藍さんの場合 3
「藍さん、お茶を入れて下さる?」
「藍さん、由梨絵様がおっしゃったのはこのお茶じゃなくてよ?」
「藍さん、各クラスに配るプリント、持っていってくださる?」
「藍さん、千春様はカフェインが苦手なのよ?」
「藍さん、3年生からプリントを持って来た子が感じ悪いって苦情が来ててよ?」
「藍さん、お茶、薄いわ。入れなおして」
「藍さん、あなた、クラスでちゃんとしてて?生徒会に出入りしてるのに、て言われたわ」
「藍さん、なんだかやつれててよ?大丈夫?ちょっと、その、フフ…みすぼらしいわ」
藍さん、藍さん、藍さん、藍さん、藍さん、藍さん、藍さん……
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かちゃり、といや、もう少し強めにかちゃん、とソーサーにカップを会長が置いた。
それだけで私はビクリと身体を震わせる。
「藍さん」
会長の声はいつだって柔らかい。でもどこか責めているような響きを感じて私の身体は強張ってしまう。
「今日のお茶、とっても美味しいわ」
そんな風に褒められて、少し安心する。
これで少しは私も認められたのだろうか。
「でもね」
ああ、やっぱり。
私は責められるんだ。
「このお茶なら、私は苺のマイセンで飲みたかったわ」
申し訳ありません、と言えば私は許されるのだろうか。
いや、そもそも何故私は同じ学校の上級生とはいえ、学生にそこまで謙らなければいけないのだろうか。
ぐ、と唇をかみ締める。
自分のつま先を見下ろしていても、ふう、と会長がため息をつくのが判る。
『あのね、わたくし疑問なんだけど』
涙で会長の声も滲んで聞こえる。
『どうして、あなた、まだここにいるの?』
そこからの記憶は無い。
気が付いたら、私は自宅に居た。
父と母が心配そうに
「いじめられているなんて知らなかった。でも、聞いてみるとお前にも悪いところがある」
というようなことを言っていた。
無難に馨ヶ丘に通っているだけで良かった、とか、そんなに無理して目立つことをする必要はなかった、とか、何でそんなことをしたのか、とか。
「ごめんなさい。でも、少し一人にして」
ようやくそれだけの言葉を搾り出して、私はまた意識を失った。