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13.meaning

「なんで、わざわざ俺たちの前で死んだの」

千代が呟いた。女が答えることはない。赤い血溜まり。こめかみを撃ち抜いた死体は、ドラマを誘うような哀愁など無い。立ち尽くす俺と千代と、市谷。揺り起こしたり、泣き叫ぶなんてことはない。何もかも、塵一つさえ宙に固まっているようだ。

「こんなのが欲しかったんじゃない……」

無表情の千代が言った。


何の感慨も湧かない。

神なんているのか?


まだ暖かい血液が、地を滑っていく。白衣の白が赤に変わる。


俺たちが自由になる代償。間違ってるのは誰だ?


「行くぞ」

短い言葉で先を促したのは市谷だった。

―なんで、あんたが。


俺がこんなことしなきゃ、この女はまだ。―

ふざけるなって、狂気の怒りに任せて俺にその銃を向けたって、俺は別に驚いたりしない。それなのにそうならないのは、きっと市谷が肩代わりしてくれているからだ。

俺たちが隔離されていたこと。脱走という背徳。『美樹』の死。俺が知らない、正しいと言えないこの世に溢れた数えきれないこと。矛盾の穴埋めみたいな犠牲。そういう時代で、そういう社会だということ。

ただの一言も責めないのか。俺たちを?

自分が被害者だと言い切る自信がない。

これじゃない。それじゃない。どれでもない。俺は役に立たない。


「瞬」

市谷に呼びかけられる。

せんせぇ、あんたが俺にかける声は何ていう種類だ?

愛なんて知らねーけど、この女が大事だったんだろ。なぁそうだろ?そのくらい、何も分かんねー俺だって気付くんだぜ。俺はどうすればいいんだ?『美樹』、あんなに優しそうに笑っていたのに、なんでそういうことを教えてくれなかったんだ。

俺たちに最後のチャンスをくれるくらい、たった少しだけ気前良くしたって悪くなかったんじゃないのか。

なぁ分かんないんだろ。その血の中じゃ、俺たちの、『戻って来てくれ』、なんて。

多分今ここにある、どうしようもなく歪な感情のかたまり。

もう見ることは出来ないだろうけど、もしかしたらこれだって。違うのか?

愛と呼ぶかもしれないのに。


無力だなんて知りたくない。


「瞬、これとお前とは関係ない」

市谷が俺を気遣うように言った。

「…どこをどうしたら、そんな台詞が出てくんだよ。あんたの恋人を殺したのは、俺だ」

道徳なんかいらない。俺には、必要なんだ。生きていくのに事実と結論が。

「……きついなあ随分…」

千代が独り言みたいに言った。悪い。でも今俺にはそれが必要なんだ。

重い、そんなの分かってる。市谷、出来ればそれを、俺に背負わせてくれ。庇わずに。『辛い』とか『痛い』だって、俺のものだから。

生きてりゃ欲しくもないもん抱えなきゃいけない時だってあるだろ。生きてんだから、そうだろ?

頼むよ。どんなやり方だっていいから、生きてるって、教えてくれ。それが無理なら証明させてくれ。

俺に。

辿り行く全部に意味があることを。




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