礼美編8
「 何度言ったら解るのですか?有利な局面で気を緩めない!それだけ出来ればカズさんは相当強いのですから!」
「 そうは言っても自分ではそんなつもり無いっす」
「 顔に書いてあるのよ、勝ちを確信すると顔が紅くなってポカする、毎回その繰り返し」
カズの油断病とでも言うのだろうか、脳内で勝ちを確信すると読み切ったと思い決め手を指してしまうようだ、途中の手を飛ばしてしまう、指し終えたつもりになっているのだろう。
「 待ったありにしてみましょうか?」
「 それは将棋に対する冒涜っす」
「 そうなのよね、だけどどうやったら癖を直せるのでしょうね」
礼美はカズの癖を大体把握し始めていた。
カズが優勢になる、勝ちを確信する(読み切る)、顔が緩み紅くなる、油断してずっと先の決め手を指す。
礼美も後から調べてやっと解るくらいだ、局面は一見互角に見えるときもある。
顔が紅くなった瞬間にビンタでもしてみようか? 流石にそれは可哀想だ。
一生懸命読む事自体が恐怖になって読めなくなるかもしれない、棋力が半減しては本末転倒だ。
読み切った後で指す前に気付くのが一番良い。
次の対局が始まり終盤の入口まで進んだ。
礼美の棋力ではまだ読み切れないがプロレベルなら 何か確信する頃かもしれない、カズは目を瞑り先の先を読んでいる。
少し顔が紅くなってきた、また読み切りそうな雰囲気だ。
次に目を開ける時は紅い緩んだ顔で悪手を指す、どうしよう?
目を開けるまで数秒もない、どうやってカズにダメージを与えずに気付かせよう?ヤバイ、顔が紅くなってる、もう目を開ける。礼美は吸い込まれるように顔を近付けていた。
「 チュッ」