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学園日記  作者: 錐木利緒
19/21

悠子さんの場合 11

二人で旅行!?

聞き返そうとする悠子の唇を顕子はそっと人差し指で抑える。


「悠ったら。大きい声だしたら、皆で行くことになっちゃうかもしれなくてよ?」


あわてて口を噤む悠子を見て、顕子は満足そうに笑う。


「内緒よ?今度一緒に旅行の計画を立てましょう?」


唇を抑えられたまま、無言で首を縦に振る悠子が咥えたままのチョコレートの香りがするという煙草に器用に火をつけ、顕子はお気に入りのソファに戻っていった。


(どうしよう……楽しみすぎる……)


ずるずると壁に背を預けて座り込んだ。

悠子様!?と慌てて駆け寄ってくる一年生に、


「だいじょぶ。ちょっと顕子様に悩殺された」


と手を振ると、キャー、とお茶会の席に戻っていく。

盛り上がるお茶会の中で、顕子様だけがニコニコといつものように微笑んでいた。


旅行の話題は尽きない。

顕子を送っていくほんの僅かな帰り道も、帰宅してから寝るまでも、電話でその話をした。

馨ヶ丘の寮は、厳しい門限はあるが、消灯時間が無かったのでそれこそどちらかが眠ってしまうまで旅行の計画を話し合った。


結局、怖がりなくせに怖いもの好きな顕子の強い勧めがあり某絶叫遊園地に行き、そこからはゆっくりJRで顕子の家の別荘のある避暑地へ移動、その後はいつも通りの夏休みをゆっくり過ごそう、ということになった。

家の車を使いたくない、という顕子の希望を優先し、JRやバスを使う予定だ。


深夜に及ぶ電話が祟ったのか、珍しく悠子は十番内から十番台へ試験の順位を落としたが、夏バテで、との言い訳は思いの外あっさりと通り、両親は学友との旅行を許可してくれた。

相手が顕子だったのはおそらく大きい。


明日からいよいよ夏休みだ。

校長の長い話も、担任の夏休みの注意事項も全く頭に入らないまま、悠子は寮に戻り、さっそく荷造りに励んだ。

顕子は存外派手好きだ。自身はこの時期夏物のワンピースをさらりと着ることが多いが、ストライプやドットなど、どこかに柄が入っているものを悠子が纏うことを好む。

このシャツは顕子様が好きだから持っていこう、あ、じゃあ、このパンツも、と服を選んでいるだけで、スーツケースが一杯になってしまった。

はしゃぎすぎの自分に苦笑いして、深呼吸する。

今回は、公共機関を使うのだ。いつもの様に荷物を運んでもらえるわけではない。

丁寧に、顕子の好むもので着まわしの効くものを選ばなければ。自分にそう言い聞かせながらの荷造りは深夜に及んだ。

流石に寝なければ、と思っていると携帯が鳴る。

この時間にかけてくるのは、顕子しか居ないはずだ。


「もしもし、悠?」


「ええ。どうしました?」


「明日……」


「明日?」


もしや急用でだめになったりしたのだろうか。そんな胸苦しさを覚えながら、声を絞り出す。


「ううん。なんでもないの。明日、楽しみね。楽しみすぎて眠れなかったの」


はぁっと息を吐き出して悠子は笑った。


「どうかして?」


「いえ。もしかしたら旅行がだめになったのかと思って、心配しました。

私も楽しみすぎて。今、ようやく荷造りが終わったところです。今日は眠れないかもしれません」


楽しそうに顕子が笑う。ちゃんと眠るのよ。お互い様ですよ。じゃあ、明日ね。では、明日。そういってその日の電話は切れた。

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