悠子さんの場合 5
そう人が居るわけではないのに、サロンはいつも少しだけさんざめいている様に思う。
あくまで、少しだけ、なのだが。
瑞希にきつく言われ、窓辺で煙草を吸いながら悠子はぼんやりとしていた。
「そういえば、悠子様は部活には入られなかったんですか?」
無邪気に一年生が発した言葉に、サロン内の温度が少しだけ下がった気がした。
事情を知っている二年生三年生はほんの僅かに表情を固めているようだが、ちらり、と顕子を見やり、一つため息をつく。
「そうね。私は一時期どこか運動部と生徒会を掛け持ちしようと思ったんだけど…」
瑞希が、何を言うのか、という顔をしたのを確認してから、ニヤリと笑う。
「顕子様がヤキモチを焼かれるから止めちゃったの。顕子様に嫌な思いをさせてまで、したいことなんて、私にはないから」
キャーっとはしゃいだ声を上げる一年生と、どこかほっとした様子の二三年生に笑いかけながら顕子の隣に腰を下ろす。
顕子のお気に入りのカウチソファに一緒に座るのは、殆ど悠子だけだ。
「悠ったら。私、ヤキモチなんて焼いてないわ。またそうやって意地悪を言うんだから」
「ええ?そうでしたっけ?今日もサロンには来ないのかしら!てクラスにお迎えに来て頂いたのは私の思い違いだったかもしれませんね?」
髪の毛を弄びながらからかうと、もう、と悠子の手を押さえ、だって寂しかったんですもの、と顕子が子供のように頬を膨らます。
素敵ねぇ、と頬を染める一年生と、また始まった、と苦笑する二三年生。
いつもの空気が戻ってきた。