驚愕のマジック【2】
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「つまり、あの鉄塔が3つだけでなく、ほかにも幾つもあったってことですか?」
樋宮さんはいつになく真剣だ。
「ええその通り。松城市だけで」 木村は机でのんびりしているポール君の甲羅を触って操作し私たちに見せる。 「こんなに」
松城市の全体図に赤い点がいくつも表示される。
「で、県全域に調査範囲を広げると」
次はわが県全域の地図に変わり、再び赤い点が表示される。
「ん…県全域が埋め尽くされているわけではないんですね」
樋宮さんが指摘する。
「ええ、北東部や北東部から西部の中心地が特に多いですけど、他の地域はぽつぽつです」
見ると、私たちが住む北西部の周り、次いで県の中心地辺りが多いが、そのほかの地域は本当にぽつぽつといった感じだ。
「もしかして人口に比例しているんじゃないか?」
私の単なる思い付きだったが、割と鋭いのではと自画自賛し、心浮かれる。
「それも考えましたよ、でも」
「それなら中心地が一番多くなるはず・・・」
「樋宮さんはやっぱり鋭いですなぁ」
「でも、もしかしたら中心地は鉄塔の分母が小さいのかもしれないし」
「川田さん、実は次のデータを見れば答えは瞭然なんですよ」
そういうと木村は再びポール君を操作する。すると甲羅に表示されていた、そのままゆるキャラになりそうな形をした我が県が小さくなっていき、関東全域がポール君に映し出される。
「うーん、少し見にくいですかね」
そういうと木村はさらに操作し、部屋の明かりを落とした。途端ポール君の口から光が照射され、部室の壁一面に関東地方が現れた。
「我が県の“例の”鉄塔はこれです」
すると関東地方の右下にある我が県に先ほどの印が出てくる。
「どこかで分かっていましたけど“あの”鉄塔が、関東全域にあるのですか」
樋宮さんの顔は引きつっていた。
木村は無言で甲羅を触る。すると関東地方全体に赤い点が―――いや、その点たちは明らかに、
「東京中心に広がっている!?」
私は素っ頓狂な声を上げてしまう。
木村がゆっくりと、うなずいた。
それにしても凄い数である。東京中心に星雲のように広がる無数の赤い点。まるで満天の星空、というよりその姿は神秘的な星雲のようだった。そしてこの神秘的な空間を醸し出している赤い点は全て“あの”禍々しさを放つ鉄塔―――私は唾をごくりと飲み込んだ。
「日本全国には“あの”鉄塔はないんですね」
手を顎に当て考え込んでいた樋宮さんが顔を上げずに言った。
木村はうなずく。
「日本の関東、それも東京の周りだけです。それ以外は海外を含めてどこにも“あの”鉄塔はありません」
「では東京に何かがあるということですね」
「それが何かは全く分かりませんし分かる方法は皆無ですがね。」 木村は一呼吸置く。 「でも、もう一つ奇妙なデータが取れました」
木村はげへへと笑い、甲羅を鍵盤でも叩くようにタップする。すると、壁に浮かんでいた星雲の色が薄くなり、代わりに東京の西部に一際大きい橙色の円が浮かび上がる。
「ここで、他の“鉄塔”とは一線を画す―――具体的には鉄塔三百基分ほどの大きな反応がありました。別にここに多くの“あの”鉄塔があったわけじゃない。むしろここには一基しか“鉄塔”はなかった。つまり三百基分の“力”がその鉄塔一基だけによって放出されていたということです」
「木村先輩、なにか案があるのですか?」
「ええ、一つご提案が」 木村は爽やかにニヤリと笑う。 「突撃しましょう」
「え! ここにか!?」
私は会話に割り込む。
「ええ、そうですとも。他に一体何があるっていうんで?」
「しかし、危険じゃないのか?」
「多少は、ね?」
「多少って・・・」
「それに、他に案もないのですよ。相手は科学なぞでは解明できない相手。じっくり考えてなにか他の方策が考えつくとは思えませんけどねぇ・・・」
「あまりに無計画だ! 突拍子もないことを言うな!」
そこでずっと俯いていた樋宮さんが私たちに向き直る。
「分かりました、明日、行きましょう」
「あ、明日!?」
私は声が裏返ってしまった。
「何も明日じゃなくても! 明日世界が吹っ飛ぶってわけじゃない!」
「ええ、分かりました。では準備しときますね」
木村は私の言葉など聞いていないようだ。木村は「あれがあるし・・・あれもしないとなぁ」などとブツブツ独り言を言いながら部室を出ていく。
すると、樋宮さんが立ち上がり私のほうへ近づいてきた。
「先輩、我儘言ってすみません」
そう言って樋宮さんはぺこりと美しくお辞儀をした。樋宮さんの目は見えないがきっと沈んだ色になっていることだろう。私は先日、木村から聞いた話を思い出していた。私は何も言えなかった。