の支えになってくれる敬子。
大丈夫だよね。
寂しくないって言ったら嘘になるけど、私にはそばで支えてくれる人がいる。
一人じゃないから頑張れる。
お父さん、お母さん。
私、天国のお父さんと、お母さんに心配かけないように頑張るから。
だから、見守っていて下さい。