悠子さんの場合 1
2話目は後味良い感じを目指しています。一応。
適当に設定した、聞き覚えのあるクラシック音楽がスマホから流れている。
あと5分、と枕元を探りかけて、あ、今日土曜日じゃん、と悠子はがばりと身体を起こした。
弄りながら眠ってしまったのだろう、布団の中に埋まっていたスマホを発掘してアラームを解除する。
お休みなら買い物に行きたい。
悠子はえい、と腹筋を使って上体を起こした。
眼前にはがらんとした空間が広がっている。
そうだ。自立したい、と入寮したんだった。
家具の搬送より先に着いてしまい、備え付けの寝具と学習机以外置いてない部屋で深呼吸をしてみる。
実家の自室よりは狭いが、親に干渉されない、自分だけの空間、というものに胸がいっぱいになる。
部屋に好みの雑貨を置きたいし、本屋で雑誌も見たい。
新作のミステリーもチェックしないとだ。
クローゼットの中には家具よりも先に送った母様からの入学祝が沢山詰まったダンボールがいくつか残っているが、それは後回しでいいだろう。
大体、母様は悠子の見た目と関係なく趣味を押し付けるから、似合う服なんて入ってはいないのだ。
部屋着と制服、あとは無難に着まわせる服が何着かあれば、とりあえずは大丈夫なはずだ。
よし、と気合を入れてベッドから下りると、風呂場へ向かう。
お湯が出るのに少し時間がかかるのが気になるが、清掃の行き届いた水周りは成金の実家より綺麗かもしれない、と思いながら浴槽に湯を入れる。
よく言えば癖の無いストレート、悪く言えばボリュームの無いショートカットの毛先を指先で弄びながら、鏡に映った寝起きで少し腫れぼったい目をした自分を眺める。
お湯の溜まり具合を見ながら、服を脱ぐ。
均整の取れた自分の肢体を確認しつつ思う。悪くない、と。
華奢に見えがちではあるが、ジムでのトレーニングは怠っていないし、出るところがあまり出ていないのが気にはなるが、締まるべきところは締まっている。
ぬる目の湯を満たした浴槽に体を浸し、ふう、と一息ついたところで、ドアチャイムが鳴った。