暑い日
じりじりと焼けるように日が差し、あまりの暑さに目眩がした。
ふいに前を歩いていた綾小路先輩が立ち止まる。
「あっ」
何かをじっと見ているようだ。
彼の視線の先には、1匹のミミズが地面を這っていた。
焼けるようなコンクリートの上で身をくねらせている。
「土の中でゆっくり暮らしてればいいのに、わざわざこんな暑いところに出てきちゃって……貴博もそう思わない?」
綾小路先輩が僕の方を向く。
額には汗が浮かんでいるのに、その顔が少し涼しげに見えるのが不思議だった。
「そうですね。でも……何だか幸せそうです」
僕は再びコンクリートの上のミミズに目を落とす。
僕の言葉を聞いて綾小路先輩は訝しげな表情を浮かべた。
ミミズは相変わらず地面の上で踊るように身を伸ばしたり縮めたりしている。
その表面から少しずつツヤが消え、細かい砂が付いていく。
「そうかな?」
「そうですよ。だって、こうしてあなたに会えたんですから」
「どういう事だよ」
僕の言葉を聞くと、綾小路先輩はフッと笑って歩き出してしまった。
きっと土の中は冷たくて気持ちがいいんだろう。
でも、どんなに自分の身が焼けようともあなたの目に触れ、言葉をかけられたこの生き物は幸せに違いない。
「ほら、貴博。行くよ」
綾小路先輩が僕を呼ぶ。
「綾小路先輩」
「何?」
「いつか2人でのんびり暮らせるといいですね」
彼は少しの間僕の目を見つめていたが、やがて「いいかもしれないね」と言って笑った。
僕は綾小路先輩に駆け寄ると、並んで歩き出した。