冬の蜃気楼⑩
「ていうか奈留さ、円城のこと知ってただろ」
「うん……ていうか同級生で知らないのは瀬名君だけだよ」
申し訳なさそうな視線を向けながら奈留はそうのたまう。
芸能人が亡くなればすぐ店頭に追悼コーナーを立ち上げるほどの情報通の俺がなぜそんな遅れを……って、あれか。
「そうそう、店長浪人しちゃってたから入学式の時顔合わせてないんだよね」
そうでした。二人といると感覚ないけど英クラの面子とかみんな年下なんだよなあって感じてちょっと寂しいんだよね。
などといらぬ脱線で納得しかけたが、この一週間で結構大学と書店部の話を三人でしてきたよな。二人とも徹底して避けてきたのは何か変では?
「うん、まあそれは……」
「し辛いよね」
「「本部の話は」」
……。
一瞬、その言葉が何の意味を持つのか本気で分からなかった。そういう意味では今の俺は今を生きているという、つまり良いことなのかもしれない。
「……悪い」
でも、とっさに謝ってしまうのは、笑って二人をなだめることができないのは、やっぱり自分でもまだ意識したくない部分なんだな、って。
「秋篠さん?」
「ん、何でもないよ」
奈留が右手を恥ずかしそうに後ろに回していた。まるでその手を見せたくないかのように。
結局のところ、二人は俺の事を気にしてくれていて、円城なんかは特にもう片方のことも気にかけながら、こうして俺の傍にいることを選んでくれたのだ。
ならば、もう俺が二人に意見する道理なんてない。
「にしても俺、この半年で円城を講義室はおろか校内ですら見かけたことなかったな」
「本部勤務の部員は必修免除だよ。もうほぼ大学に籍だけ置いてる社会人だからね」
俺は自身の邪推に嫌気がさして円城に話をふることにしたのだが、その返答の突飛さのおかげで色々と気持ちが切り替えられた。
必修免除とかいうワードは流石にチート過ぎるだろ……。
「さて、そんな出世コースから脱落した女子大生を店長はどうしたい?」
「お前辞令ロマキャンして本部帰れよ」
なんか店舗勤務っていうか俺の部下みたいな扱いじゃん。学年一つ上ってこともあるしそんな子抱えたらもっと孤立するわ。
「とはいっても僕は店長の下で働くために異動願いを出したんだよ。部活なのだから好きな子同士で遊びたいよ」
「ここに来て部活要素持ち出すとか相当アレだなお前……」
一理あるはずなのに附属高校の一年くらいで捨て置いてきた見解だったわ。なんかこいつはガチ上司にもまじでこの理由で異動願通してきた気がしてきた。
「この際だし、秋篠さんも店舗勤務にすればいいよ」
「同人館は正確には書店部員ではないの。それに今のコンサルタントの立ち位置が気に入ってるから」
円城の提案に背伸びした言い返しをする奈留。まあ書店部員はがっつり接客もあるから奈留には無理だな。
「なるほどね。顧問探偵か」
言って、円城は二ヤリと笑い、奈留は少し目線を下げた。
何となく円城の笑い方に亜里亜の顔がよぎったのだが、それを追求する前に視界の端にとある人物を捉えたのでまたしても思考は急旋回した。
「ちょっと俺昼食べてくる」
「今から? ……うん、わかった」
話し合いをするつもりだった円城に、目線でそちらを見るよう誘導して察してもらう。
ほぼ返答も聞かずに俺はそそくさと雑誌館を後にした。
俺の視界の隅に、講義を終えて店頭に顔を出した銀髪の元後輩の姿が目に入ったからだ。




