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◇序章


このお話は、事実や歴史をガン無視して作られた言わば月詠の妄想をお話にしました、ってだけのグダグダな物語です。


安倍晴明様を最大限格好良く見せる術を探しながら記しているため、皆様には見苦しいところもあると思います。

それでも一生懸命書いておりますので、宜しければ完結するまでお付き合いください。





化狼として生まれた少女の葛藤と、陰陽師として尽力していく姿を上手く描写できていたら嬉しいです。

恋愛事情なども多少組み込まれる予定ですので、その辺も楽しんでいただけたら幸いです!



序章 ―忌み子、この世に堕ちん





数年前までは、この宰河村さいかむらも旅人で賑わう宿場で栄えていた。

しかしここ最近は、都を襲う大飢饉の影響がこの宰河村まで魔の手を伸ばしている。

極端な日照りが続き、その上雨が全く降らないために川が干上がってしまっている。水不足に次いで作物も不足し、宰河村から去っていく村人が後を絶たない。


そんな中、宰河村ではある噂が流れ始めた。

『この村が不作になったのは、忌み子が生まれる前兆だ』や『その忌み子を殺せば、この不作は終わる』等、最早現実から目を背けたいが為に誰かが言い出したにすぎない事実無根な内容が殆どだ。


噂が流れ出して間もない頃、地主の家の娘が子供を授かったという朗報が流れた。しかしその朗報に重ねるようにして、その子供こそが忌み子だと有りもしない情報まで流れてしまった。

それからというもの、毎日のように村の人が地主の家にやって来てはその子供をどうにかしてくれと泣きながら頼みに訪れた。


地主はどうしたものかと悩んではいたものの、人に言われたものが気になる性分が悪い方に転んでしまった。赤子が生まれてから一年が過ぎたある日、今すぐにでも殺してしまおうと言い出したのだ。


もし本当に忌み子だとしても、母親の身になればどんな子であれ愛しく感じるものだ。頼むから殺さずに済ませて欲しいと頼み込むも虚しく、村から少し離れたところにある山にひっそりと佇む神社の前に埋めることになった。



ついに赤子を埋める前日になり、どうにかして命だけでも助けてあげたいと考え抜いた末に、母親はこっそりと家を抜け出した。


そして子供を埋める予定の神社まで行くと、どうか死なずに生きて欲しいと願いを込めて境内の隅にそっと寝かせた。涙を流れるのも気にせずに、持ってきた懐刀で自らの左胸に深く押し込んだ。









消えた忌み子とその母親の話がようやく消え去った頃、宰河村は漸く以前のような賑わいを取り戻しつつあった。


そんなある日の事、この辺には滅多に来ることの無い高価な牛車ぎっしゃが地主の家の前に止まっていた。

何事かと集まった村人を他所に、長くはない会話を終えた貴族と思われるの男性が地主の家から出てきた。


長い藍色の髪の前髪のみを後ろに撫で付け、白い烏帽子を被っている。

冠直衣(読みは「かんむりのうし」で、一般に貴族の部屋着)を着ていて、その素材も人目で高価なものだとわかる。


男性の隣には白く美しい狐が寄り添っていて、興味津々といったように訪ねてきた子供達には「式神」というものだと説明していた。


式神というのは、陰陽術などの不思議な力を使う者が、ある特別な儀式を行った紙に対して呪文を唱える。

そうするとその紙が、人になったり動物になったり、或いは自分や目上の人の分身となったりもする。簡単に言えば、少し風変わりな紙切れだ。


扇子のようなも(よく見ると普通の扇子とは形状が違う)ので口元を隠し、男性は微笑みを浮かべるだけだ。

それから少しもしないうちに牛車に乗り込み、不思議な狐と共に去っていった。


貴族の男性が、しかも都で今名を轟かせている凄腕陰陽師の安倍晴明がこんな田舎来たのか。

確かにそこらの村より確かに際いもあり人の数も多いが、言ってしまえば此処だって他と何ら変わらないただの田舎村だ。


地主はといえば、先程から青ざめた顔をして黙り込んでいる。

家の使用人や彼の妻も同様で、安倍晴明との会話が原因でそうなったことは確実と思われた。



「ご主人、少しお休みになってください…」



力なく肩を下ろした地主に対して、使用人は心配そうにして話し掛ける。

周りの家族も同様にそう勧めるが、地主は出掛けてくるとだけ言って家を出た。








後から村人の一人が聞いた話だが、あの日行われた懇親会と称された話し合いは、昔亡くなった忌み子とその母親についてだったそうだ。


どうやら忌み子というのは、素性は違えど本当に人の子ではなかったらしいのだ。

母親である地主の娘自体が、父親である地主の血を分けた本当の娘ではないのだ。

どういうことか、これを聞いただけでは殆どの村人は首を捻るだけだ。

しかし少し掘り下げて話を聞いてしまえば、誰もが恐れ慄くに違いない。


娘だと思われた女、彼女の名を“りつ”と言うが、その葎と言うのは拾われた子で、生まれも育ちも詳細は不明な点が多かった。

それでも可哀想だと思った地主が葎を預かり、初めのうちは下働きとしていたのを大きくなってから正式に自分の娘として公表したのだ。

なのだから、地主と葎は血の繋がりは一切無い。


葎が身籠ると同時に他界した婿養子の“一夜ひとよ”こそが、本当の『忌まれし存在』だったのだ。

彼は元々掟を破り一族から追放された『化狼』という存在なのだ。

葎に見初められた一夜は婿養子として齋藤家(地主宅)に入り、化狼としての自分の子孫を残すために、聞こえは良くないが葎を利用したのだ。


そうして生まれた子が忌み子として戒めを受けせうになり、薄々事実に気付いていた葎が命と引き換えにと赤子を境内の隅に残したのだ。

赤子の名前は咒音じゅいんといい、彼女は今でも生きている可能性が高いということだ。


それを晴明から聞いた地主が、もしかしたらあの神社に咒音が遊びに来ているのではないかという思いが芽生えたのだ。

それから少ない望みにかけて、ほぼ毎日のように神社に通いつめるようになった。


どんな忌み子だとしても自分の孫には代わり無いのだと、今更になって気付かされたのだった。

あの日訪れた、陰陽師安倍晴明の話によって。




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