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学園日記  作者: 錐木利緒
2/21

藍さんの場合 1

これといって目立つタイプの生徒ではなかった。

高等部からの編入組。

真面目そうな、言葉を悪くすれば地味な容姿であるが、野暮ったい細いフレームの眼鏡の奥には勝気そうな瞳。

内部進学の生徒が多数を占めるこの学園の入学式は、多くの生徒にとっては学年が一つ上がった程度であり、新しい教室の中では既にいくつかのグループでお喋りが繰り広げられている。

クラスに3、4名居る編入生は落ち着かなげに俯いて着席している者や、おずおずと、接しやすそうなクラスメイトを探して話しかける者も居るが、少女は唇を引き締めて、姿勢良く着席していた。

我関せず、というその姿勢は些か虚勢の張りすぎであり、目敏くそれに気付いては少女をチラリと見て忍び笑いをするグループもあった。


***************************


少女たちのお喋りが教室から溢れ、廊下はざわついている。

暖かい春の陽射しを感じながら、山岡仁恵は担任を持つ教室を目指す。

女子校特有の喧騒を心地よく耳にしながら、ゆっくりと歩く。

中等部からこの学園に入学し、大学卒業までの十年を過ごした。

その後、いくつかの高校に教師として赴任したが、母校で教鞭をとるようになって既に十年が経とうとしている。

やはり自分にはこの学校の雰囲気が合っている、と一つ頷く。


両親からたっぷりと金と愛情をかけられた少女たちは、それぞれに個性はあるが、屈託なく成長する。

勿論内向的な生徒は居る。が、一貫校という環境が彼女達に親しい友人を作る時間を他所より長く与えてくれるのだ。

女子校特有の小さな諍いや意地悪はあるが、目に余るほどの虐めには発展せず、それも時間が解決してくれることが多い。

極稀に、校風から逸脱するような言動があった生徒には退学処分が渡されることもあるらしいが、少なくとも仁恵が赴任してからは、一度もなかった。


一年D組の扉で小さく深呼吸すると、扉を開く。

教師の登場に、お喋りに興じていた少女たちがぱらぱらと席に着く。

仁恵は柔らかい笑みを浮かべたまま、黒板に丁寧に氏名を書いた。


「知っている子も多いと思いますが、このクラスの担任になりました。山岡です」


ひとえちゃーん、と教室の後方から声が上がると、生徒達の間にくすくすと笑いが広がる。

仁恵がにっこり笑い、


「はい、ひとえちゃんですよー。」


と声を上げた生徒に手を振る。笑い声が高くなる。

教室は明るい雰囲気に包まれていた。

些か舐められている、と感じることもあるが、これで良い。

人懐こく甘え上手な生徒たちは、教師を甘やかすのも上手いのだ。

喧騒が落ち着くのを待って、仁恵はゆったりと自己紹介をするように指示を出した。


教室の右手前から氏名と趣味や部活、高校の抱負等、馴染みのメンバーであっても緊張感のある、新年度の自己紹介は毎年微笑ましい。

顔を強張らせているのは編入組の生徒だ。

各クラスに四名から五名振り分けられている生徒達が自己紹介を終える度、仁恵は緊張を解すように微笑みかけてやった。

彼らにも早くこの学園に馴染んでもらいたい、そう心から思い、丁寧に名簿を確認する。


「森田 藍です。他校から来ました。中学では生徒会長をしていました。高校でも生徒会に入りたいと思っています。よろしくお願いします。」

姿勢良く立った少女が自己紹介をすると、教室が一瞬静かになる。

ふいの静寂に視線を泳がせた少女と目が合い、仁恵は口を開いた。

「この学校の生徒会役員の選出法は少し変わっているかもしれないから……そうねぇ、生徒会に入るつもりの方いらっしゃる?」

ぱらぱらと、4、5名の生徒が手を挙げた。

その中に先程、ひとえちゃーん、と教室を笑わせていた少女の姿を認め、にっこりする。

「笹原さん、後で森田さんに生徒会の説明をしてさしあげて?」

ええ、私ですかぁ!?と素っ頓狂な声を上げ、再び周囲を笑わせると、少女は満足したのか

「わかりましたぁ。森田さん、後でねー。」

とひらひらと手を振った。

森田藍が会釈を返し、次の生徒が自己紹介をしようと起立した。

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