礼美編5
礼美が微笑んだのには理由があった。
自分より努力を続けその努力が報われていない、だけど心を折られずに頑張っている。
そんなカズの将棋に真摯な姿勢に共感したのだ。
「 この将棋は私の負けね」
「 将棋は終盤っすよ?まだ分からないっす」
「 いえいえ、完全に読み負けてるし大局観でも負けていますわ、それともここから私をボコボコにするのがあなたの趣味なのかしら?」
「 こっちの形勢が今は良いってだけっす」
「 それだけ読みも大局観も知識も揃ってるなら地方大会で負けるなんて有り得ない気がしますけど終盤が苦手なのかしら?」
「 苦手と思う局面はあんまり無いっす、いきなり局面を見せられると自信ないっすけどその局面になるまでに自分で考えて誘導した局面のはずっすから、半分は相手の考えで誘導されてるんすけど」
「 ちょっとだけ試しても良いかしら?」
礼美は歩を6枚と香車を一枚手に持ち、持っている歩を二枚裏返し「▲3三と▲4一と」と配置し受方の玉を2一に配置した、正確には配置しようとした。
「 銀合の15手っすね、古典の有名な詰将棋っすよね」
並べ終わると同時くらいでカズの声が上がった。確かに有名な詰将棋だが手数まで覚えているのは偉いものだ。
「 少し有名な作品すぎたわね、ではこれはどうかしら?」
受方の玉を1一に配置、詰方の配置を▲4三角▲3四角▲2五桂と三枚配置した。
「 持ち駒 桂2枚で7手っすか?他の持ち駒だと詰将棋になりそうもないっす」
「 知識で解いてる訳じゃ無さそうね、しかも全部お見通し、持ち駒桂2枚で7手、正解よ」
後手の持駒:飛二 金四 銀四 桂 香四 歩十八
9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・v玉|一
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|二
| ・ ・ ・ ・ ・ 角 ・ ・ ・|三
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ 角 ・ ・|四
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 桂 ・|五
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|六
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|七
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|八
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|九
+---------------------------+
先手の持駒:桂二
▲2三桂 △2二玉 ▲1四桂 △1二玉 ▲3一桂成 △2三歩
▲2一角成
まで7手詰
「 特に見えにくい手もないっす、合駒何でも一緒っすし」
カズの言っていることはもっともだがそれよりも並べてる途中からカズが真剣に読みの世界に浸っていることに礼美は感心していた。
「 あなたはもっと勝てるわ、私が勝てるようにしてみせる、今日は帰るけどね、それでは失礼します」
礼美はとても満足したような様子で、にこにこしながらいちごと共に岐路に着くのだった。
「 礼美さんカズさんの事気に入ったのかなぁ?なんか嬉しそうだよぉ?」
いちごの質問は的を射ているように思えるが礼美はすかさず反論した。
「 そんなんじゃないわよ、私より努力してる人、才能ある人が見られて嬉しいってだけよ」
「 そうなのかなぁ?まぁいっかぁ、それよりも最後の詰将棋って本に載ってるのぉ?」
「 ううん、あの場で考えたのよ、難しい問題じゃないけど知ってる問題を出しても意味ないでしょ?」
「 古典の問題は15手って答えたけど知ってるのか考えたのか分かんないもんねぇ、それであの場で新しく詰将棋を創ったってことね・・・・ってうへぇ~解く方も解く方だけどその場で創ったんかいぃw、流石は全国3位だよぉw」
「 あんまり駒が多いと私が読み切れなくなっちゃうから少なめにしたの、隅の玉は簡単に詰むのよ」
「 そだねぇ~逃げ道少ないもんねぇ~、ところで黒猫先生の話どうするの?」
「 部活に入らないかって話? そうね、どうしようかしら、ふふっ」
「 こりゃ~愚問だったのぉ~聞いた私が悪ぅござんしたぁ」
いちごは両手のひらを上に向けてやれやれと大きくため息を付いた。