神託
尻切れですが、今回で一区切りとします。
後書きも少し書いておりますので、よろしければご覧ください。
短い間ですが、ありがとうございました。
教授棟で亜理亜と報告書の打ち合わせを終わらせた後、それぞれ少し時間を空けて一階まで戻ってきた。
残っている片付けを終わらせる必要があるのに、昼には大人たちよりキツイお叱りを受ける予定なので今から億劫で体は動きたがらないでいる。
……。そうは言ってもそれを処理して元の状態で児童館の部員に明け渡さなければそちらでも角がたつわけで、まったく打ち上げなんかしなければ良かった。昨晩をもっと上手く立ち回れていればこんな。
……いや、昨日の夜の事を思い返すのはよそう。
結局のところ何を考えても嫌な気分になる頼りない心持ちのまま児童館のロビーへ戻ってくると。
「え……終わってる」
夢かと思った。児童館のメインフロアはいつでも店を開けられる状態にまで整えられていた。クリスマスを思わせる装飾や商品は店頭に一切見当たらず、バックヤードにて処分ないし箱詰めされ、最低限の処理が完了していた。当然こたつや酒の類なども痕跡一つ残っていない。
ついでに、静まり返った綺麗な店内には亜理亜も含めて昨日のメンバーの姿もない。まるで昨晩の、ひいては25日に至るまでの全ての出来事が幻だったかのような感覚すら覚える始末。今朝から物凄く頭も痛いし……。
「…………ん?」
そんな風に混乱しながら店内を徘徊していても、開店までにチェックしなければいけない細かい部分は自然と処理をする。染みついた習慣は自分が少なくとも書店員であるということの証左に思えた。そうして周り終えて、無意識にこたつのあった窓際の空間に戻ってくると、そこに一枚の紙が落ちているのに気づく。
それは23日から昨日までの三日間の児童館部員のシフトを割り振り、皆に配ったものだ。
それを拾い上げ、何気なく裏返してみると、そこには縦書きの小さな字で
「仕切り直し」
と書いてあった。
……。
初見では理解できなかった。その目的も、誰に宛てたものなのかも。
……でも、これはもしかしたら――。
…………。
……。
以上が、この年の冬に起きた騒動の全容である。
この後はあの春が来るまで以前とほぼ変わらない日々が続くばかりであった。
至流はますます書店部中心の生活になったものの、相変わらず快活で非現実的なことばかり話している。
亜理亜は何も変わっていない。結果として冬商戦の功績を享受し、順調にその地位を内外で確立してきている。更に口うるさくなった。
奈留も変わらない。俺との距離感も変わらない。俺は少し彼女に嘘をついたけど、何も変わっていない。
その他の面子、円城もアオイもそして俺も、平行線という言葉が相応しいほどに過去からの延長を変化なく過ごしている。
変わらないことは良いことだ。
確かにクリスマスに俺と亜理亜が別れたという変化はあった。でもそれは彼女にとって責任感からの解放であり、俺が彼女に伝えられていなかった感謝の言葉を言うことができたという良い部分もあったのだ。
至流とのやりとりも、亜理亜が背中越しに見せる視線も、奈留が書く小説の内容も、あれから少し俺は避けている気がするけれど、そんなことは情緒不安定な俺の個人的な事情であって彼女らの何かが変わった証左ではない。
……変わっていないと思うことは、きっと不純な精神なんかではない。心を健全に保つための自浄作用だ。
俺は、冬に見た蜃気楼のような幻想に少し後ろ髪を引かれている……それだけだ。
校門で亜理亜に会う前に本部棟の明かりが消える瞬間なんか見ていないし、二人して児童館に入ったとき、暖房の利き過ぎた室内で奈留が寒そうに(まるでついさっきまで外にいたかのように)していたのも気のせいだ。そして翌日見つかったあのメモ書きには、責任から解き放たれた誰かの底知れぬ思いなんかも、当然含まれてなんかいない。
全部俺が勝手に思い込んだ妄想。あの夜にそれら全てがつながっていて、その結果が今だとしても、俺は何も変わっていないと信じている。
…………。
……それでも、
もし、その先にまたあいつと交差するようなら。
その時は、俺はあいつを救ってやりたいと、そう思う。
お読みいただきありがとうございました。
また、長期間更新が滞ってしまい申し訳ありませんでした。
私が再び筆をとることは無いと思っていた時期もありましたので、縁とは有り難いものだと実感した一年でした。
過去の活動報告と一部重複しますが、本作について少し説明させていただきます。
「書店部の内部事情」は元々別の表題で世に出したノベルゲームの前日譚にあたります。
書店部~蜃気楼を経て若干悟り気質な主人公が、登場人物たちの闇と向き合い共に乗り越え、最終的に自分と玲菜の出生の秘密という命題に直面する物語でした。
ノベルゲームのためマルチエンディングとなっており、テキスト量はここで公開したものより多く、また今よりも稚拙な文章で構成されているため、恐らくそのままの内容で再び世に出すことはありません。
しかしながら本サイト内で投稿した書店部が不完全燃焼で終わるという不誠実はいずれ贖罪させていただきたいと考えております。
もし次に新たに作品を投稿できる運びとなった暁には、また一から私を知っていただければと思います。
その際に本作をブックマーク頂いたユーザー様には新作の告知などを書店部の次話投稿というかたちでさせて頂ければと存じます。
また、本作はこれにてしばらく投稿を控えさせていただきますので、評価や感想など頂けましたら幸いです。
長い後書きとなりましたが、この辺りで締めくくりとさせていただきます。
本当にありがとうございました。
またどこかでお会いできればと願っております。
京介




