溶けてなくなる
ユーリンはむせて咳き込み、ニヤニヤ笑みを浮かべて乗り気な様子。
俺は、複雑な気持ちだった。まあそれはいい。
残る亜理亜の顔は一晩経った今でも印象的で脳裏にはりついている。それは哀しみにも空虚にも見える究極の無表情で、けれど今にして思えば必死の顔だったのだろう。
……ああ、そうか。ようやく分かった。
秋篠さんは気づいていて、あえてその提案をしたんだ。戻ってきたユーリンたちの様子が変だって察していたから。まったく、相変わらず彼女は一番苦手なタイプだ。
俺と円城さんが概ね同意の意思を示すと、超がつくほど真面目な亜理亜はやがて深刻な顔をし始めた。俺たちは彼女が反対してきたら別の方法にしようと考えていたけれど、意外にも「順番は最後に」と亜理亜の方から譲歩してくれた。
しかし、このときの俺は単に亜理亜も俺たちの悪ノリに付き合ってくれるんだ、としか思っていなかった。その前に見せたあの表情は気にはなったものの、今日は忙しかったし、色々とお互いに油断していたのだと思う。色々と、ね。
そして彼女を除いた三人が、まあ当たり障りの無い秘密を告白し、甲乙つけがたい状況の中で亜理亜のターンが回ってきた。
「……」
しかし自分の番になっても亜理亜は顔を上げようとはしなかった。偶然にもこの時、俺はその本質とは別なところで彼女の様子について考えていた。高校時代から何度か面識はあったが、あの頃と比べると随分色々な表情が見られるようになったな、と。
それは単につるむ機会が増えただけかもしれないし、年を重ねて変化していったのかもしれないし、そのどれでもないのかもしれない。俺は無意識にアイスを食べる手を止めていたユーリンに視線を向けた。
……って、なんだあいつ。アイス溶けきってるじゃないか。
ここに来てようやく、またしても本質とは少しずれた部分で、二人が部活で店内を駆け回って大忙しだったことを思い出していた。
「今日は特に疲れただろうし、亜理亜が先に選んでもいいんじゃないかな」
なので、皆が振りづらい提案を俺から出してみることにした。誰だってアイスの選択枝が第一なわけじゃないのだからこれで全員安心できるはずだ。あとの三人で暴露内容の格付けをして順番を決めればいい。もう俺は何だっていいし……。
「いえ、結構よ」
ーーしかし、亜理亜にも変わらない部分があった。
負けず嫌いとかルール遵守とかそういうものではなくて、多分、自分の気持ちに実直であるとか、そういう……。
「さっき、悠里と別れた」
その後は、魂の抜け落ちた俺と、苦々しい表情をした女子二名、泥酔しきった元カップル、そして、結局誰にも手をつけられず箱の中で溶けきってしまったアイス五個が、真夏の様な温度の室内でやるせない感じに渾然一体となっていたのだった。




