━本詩章━ 1、「また、この部屋か。」
うっす。
よさです。
かきました。
よろです。
『久しぶり、元気してた?』
『君なんて大嫌いだ。』
『すごいよな、お前は』
『中途半端にするんだったらやめてくれ。邪魔だ』
『すごいね、才能あるよ君』
『ガチ勢じゃん、よく知ってるよなそれ。』
『言葉の選び方がすごいよ!』
『君嫌い。』
『また明日、遊ぼうな。よっしー』
今日も、またこの部屋か
発信源は分からないが、最近好きになった桃色の髪をしたアーティストの声が耳に微かに届き、語彙では表せない暗闇から現実世界へと帰還する。
天井の生ぬるい色のオレンジに弱弱しく光る円形のライトを見つめる。
仄かに染まる白い天井に視線を平行移動させると、改めて自分の部屋を実感する。
無意味に高い電子音が耳の中で戦のように、雄たけびを上げている。
「……っるさい。」
頭の向こうにお置いてある、夜中でも緑に光る目覚まし時計の3本の針を見る。
時計の頭にある銀色の部分を完膚無きまで叩きつける。
突然の静寂に、耳が脳内で悲鳴を上げる。
視界が曖昧な中、それを確認すると、寝返りを打とうと体を横に受け流す。
首に、絡まるスマホの付属品の白いイヤホンを断線しないように丁寧に取り除き、目の前にある姉のピンクのラジカセが置いてある箱へ放り投げる。
だんだんと意識が覚醒し、二つの目が対象物を捉らえるようになる。
足元に目を動かせると、ゴミ置き場と言わんばかりの布団がそこにいた、
自分の足でぎりぎり届く程度の距離感で足で布団と空気を蹴る。
採用されなかった原稿用紙のようにくしゃくしゃになってしまった布団を横目に見ながら、銀に光る音源を捜索する。
もう、いつから寝相が悪くなったのかも覚えてない。
灰色に光るMP3プレーヤーの居所が分からなかった。
最近は、音楽がないと、インフルエンザに罹ったときに見るような悪夢をよく見る。
昨日は、友達に裏切られ殺され、一昨日は、大好きな姉が死んだ。
あらゆる人間関係における悪を見せつけられているようだった。
そんなことの意図も分からず終いで。
幼稚園の時から続ける剣道の所為で、脂肪に対して無駄に鍛えられている両足を茶色のフローリングの床に着地させる。
重力が何倍にも増加した上体を起こす。
ほんの僅かな頭痛が気力を思うがままに略奪していく。
かつて姉が、そして弟が寝ていた二段目部分がなくなった自分のベッドの下の引き出しを横にスライドさせる。
きしきしと、無理を言うなと引き出しが喚く音を聞きながら、埃の舞踏会と化した狭く白い世界を眺める。
右奥からの音楽と銀色に反射する光を基に、太い右腕を突っ込ませ、
右手の先に、冷たい感覚を感じながら、それをこちらへと引き寄せる。
見た目によらず、かわいい歌声が流れてくる。
彼基準の話だが、近年まれに見る天下の歌声を耳で直接聞き終え、電源のボタンを長押しし、「bye」の文字を見送る。
タップの青い発光が目に痛い。
この銀色に光り、ざらざらした感欲を残していったMP3プレーヤーを先の白いイヤホンと同じ目にあわす。
ガシャンと音が鳴ったが、大して大きい事故ではないので見過ごした。
たった今空中を綺麗に舞った銀色の四角を、今さっきまで電気を与え続けていた白い物体を布団に投げ捨てる。
真ん中にオレンジの光が灯っていたので、充電がないのだろう。
ぽふっと柔らかい音を立て、布団に吸い込まれて消えていった。
足を少し移動させ、充電器を桃色の布団の中から救出。
足元に散らばっていた黒いコードたちの中から一つを引っ張りだし、充電器へつなげる。
同じように、オレンジに灯り、電気を喰らっていくのを確認すると、敷布団の上にすとんと落とす。
一連の動作で、大体意識は完全に覚醒しきっていた。
されど、立ち上がろうとすると足元がフラめいていることを感じたので、焦げ茶に光沢のある勉強机に手を伸ばし、自分の支えとする。
右手で、支柱を掴み、左手でベッドの上に置いてあった水色のスマホ掴む。
自分の周りには物がありすぎるようだ。
ドアの目の前に置いてあった紺色のバッグを持ち上げ、部屋の隅に適当に放り投げる。
眠気と別れ損ねているが、構わず錆かけているドアノブに手を触れ、90度回転させると同時に力を加えた。
部屋の空気とともに、視界は変化する。
朝日が不法侵入して木の色した廊下を灰色に染めていた。
生暖かいフローリングの床を踏みしめ、茶色のドアの隙間から覗き込んでくる白い光の線と自分の視線を交わらせる。
「まぶしっ………。」
とだけ呟いて、光の線を見送る。
足元の、表現し難い温もりを邪魔に思いながら、家の中で生活の主要となっている部屋を意味もなく目指す。
黒の充電器で絡まっている右手で、第二のドアノブを回し、向こうに進んでいく。
弁当を冷やすための扇風機の風が当たり、少し心地いい。
台所を素通り、電話台の上にあるコンセントの延長ケーブルに、自分の充電器を差し込み、プレーヤーに音を流すための気力という名の電気を与える。
白のスマホ置き場に絡まっているアレクサのコードを一つずつ解し、自分のコードに引っかからないように誘導する。
逆三角になるように置かれているそれを壁に掛けて置く。
「起きたー?」
母の声が耳の奥で微かに響くのを感じ取っては、口からため息という形で放出する。
背後のソファに腰かけ、自分の重力を預ける。
頭が未だにふらふら横に揺れるようだ。
5秒、そのままでいると、目の前のアレクサが時間を知らせる。
《8時5分、『起動の時間です。』のリマインダです。》
少し間を開け、もう一度あらかじめ書かれた台本を読み上げる。
よく見ると、青に光る間に黄色に発行するのに気が付いた。
この光は、大体ヤフー天気からの「降水情報」だ。
今日は雨が降るのだろう。
それだけでも、人は気が滅入る。
点滅する黒い筒を見つめていると父が起きてきた。
幼き頃、弟が落書きした得体の知れない芸術作品を横にスライドさせ、襖の奥から身を顕にしていた。
自分と同じように瞼にかかる重力は酷に見えそうだが、父の起動するための時間はスマホの起動より速い。
自分の足を避け、アレクサのボタンの一つに手を触れる。
黄色が青に染まったのを確認して、「アレクサ、通知ある?」とだけ聞いて洗面台に向かっていってしまった。
アレクサは誰も聞いてないのに、僕らに天気予報を伝えてくれる。
どうやら、昼頃に小雨が降るらしい。
今日は、運が悪い日のようだ。
この一日が、中学二年一学期最後の日だ。
「ごはん食べなー」
母の一言で、朦朧としていた世界が現実へと移り変わる。
ダンベルが乗っている程の重すぎる肩と、腰を上げ、視界が高くなっていく。
今日の朝飯も、変哲のないどこにでもあるような、ここだけの食事。
何も考えずに、掻きこんで事を終える。
皿と箸を流しに持っていき、「お願いしまーす」の意を込めた何かを発音する。
さて、椅子の傍に置かれた黒いバッグを持ち、家の鍵を取り出してはズボンの右ポケットに突っ込む。
その様子を傍から見ていた母が声をかける。
「もう行く?」
顔を向けずに返事を送る。
「うん。」
たった二文字で返信を済ませ、朝起きてきて歩いた道を逆にたどっていく。
洗面台には、相変わらず丁寧に歯を磨く父の姿が見て取れた。
小さく、トイレの水を流す音にかき消されそうになりそうな声で出発の意を示す。
父は、黒い歯ブラシを咥えたまま「いってらっしゃい」と発した。
予想もへったくれもない回答を目の当たりにしたところで、家を後にしよう。
カーキ色の靴を自動で点灯するライトの仄かな光を頼りに足に招き入れる。
同時に鉄の鍵を回し、その世界を拡張させる。
屈んだことで見えた自分の顔を見つめる。
そんなに尖ったところもない、普遍な顔をしている。
自分を見送ってから、外に出る。
鏡の中の自分は本当に自分なのか?
都市伝説のようなことを考えてもみる。
背後から母の声が聞こえた。
「悠人、行ってらっしゃい。」
「んー」
そして鍵をかけ、右に掛けてある標識を見る。
『吉田』
自分が生まれたときから与えられていた名前を確認してから、右に進もうとする。
少し進んだところで、前方から気配を感じたので左に寄っておく。
予想通り、人が階段を降りてきた。
自分と同じようなバッグを持っている。
髪は長く、華奢な体だ。
目が合う。
彼女のことは、小学生の頃から知っていた。
このマンションの5階に住む、『梅澤 希』
一礼を済まし、お互いに通り過ぎる。
顔も、クラスの残念なお顔をお持ちになっている女子たちよりかは良い。
優等生で吹奏楽部といった、典型的な「デキル中学生」だった。
いつもなら、そこまで気にしない。
そう、いつもなら。
いつもより、顔をよく覗き込んでしまった。
それは不意に起こったことであり、意図してみたものではない。
といっても、ほんの数秒の差ではあるが。
その、ほんの数秒の差でも分かった。
彼女は、ひどく寂しく、苦しそうな表情をしていた。
自分の語彙の狭さが悔やまれる。
ただ、このように見えたのは事実だ。
少しの間、時間が止まったように彼女の行く末を眺めていた。
毎日毎朝会うわけでもないが、すれ違う時の表情くらいは覚えている。
趣味以外に、他のことを覚える事が無いために、余裕で覚えてしまっている、と表したほうが近い。
だが、そんなことがどうでもよくなるくらいに、梅澤さんの顔は深刻そうだった。
比喩のように言うのならば、顔を炭で黒く染めてしまっているような暗さ………というようで、
………やはり、自分には言語化が難しい。
なら、考えることに意味がないのなら、もう忘れよう。
再び前を向いて階段を下っていく。
ベージュ色に塗装された鉄のドアを抑えながら、押し込む。
壁の褐色の艶が色を反射させているのを横目に見る。
己の目を見つめる。
さっきのことが忘れらないような顔だった。
自分で言うのもいやになる話だが、それはそれは腑抜けたような感情を抱いていた。
彼女の表情が、脳裏にこびり付いていて、しばらくは離れてくれそうになかった。
致し方ないので、歯に挟まった肉の欠片を舌で取り除こうとするようにして歩くことにした。
耳に入った水のように、そのうち自然に取れていくことを願いながら、足を進めていく。
やっとのことで、外に出た感覚。
今、時間は何時なのだろう。
起きて、一度も時計を見ていない。
親の反応を感じ取った限り、そこまでやばい時間帯ではないのは確かなのだが。
登校は、数秒の差が命取りとなる。
中学に入学してから、百を悠に超す遅刻数が教えてくれる知識だ。
とりあえず、信号のところまで何も考えずに歩んでいく。
タイミングが悪く、赤信号になってしまった。
先も書いた通り、登校には数秒の差がこの後の行動を大きく変えていくのだ。
信号とかいう、何秒も何分もかかる障害物に引っかかっては、間に合うものも間に合わない。
脳内で文句をぶつけながら、青信号が赤になるのを待つ。
向こう側の歩道には、数人の生徒も見えた。
あの人数なら、まだ遅刻するような時間ではない。
まだゆっくり歩いて行っても間に合う。
余裕ぶっていたときに、赤信号が緑へ変わった。
足元の白黒の縞の上を踏みしめながら、自分を学校へと導く。
二人や、三人で話しながら歩いていく人等もいるが、自分には近くに住んでいる友人がいない。
友人もいなければ、一緒に登校する人も勿論いない。
欲しいとも思わない。
そう頭の中で決めつけながら、この夏に見合う熱さのアスファルトを、熱を感じずに踏みつけていった。
1、「また、この部屋か」
0 終
うっす。
よさです。
ご拝読くださりありがとうございました。
最近、投稿速度が地軸が傾いて北極星の位置がずれるくらい遅くなってしまっています。
ほんとに申し訳ない。
まぁ、これが初めてなんですけどね。
高校とかいうちょっと大きい直方体に囚われてあんまり執筆時間をとれないんですよ………
ずっと臨時休校でいいのに。
さて、それはそうと。
最近、誠に嬉しいことに、フォロワーさんが増えてきています。
よって、この小説初めて読んだぜっていう方もいると思うので、さらっと紹介しますと、
僕が中学生の時に姉から貰ったマルマンのルーズリーフに書いていた小説になります。
モチーフがありまして、僕が今までに書いた詩の世界の人等の話になってるんですよね。
以前、ツイッター上であげさせていただいた「本編」、スピンオフとして書いた「ルーズリーフとキャンパスノート」の人物と同一です。
本編のほうは、興味があればツイッター上の夜桜にリクエスト提出してください。(言ってください。リンクを持ってきます。)
もともと、作詞したのを作曲して出した後にこの小説を書こうと思ったんですが、僕は作曲の神様から見放されていることに気づいたので諦めて先に小説を書き始めたんです。
だれか曲作ってくれ頼む。
いつか、作曲もできるようになったら小説も曲も詩も、皆さんにいい物を届けられるように努力していきたい所存です………!
では、ここらで筆を置かせていただきます。
それでは!
しばらくっ!
<あとがきさえもぐちゃぐちゃにする才能があると思い始めた今日この頃。 夜桜>