礼美編 (莉愛vs虹)2
罠を張っても引っかからない、単純に強いだけと言われればそうなのだが自分が見落とした手は相手も同じように見落としているように感じる。虹野姉妹と莉愛はどちらも居玉で指していたがチャンスに見せかけた仕掛けに乗ってこない、双方手詰まりになっていた。仕方なく囲い始める。
「 龍の知識+自分の読み+相手の読みも入る、これはほぼ無敵んごwww」
心の中で莉愛は高笑いしていた。相手が強ければ強いほどその力を返せる。あまり弱いとポカで負けることを子供の頃に学習してから自力でもちゃんと読むようになっていた。
「 それにしても二人とも先の先まで読むんごね、こっちは次の手だけ聞き逃さなければ良いんごwwそれにしても龍の焦ってる声がさっきから少しウザいんご」
「 くそっもうこっち指してんのか、駒組はなんとかなった、どっちも穴熊に組むだけは組めた」
「 龍さっきからうるさいんご、落ち着いて指すんご」
「 さっきからって、今しゃべっただけだぞ、ああ、そうか、そうだな、少し落ち着くな」
龍は焦って心の声が莉愛の邪魔をしていることに気が付いた、俺はあくまでもお伴に来てるだけ、相手も級位者とか初段だし、仮に負けてもどうでも良い話だ、姉貴の邪魔をしないことが一番の仕事だな。落ち着いてからの龍の指しまわしは隙がなく、紅子、雪、相手に勝勢になっていった。
「 むむぅこれは苦しいねぇ、指す手がなくなってきたよー」
紅子が騒ぎ始めた、雪も一生懸命考えているが劣勢なのは誰が見てもすぐ分かる。
「 ありません」
「 まいりました」
「 こっちもまいったよおお、することねーよおお」
雪とひかりがほぼ同時に投了し、それを見て紅子も声を上げた。
「 なんとか勝ったか、3面ってことは3人の声を同時に聞いてるってことだろ?一体形勢はどうなってるんだ?俺が盤面読めば多少は姉貴の応援になるのか?」
「 難しい局面だな、終盤の読みだけなら姉貴の方が上だ、うっかりの筋だけ俺が読んで潰しておくか、それが姉貴に伝わるかどうかは分からないんだが、ってここで顔面受けか、俺の想像の遥か上だな、ほほーここで歩の突き捨て?取らせて?自陣に受ける?なるほどなー」
「 龍、気が散るからあっち行ってるんご」
莉愛が怒り気味に言った、完全に聞こえているようだ、真後ろから見てるから姿は見えないはず。
「 少し散歩してきます。」
「 あらあらトイレかしら?その先を右に曲がって突き当り付近にあるわよ?」
「 あーあざっす、行ってきます」
顧問の先生に会釈すると龍は落ち着いて歩いた、俺の声が一番はっきり聞こえるって言ってたからな、少し離れれば相手の声だけになるだろうから邪魔せずに済むか、龍は気を使ってトイレに何をするでもないが入った。
こいつら攻めの手ばかり読みすぎんご、虹野姉妹もおかしな感覚を味わっていたが莉愛もまたおかしな感覚を味わっていた。▲7八銀▲同銀左▲同銀▲7八銀▲8八玉▲7七歩▲同金 ってなんで自分の駒ばかり脳内で動かしてるんご?将棋は交互に指さないと成立しないんごよ。妹の方はまだマシんごね、考えが読めると言えば読めるがそれでも攻めの方ばかりしか読まないから結局半分は莉愛本人が読むしか無かった。姉は後回しにして妹の方を先に片づけるんごよ。