藍さんの場合 6 山岡仁恵
放課後、のんびりと小テストの採点をしていたところに受け持ちの生徒の父兄から担任に話を聞きたい、という問い合わせが来ていると聞いて仁恵は困惑した。
聞けば、外部生の父兄だという。
大方、クラスに馴染めていないようだ、とかそういった相談であろう。そうであって欲しい。
急ぎ足で事務局へ向かい、職員から受話器を受け取る。
「もしもし、お電話替わりました。担任の山岡です。」
「山岡先生ですね。お世話になっております。森田藍の母です。」
「森田さんのお母様ですね。どういったご用件でしょうか?」
「どういったって……。先程、娘が貧血を起こした、とタクシーで帰ってきたんです。
生徒会の方が付き添って下さっていたようですが、どうも話が良く分からなくて……。
娘は生徒会室で倒れたそうなんですが、そもそも宅の娘が生徒会室に出入りしていることも私知らなくて。
とにかく、娘の様子がおかしいんです。それで、担任の先生なら何かご存知かと思ってお話を伺おうかとお電話いたしました。」
電話の要旨を聞いただけで、仁恵の卒倒しそうになった。
森田藍が生徒会室に出入りしていた?
貧血で倒れた?
生徒会役員が付き添って彼女を家まで送った?
震えそうになる声を必死に抑え、確認する。
「申し訳ありません。それは本日の放課後のことでしょうか?」
「ええ。先程、娘が帰宅して、どうしたのか聞いたところ、よく分からないことを捲し立ててまた倒れてしまって……。
詳しいお話を伺おうにも、生徒会の方は直ぐにタクシーで戻られたようでして……。」
当たり前である。生徒会役員が一般生徒を送って行くなど、学園出身の仁恵には考えられない状況だ。
「そうですか。申し訳ありませんが、現在私の方にはそういったお話は来ておりませんので、状況が良く分かりません。
居合わせた生徒達から事情を聞いた上で、後日お母様と、いえ、ご両親とお話させていただく、と言う形になるかと思いますが、よろしいでしょうか?」
「ええ。結構です。宜しくお願いします。」
「では、こちらからまた改めてご連絡いたしますので。
藍さんに、お大事に、とお伝えくださいませ。」
「ご丁寧にありがとうございます。それでは、ご連絡お待ちしております。失礼いたします。」
仁恵は受話器を置くと、震える肩に手をやり、小走りに職員室へ向かった。