礼美編12
「 よーっしいっただきー」
「 うわー負けたー」
紅子の嬉しそうな声と沖の残念そうな声が教室に響く、慌てて盤面を覗き込む黒猫先生、
「おっと、沖め負けちまったか、上手く捌かれてんなー」
隣の箱も追い詰められ投了寸前だ。
「いちごは恐らく勝ってるんだろうが1手間違うと詰んじまう、スリルでも楽しんでるのか?」
「形勢はどうなのでしょうか先生」
「だからいちごが優勢なんだって」
「優勢と言われても分かりません、どれくらい優勢なのでしょうか」
「どう言えば良いんだ、8対2ぐらいでいちごが勝ってる」
「8対2ですか?分かりました!スライムレベルの雑魚ですね!今なら簡単に倒せる気がする!」
「いや、そうじゃねーよ、30対30だけど先に攻撃出来るぐらい有利、負ける可能性も残ってる」
「なんですって!?大熱戦じゃないですか!これは目が離せませんよー!」
「なんだかよく分からんが伝わったようだ」
「お、カズのとこが終わりそうか?」
カズは読み切りか顔が紅くなっている。心配そうに隣で見つめる礼美。
読み切った!駒に手を伸ばしかけ大きく開いた目を更に大きく見開いた、現実に戻ったようだ。ふと手が止まると右にいる礼美を見る。礼美と目が合う。2人とも同時に目をそらして自分の盤面に集中する。(正確には集中していないだろうが)
「まずはこの王手を冷静に対処してと」
カズは王手を避けた、
「あーやっぱ引っ掛かってくんないか、取ってくれれば頓死狙いだったけど」
虹野姉はつまらなさそうになり投了した。
箱も投了していて残るは2局。
「よーっしいっただきー」
どこかで聞いた掛け声だがいちごが後ろを向いて大きくガッツポーズをした。とても将棋の勝負とは思えない。
「強いですねー、どの仕掛けも寄せも受け付けてくれなくて、うちの虹野姉妹と良い勝負するんじゃないですか?」
「ぃぁぃぁたまたまですよぉーw」
いちごはご満悦のようだ、実際に県大会で優勝してるんだから虹野姉妹と良い勝負だろう。
「中学で虹野姉妹の戦績はどうだったのでしょうか?」
黒猫先生は相手の顧問に尋ねた。
「代表には姉の百合がなりました、同じ地域で1人しか出られませんから、2人の戦績は勝ったり負けたりですが姉が勝ち越しますね、2ー1ペースくらいかな?先ほどの大将戦で最後の桂捨て王手ありましたよね?」
「あぁ有りましたね、カズが避けて投了になった」
「あんな何でもない王手が取ると詰んじゃうんですよね」
「え?嘘だろ?あれ取ると詰む?」
黒猫先生は盤面に駆け寄った。何気ない思い出王手だ。
同歩でも同銀でも良さそうに見える、