悠子さんの場合 4
「悠ったら。生徒会室は禁煙です」
甘えるような声音で、生徒会長が火の付いていない煙草を悠子の口元から取り上げる。
「成長が止まりますよ」
わざとらしく真面目な表情を作り、アンティーク調のカウチソファに身を沈めた会長に苦笑いすると、悠子は断りもせずに会長の隣に腰を下ろした。
「これ以上成長したら困ります」
こちらも真面目な顔を取り繕って言うと、小さく吹き出した会長の手から再び煙草を取り上げる。
実際、悠子の身長は高校に入学してから成長期が来たのか驚くほど伸びた。
一時期の成長痛で眠れない頃に比べればましだが、未だに少しずつ伸び続けている。
このままでは175センチを超えてしまうかもしれない、と密かに慄いているくらいだ。
「あら、素敵じゃない。長身女子。」
くすくすと笑いながら、それでも会長は悠子が煙草に火を付けるのをそれ以上止めようとはしなかった。
「それは顕子様が小柄で可愛らしいから言えるんですよ」
わざとむくれて言うと、顕子はいっそう楽しそうに笑い声を上げて、造り付けの棚から可愛らしいコンフィチュールの空き瓶を取ると、手ずから開けて悠子の前に置いてくれた。悠子専用の灰皿になっている瓶だ。
そしてもう一つ、小さな包みをその隣に置く。
「そんなニコチン中毒の悠にプレゼントよ」
煙草を咥えたまま悠子がその包みを取り上げると、もう、お行儀が悪すぎます、と顕子は少しだけ怒った顔をした後、
「煙草よ。チョコレートの香りがするんですって。私は存じ上げないけど、お兄様がおっしゃってたわ。チョコレートの香りなんて可愛いからお願い、てわがままな振りしていただいてきたのよ」
と得意げな顔をして言う。
振り、ではないでしょう、と悠子が笑い、意地悪ばかり言っているとあげませんよ、と包みを取り返そうとして悠子にじゃれかかる顕子をいなしていると、
「何をしているんですか、あなた方は」
と呆れたような声とともに艶やかな黒髪をかきあげながら、小倉瑞希がサロンに入ってきた。
「あら、瑞希。だって悠ったら酷いのよ」
悠子ほどではないが、女子にしては高めの身長と大人びたきつめの美貌の瑞希と、その瑞希にまるで慕うように走り寄る小柄な顕子の様子は似たような髪型も相まってまるで姉妹のようだが、生徒会長である顕子は三年生、悠子と瑞希は二年生である。
「そうですねぇ。本当に悠子ったら酷い酷い」
と顕子をあしらいながらサロンの窓を片端から開けていく瑞希に
「寒いじゃないか」
と文句を言うと、誰のせいだと思ってるのよ、といささか真面目に怒られた。
ごめんごめん、と笑いながら窓を開けるのを手伝う。
そうこうしている内に、サロンに役員が集まりだす。
いつもと同じようにお茶会が始まった。