礼美編6
「 おお、そうか将棋部に入ってくれるか、じゃここにサインだけ頼むな」
黒猫先生は礼美といちごに入部届を手渡すと「ふぅー」と大きくため息を付いた。
「 それでは失礼します、」
深く頭を下げお辞儀をするとすぐさま振り返りツカツカと職員室をあとにする礼美
いちごは後ろ向きでずっと手を振っている。手を振り返すまでやめないつもりだろうか
「 黒猫先生、今の二人は結局口説けたって訳ですか?」
「 ああ情二先生、ここまで弱小将棋部でお気楽に活動出来てたんですけどね、もしかしたら部活も忙しくなるかもしれません。全く困ったもんだ」
「 言葉の割に少しも困った表情してないですよね」
「 礼美の方は個人戦の出場にOKの返事貰えたんですがね、いちごの方は遊びで団体戦だけ、しかも県大会以上の出場は辞退するって約束付きで」
「 そういや今年の一年は豊作らしいじゃないですか、今年こそ2年連続優勝の瑞希に白旗上げさせる生徒が現れるんですかねえ、中学含めたら5連覇中か」
「 情二先生詳しいですね、東京代表で全国2連覇の瑞希ですか?」
「 詳しいっていうか、プロでも評判じゃないですか、新聞でも褒め言葉しか出てこないし、すぐにでもプロで通用する腕前とか、話半分としても全国2連覇してて強いのは間違いないし、今年3連覇するんですかね、アマチュア高校女流名人3連覇は過去に誰も居ないんだから話題性もあるし」
「 将来の女流名人かもしれんですね、礼美が全国大会行けたときに会えたらサイン貰っておこうかな」
「 黒猫せ・ん・せ・い、頑張って瑞希を倒せるように礼美を育てるのが先生の仕事じゃないんですか」
少し苛立つ様子を見せる情二に黒猫は慌てて返事をする。
「 おっと正論ですな、豊作の年と言えば瑞希の妹が今年は1年に上がるんですよね、名前はなんだったかなあ」
「 妹の亜美ですか、あれはあれで中学2連覇してますからね、中1のときは姉の瑞希に負けただけ
東京予選で姉妹でつぶし合ってるんだから目も当てられんわ、勿体ない」
「 瑞希の妹もご存じでしたか、本当にお詳しい、情二先生も将棋指されるんですか?」
「 いやいや見る将でね、将棋の内容はさっぱりなんですわ、ただ勝負っていうのは水物で、どちらが勝つか分からない、高校野球観戦と同じレベルで見てるだけですわ、中学高校の才能ある人間はジャンル問わずに興味があるっつーか、最近だとネット配信で将棋の形勢が上に表示されるから見ていてどっちが勝ってるか分かりやすいのが良い、逆転に継ぐ逆転の試合だと応援のし甲斐もありますわ」
「 ネット配信ですか?最近はそうなんですね、他にも有望そうなの居るんですか?今年は豊作と先ほど仰っていましたが?」
「 100戦無敗の莉愛、あれが全国大会出てくると面白いんだが中学の時は全国大会を入院して辞退してたんですわ、予選から県大会、東北大会までは全勝だったのに勿体ない、あとは虹野姉妹か、二人とも見てる分には面白い将棋指しますよ、居玉で切り合いの短手数喧嘩将棋でね、どこまで読んでるか分からないが才能みたいなものは感じますわ、二人とも1年で似たような将棋指してね。他は誰が居たんだったかな?」
「 100戦無敗の莉愛、居玉の虹野姉妹、それと瑞希の妹の亜美が1年ですか、なるほどーいやはや勉強になりました、また教えてください」
メモを取りながら返事をする黒猫先生。
「 虹野姉妹なんて隣の県って言ったって橋一本渡ればすぐんとこですよ、あそこの顧問なら少しツテもあるから対局相手に困ってるようなら練習試合出来ないか聞いておきますよ」
「 まずは礼美の話も聞いてみたいですから、困るようであればまたお願いするかもしれません、その時は是非とも力になってやってください」
黒猫先生は 手帳に 虹野姉妹1年-練習試合可能性高い と書き足した。